第二百十一話 事件の全容と新たな提案
リョウタ君への褒賞が終わり、リョウタ君親子は退室し俺だけその場に残された。
「チョコラ殿には別室にてお話があります。宰相、お連れしてください」
「…………」
「ではチョコラ殿」
宰相さんに付いて謁見の間を出るといつも通される陛下の執務室。少し待っていると着替えを済ませた陛下と騎士団長のゴーラルさんが入って来た。
「待たせましたね。今回もありがとうございました。お陰でヘンダール領での不正を正すことが出来ました」
「いえ、俺はリョウタ君のお母さんを探しに行っただけですから」
「そうでしたね。よく見つけてくれました。お礼を言いますよ」
「でも、なんで村を焼いたんですか?」
「それはゴーラルから説明します」
「それでは、今回の事件の発端はヘンダール領の3代前の領主が残した日記にあります。それによるとアスナル村には金の鉱山があり、試験掘りをしていた結果ミスリルの鉱脈も見つかったと記されていました。更にはこの事が公になると争いの種になるからと採掘はせず、試験堀も中止されました」
「ミスリル鉱脈ですか……」
「はい。ここからはアスナル村の前村長から聞いた話ですが、古来よりアスナル村は領内でも屈指の薬草生産地で、この村でしか育たない薬草も多く在ることから3代前の領主は争いを生む鉱石より領民の役に立つ薬草を選んだという事です。またこういった情報はどこから漏れて外部からの探りが入るからもしれないという事からこの件は村長だけが口伝で受け継がれる重要事項で村民は試験掘りに失敗した跡地があるとしか知らされておりません。そして、森の監視をするために村民には収入を上げる目的で林業を推し進めて今の村の形になったそうです」
「あの……そんな大事な秘密を俺に話しても良いんですか?」
「構いませんよ。ゴーラル続きを」
「はい。場面が変わって領主邸での話です。一年前、急な病で先代領主と第一継承者がほぼ同時期に無くなり、第二継承者である次男のダルダモンが領主に就きましたが良からぬ噂も。それはひそかに暗殺されたという話です。今回のアスナル村の火事もチョコラ殿に魔法の痕跡があると助言もあった事から詳しく調べたところ、確かに雷系の魔法が使われ、村に火が届くように誘導されたことも確認しました。また、村のいたる所から採取した土からは油のような物が検出されており、村で火の回りが早かったのはこのためと断定しています。話はそれましたが村の火事が人的・作為的な事を自然発生した災害と虚偽の報告を受けていた事から、先代領主の病死も虚偽ではないかと疑い、故ヘンダール卿に対して不敬では有りますが墓を掘りお越し故人の骨を鑑定した結果、骨からも魔法痕が残っておりました。どんな魔法が使われたのか詳しく解析を急がせてはいますが、呪詛的魔法で間違いがないという事でした」
「呪詛ですか……」
「はい。これを基にダルダモンと配下の魔術師を尋問したところ魔術師からは法で禁止している凶術を用い、2年で目的を果たすという呪詛をダルダモンの命で故ヘンダール卿と後継者の二人に掛けたと供述を得ましたが、ダルダモンはそれを否定しています」
「……それで」
「しかし、ダルダモンの部屋から押収した物の中に3代前が残された日記が見つかっている事から鉱脈の開発を進めるために先代領主を暗殺し、アスナル村を廃村に追い込んだものと見ています。現に整地されたアスナル村で作業をしていた責任者によると鉱石の精錬所の建設をダルダモンから依頼をされたと裏が取れております」
「そうか」
「はい。現状での報告は以上です」
まさか金儲けの為に自分の親と兄弟を手にかけ、村の人たちまで…… そんなことを思うと胸が苦しくなってきてつい非難の言葉が口から出ていた。
「それが領主のすることか! 領民を守っての領主だろう!!」
「そうですね。チョコラ殿言う通りです。国王である私も同じ立場。国民が有っての国王。領民あっての領主です」
「そんな奴に領主を任せたのは誰ですか!」
「任命した最終的責任は国王である私にあります。世襲の慣例だけで任命をしていたのですから……。そこで、これを機に爵位の世襲は残しますが、領地経営に関しては適正でないと判断した時は領地の継承は認めないことに致しました。それで、チョコラ殿に提案です。ヘンダール領の領主になってください」
「はい???」




