第二百十三話 なんでそうなるんだよ!
マリーサをよろしく頼むと言われ、返事も出来ぬうちに執務室から追い出された俺。部屋の中に居るクラムの腹黒な笑いが見えるようだった。
後の事は店に戻ってから考えるしかない……。
リョウタ君親子と合流しようと部屋の前に居た護衛さんに居場所を聞いたら既に店に送り届けていると教えられ、ルーバに乗せてもらって一人岐路に付いた。
店に戻るとサナエさんが出てきて報奨金のお礼を言ってきた。別に俺が出したわけじゃないからお礼を言われることは無いんだけど、リョウタ君の言葉を信じて動いてくれた結果だし、村の人たちにも名目はともかくとしてお金が支給されることで生活も出来ると村人を代表してお礼も言ってくれたよ。
ほんと、俺は騎士団を呼んだだけで何もしてないんだけど……
ちなみに金とミスリル鉱脈がある一帯は国で調査をし、直轄地として管理する方針だと言っていた。しかもその範囲にアスナル村も含まれるという事で新たな領主が赴任しても今回のように村人を焼き出すという非道な事件は起こらないだろう。
さらに、サナエさんはこの事を早く村の人たちに知らせたいからと村に戻ると言い、リョウタ君と最後の晩を過ごしていた。先日の話し合いの時にもいつかは親の元から離れて行くのだからいい機会だし、俺の元なら安心が出来るとからとお願いをされている。15歳にならないと神職目録開示の儀を受ける事が出来ないのでまだ育てる方向性は判らないが店番を通して人との関わり方をしばらくは学んでもらうつもりにしている。
翌朝、朝食を取った後サナエさんは泣いて見送るリョウタ君を抱きしめてから村に帰って行った。途中危険があるからとルーバに送らせると言ったら急に顔を青くして「大丈夫ですから」と後ずさりしながら断ってきた。やっぱ連れて来た時の恐怖はトラウマになったようだね。ごめんなさい。
サナエさんを見送った余韻がまだ消えぬ時、マリーサさんがやって来た。しかも大きな荷物を持って。
「チョコラ様、本日からお世話になりますのでよろしくお願いをします」
……忘れていた。
昨日はサナエさんから明日の朝に帰ると言われ、マリーサさんの事が頭から飛んだのだ。
「チョコラ様。聞いてますか!」
「いえ、今は現実逃避したい気分です」
「昨日はしばらく王宮をお休みすると言いましたが、あのあとクラムから解雇されまして、行くところがここしか無くなりましたのでこのように大きな荷物になりました」
ク~ラ~ム~~~ 何やってんだよ!
「そうそう。クラムから手紙を預かってきました」
手紙? どうせ碌なことしか書かれてないだろう……。
封を切り手紙を読むとこう書かれていた。
『チョコラ殿。この度は押し付けるような形になり申し訳ない。マリーサは先日も話した通り不遇な扱いを受け、存在自体も居ない者として扱われていました。それ故、母も私もマリーサを保護してからどうしたらマリーサが幸せになれるかを考えました。このまま王宮で私の世話をさせるだけでは余りにも忍びなく、かと言ってどこかの貴族に嫁がせるのもどうしたものかともどかしさを感じていたところ、チョコラ殿はどうかと思い付いたのです。チョコラ殿なら平民でありながらマリーサを守れる力と環境がある。この話をマリーサにしたところ「この話は王権を使ってでも纏めて」と凄い勢いで迫って来た。ここまで女性に言わせるチョコラ殿に少し怒り、いや嫉妬を覚えたが、可愛い従妹を預けるには遜色ないと私も自分に言い聞かせお願いをすることにしました。心より私に感謝をしてマリーサを生涯の伴侶として預かって貰いたい』
なにこの手紙……
「という事ですのでこれからよろしくお願いをしますね。あ・な・た」
「いや…… 伴侶って、無理です!」
「手紙にも書いてあるでしょ。王命って……」
「いや……でも……」
ふぅん? 王命? ちょっと待て、この手紙…… 本当にクラムからの手紙か? クラムはこんな表現はしないよな…… それになんか封ろうも違うような気もするし……
「マリーサさん。これ、本当に陛下からの手紙ですか?」
「そ… そうですよ」
「なんか疑わしいだけど……」
「う… 疑うならクラムに確認すると良いわ」
「そうですね。そうします」
「えっ、本当にするの?」
「しますよ」
「……」
俺はホンちゃんを呼ぶと王宮に飛んでもらいホンちゃんとの念話でクラムに確認を取った。
「そうですか。マリーサが私からと言って勝手に手紙を書いたようですね」
「やはりそうでしたか。おかしいと思った」
「しかし、私は書いていませんが、今、その手紙を承認することにしました。よってその手紙は私が書いた物と同じです」
はぁ~~~ なんでそうなるんだよ!
「だから言ったでしょ。押しかけ女房になるって」
勘弁してくれぇ~~~~~~~~~~~~~~




