第二百十四話 先が思いやられるよ
強引なマリーサさんをアシストするクラム。ほんとどうなってんだよ……。
取り合ず、1階に空間魔法で部屋を増やし、そこをマリーサさんに使ってもらう事にした。くれぐれも2階には行かないように釘を刺したけどたぶん効いてないよな……。
荷物を置き、早々に店頭に立つマリーサさんにマルサールとリョウタ君を紹介しておく。
「私はマリーサ。チョコラさんの押しかけ女房です。女将さんと呼んでくれて好いわよ」
「マルサールです。よろしくお願いします。女将さん」
「女将さんじゃないから!」
「なに照れてんのよ! 可愛いわね」
「女将さん、リョウタです。よろしくお願いします」
「あら、あなたが今回の功労者ね。よく頑張って王都まで来たわね。こちらこそよろしくね」
「だから、女将さん呼びは禁止!」
「あら、良いじゃない。いずれはそうなるんだから」
「先の事など判りませんから! とにかく、一店員として働いてもらうけどそれだけです」
まったく……ほんとに困ったもんだ。
夕方になりキッカが戻って来た。新顔のマリーサさんを見て驚いていたが、経緯を話すと大笑いをして「店長にはこのくらい押しの強い人がちょうど好いわよ。良かったじゃない」とあっさり受け入れていた。
「そっか。女将さんと呼んで欲しいのね。いいわよ。女将さん」
「だから、女将さん呼びは禁止なの!」
「あら、遅かれ早かれそう呼ぶんだったら今から言っても良いじゃない」
「そうよね。キッカちゃんは私の味方ね~」
「店長ももうすぐ30でしょ。年貢の納め時よ」
「まだ30には2年あるし……」
「2年なんて直ぐよ。はやく子供作らないと育てるのも大変よ」
「……」
「キッカちゃんの言う通りよ。早く子供を作れば周りも安心だしね」
なんで子供の話までになるんだよ……
「と、いう事でみなさんよろしくね」
「はい。奥様」
「おくさま~~~ 良い響きだわ」
「それも止めろ!」
「じゃ~店長婦人」
「…………」
「もう諦めて受け入れなさいよ。店長もこのままだと一生独身よ。それでも良いの?」
「大きなお世話だ」
「そうね。これ以上のお世話は無いから国王陛下に感謝することね」
露店を出すようになってから大人びたと言うか口が立つというか…… 最近はキッカに言い負かされる事が多い気がしていたが、もう勝てないかも知れないと感じさせられた瞬間だった。
結局、女性陣のリードで女将さん呼び禁止が廃止されマリーサの呼び方は女将さんに決まった。
当然、マルサールもリョウタ君もそこに口を挟む勇気などなくただ成り行きを見守っていた。
ただ、神獣たちだけは違った。
『いくらチョコラの嫁だからと言って我らに命令できると思うなよ。俺らが従うのはチョコラだけだ。覚えておけ』
「わかってるわよ。さすがの私でも神獣様たちにお願いなんて出来ないわ」
『ならば良い。せいぜいチョコラに尽くしてやれ』
「えっ、ルーバ達は賛成なの? 俺の味方じゃないの?」
『ふん。興味もないわ』
『そうだな』
『レーちゃんは美味しいのが好きなの~』
『…………』
あっそうですか……
どうやらマリーサさんの方が一枚も二枚も上手だったようだ。
「当然でしょ。はなから店長が女将さんに敵うわけ無いじゃん」
頼むキッカ…… 追い打ちだけは止めてくれ




