第二百十二話 突然のお見合い
「ヘンダール領の領主になってください」
「はい???」
あまりにも突拍子な話に声が裏返ってしまった。
「と言うのは冗談ですよ」
してやったりと笑っているクラムを見てムカついた。
「でも、ヘンダール領に領主が居なくなるのは本当です。今回の処罰で爵位はく奪に伴い領地の没収を致しました。本人は罪人労働者として鉱山に送られ、終生出ることはありません」
「そうですか…… しかし、冗談も笑える程度にしてください」
「そうですか。でもこれから話をすることは冗談でなく、本題です」
「心臓に悪くない話でお願いします」
「ハハハ…… 心臓には悪くないぞ。逆に人生に華を添えるような話です」
「それで、その人生に華を添えると言うお話とは……」
「チョコラ殿に伴侶となる人を紹介したい」
「えぇ~~~~~~~~~~」
「チョコラ殿もそろそろと言うか、伴侶を貰うには遅いくらいです」
「いや…… 俺より陛下はどうなんですか?」
「私にはすでに婚約者はいますよ。公表していないだけです」
「……そうなんだ…って、当たり前か……」
「それで、紹介したい人を今日この場にお招きをしています。会ってみませんか?」
何? ここに居るから会えってか! そんないきなり言われも心の準備と言うか、何と言うか…… どうしよう……
「ははは…… チョコラ殿が狼狽えているところを2度も見られるとは面白いですね」
「う… うるさいな」
何が面白いだ! 俺はお前のオモチャじゃないんだぞ!!
「こう言うのは勢いが大事ですからね。宰相」
「ただいまお連れ致します」
「えっ、連れてくるの?」
「まぁ、会うだけですから。嫌なら断れば良いだけの事です」
「…………」
気持ちが落ち着かないうちに宰相さんが連れて来た女性は見た感じお世辞にも美しいとは言えないけど、どこか可愛らしさを感じさせる人だった。
「チョコラ殿ご紹介を致します」
宰相さんから彼女の紹介をされた。
「彼女はマリーサ様と申しまして、クラム陛下の母方の従妹です。しかし、諸事情が有りまして王族籍・貴族籍は所持しておらず、お立場的には平民としてお暮し中です」
「マリーサと申します。英雄様にお会いできて光栄でございます」
「あっ、チョコラと言います。でも英雄と言われるはチョット……」
「ハハハ…… マリーサ、いつものマリーサは何処に行った?」
「わ… 私はいつもと一緒です。変なことを言わないでください」
「そうか? でも一つ忠告をしておいてやろう。猫を被ったままだとチョコラ殿に嫌われるぞ」
「えっ、そうなのですか?」
「チョコラ殿に気品は要らん。要るのは一緒に店を切り盛り出来る女性だ」
「そうなのですか?」
「そ… そうだね。俺の店で4人預かっていて、店の子とも上手く出来る人が良いかな。もちろんお客様とも……」
「なんだ。そんなことで良いんだ。正直、この恰好は疲れるのよ」
「やっといつものマリーサに戻ったな」
「気楽にして良いならそうさせてもらうわ。改めて自己紹介をさせてもらうわね。私はクラムの……」
「陛下とお呼びしなさい」
「良いじゃない。クラムがこうしろって言ってんだから。私はクラムの母方の従妹って言っても、父が妾に産ませた子で認知されていないから貴族籍も何も無いの。でも、クラムのお母さん。叔母さまがね、弟の子であるのは確かだからと私を守るためと言うかなんと言うか、このお城でクラム付きの女官として働かせてもらっているのよ」
話しを聞いているととても快活的な子なんだ言う事は伝わって来た。
「それでね、クラムがいきなり縁談を持ってきて相手を聞いたら英雄だって言うじゃない。私で良いの? って聞いたら、王族や貴族は断られるのは目に見えているが、私なら平民だし行けるかもって言われて、会うだけ会う事にしたのよ」
あっ、本当に取り繕う事を止めたんだね。
「どうですか。マリーサはちょっと落ち着きが無いところは在りますが、女官の仕事を通じてそれなりの事は出来るように躾けてありますからお勧めですよ」
「なによ、落ち着きが無いなんて!」
「本当の事です」
「私はチョコラさんの事は時々だけど陰から見てたから人となりは判ってるつもりよ」
「……正直、いきなり言われてもって感じでなんと返事して良いのか……」
「そりゃそうよね。どうかしら、明日からしばらくお城勤めを休んでお店のお手伝いに行くってのは?」
「それは困ります」
「あら、どうして?」
「店の者にもお客にも説明できません」
「じゃ~ 押しかけ女房ってことで良いわよ」
「マリーサさんって押しが強い方なんですな……」
「そうよ。じゃないとお城でなんか務まらないわ」
「そうなんだ……」
「じゃ~ そう言う事でよろしくね」
「いや、ダメですって!」
「もう仲良くなったようですね。マリーサ。後の事は宰相が調整してくれます」
「ありがとうクラム」
「チョコラ殿、よろしくお願いしますよ」
よろしくじゃないって!




