第二百十七話 リクエストされた新作レシピ
翌朝、タージさんが珍しく新作レシピをそろそろくれと言ってきたんだ。
忘れて居たわけじゃないけど気持ち早いな、とは感じたが特に気にすることなく分かりましたと返事をしたのだけどタージさんから初めてメニューのリクエストがあった。それはデザートになるような物。それならケーキ系かなと思い、ロールケーキを作ってみる事にした。
ホールケーキでも良いんだけどデコレーションのクリームが上手く塗れる自信が無かったからね。ロールケーキなら巻くだけだから何とかなると思ったんだ。
タージさんには材料をそろえてお店に行くから昼休みの時に厨房とオーブンを使わせてもらえるようにお願いをしていた。
市場に行くといろいろな人から「おめでとう」とか「やっと年貢を納めたか」と声を掛けられた。何のこと? って聞くと「嫁さんを貰ったんだろう」とすでに市場の方まで昨日の話が知れ渡っていたのには驚いた。
あっ、常連さんがお祝いだといろいろ持ってきてくれたからきっとそこからか……
あちこちで冷やかされながら必要な材料を買い揃えていき、うまいっ亭にやって来た。
使う材料は卵3個に小麦粉70gに砂糖80gと油25gに牛乳30g 後は生クリームと果物を適当に。
これが一本分になる。
今回はタージさんが隣で一緒に作りながら覚えていくとかで同じ分量の材料を2つ用意して作業を始めた。
初めに小麦粉をふるいに掛けてサラサラにしておく。次に卵を卵白と卵黄に分け、分量の半量の砂糖を少しづつ加えながら角が立つくらいまで泡立てる。卵黄も残りの砂糖を加えながらよく混ぜ合わせ、そこに油と牛乳を加え更によく混ぜたらここに小麦粉を加えて粉っぽさが無くなるまで軽くまぜ合わせる。生地に空気を含ませる感じで混ぜると焼いた時にフワッと仕上がるよ。
さらにここに卵白を3回に位に分けて混ぜ込んで行けば生地の出来上がりだ。
オーブン用の天板にシートを全面に敷き生地を流し込んで均等に延ばしていこう。伸ばし終わったら空気抜きの為に天板を少し持ち上げて落とす。あまり高いところからすると生地が飛び跳ねるからほどほどの高さでやろう。
ここからは焼き上げに入る。あらかじめ180度に温めておいたオーブンで10分~15分程焼く。
焼きあがったら天板から外し冷まそう。その間に生クリームと果物を用意しておこう。
生地が覚めたら生地全体に生クリームを塗り、手前の方(巻き始め側)に多めにクリームを乗せ、用意した果物を乗せたら端と端を重ねるようにシートを利用して一巻き。あとは優しくシートを剥がしていけば出来上がりだ。好みの厚さに切って召し上がれ。
「こんな感じですがどうでしょうか?」
「おう。大丈夫だ」
「この上からこし器で軽く砂糖を振ったところに何か飾ると見栄えもよくなりますよ」
「おう。そうだな」
出来上がりを見比べると初めて作った割にタージさんの方が上手く出来上がっているように感じでちょっと悔しい。でも、さすがプロは違うと改めて感心したよ。
「では試食してみましょか」
「ちょっと待って!」
傍で見ていたミハルさんからなぜかストップが掛かった。
「お茶を入れるから私たちも食べるわよ」
なるほど。そう言う事か……
「わかっていますよ。みんなで試食しましょう」
ミハルさんとミリアさんの分も切り分け……
『おい。我らの分も有るんだろうな』
『レーちゃんも食べてみたいなの~』
『俺も食うぞ』
そうね。忘れていたわけじゃないけど、足りるかな……
「試食だからね。一口しかないからおかわりは無いからな」
『なに!』
そんな不満そうな顔をされても無いものは無いのだ。
俺の作った方を従魔たちに。タージさんが作った方をみんなで試食した。
『量が少ない』とブウブウ言いながらルーバもレーちゃんもホンちゃんも美味しいと言いながら食べていたよ。えっ、親鳥さん?
そう言えば今日は見てないな……もしかして神界に戻っているのかな??
みんなの感想は上々だった。
ミハルさんは「このクリームとフルーツの量が贅沢よね」とご満悦。
ミリアさんは「もう少しクリームが甘くても好いかも……」と呟いていたが、「でも包んでいる皮と一緒に食べると美味しいわ」と顔を綻ばせていた。
「それはスポンジと言うんだよ。それにクリームの甘さは砂糖の量で調節できるからね。好みの量を見つけるのも楽しいよ」
タージさんは「見た目は地味だがその分飾りつけで派手さを演出できるな……」なんて何か考え事をしているのか独り言を言っている。
「よし。これで行けそうだな。文句なし」と言うと「おさらいだ」と言いながら再度作り始めたていた。
「ルーバ。これからまた作るからな。出来たら食わせてやるぞ」
『おぉ~ さすがタージだ』
ルーバよ。もうこの店に居付いたらどうだ??




