第二百八話 副団長アルウェイ隊
騎士団がヘンダール領に入ってからの動きは早かった。ゴーラル団長が率いる本体が領主を拘束、副団長のアルウェイは村へ保全と村民の保護と隊を分け、それぞれの役目を果たした。
アルウェイ率いる騎士隊が到着した時は村の中心部というか、家屋があった場所は領兵の監視の中、すでに整地が終わっており技術者による測量も行われていた。
「フォーエン王国騎士団、副団長アルウェイである。国王陛下の命によりアスナル村は騎士団の管理下に置かれる。今この時を以っていかなる人の出入り、物の持ち込み持ち出しは騎士団の許可無くば全て禁じる。違反した者には罰則が与えられるものと心せよ」
「私はこの地の領兵長です。我ら領兵の指揮権は領主様にあります。領主様のご裁可を仰ぎたい」
「認めぬ。フォーエン王国に帰する何人も国王陛下の命より優先される命は無い。それと貴殿たちにはヘンダール公より何を命じられていたのかを詳しく聞かねばらん。すべての領兵を拘束せよ!抵抗する者は適宜対処を許す」
「それは無体な…… 陛下は何とおっしゃっておられる」
「陛下の命はアスナル村の保全と村民の保護、先日の火事の全容解明だ。今頃は陛下に対し虚偽の報告を上げたことでフォーエン公も拘束されているだろう」
どうしてこうなったと言う領兵長のつぶやきはアルウェイには届くことなく領兵は無抵抗のまま騎士団に拘束されていった。
領兵から村を解放した後、一部の隊員にテントの設営と村民用の食事を用意しておくように命じるとチョコラ殿が待つ避難場所に向かった。
神獣ドラゴンのホンちゃんに案内をされ無事にチョコラ殿との合流することができた。
チョコラ殿が居た避難場所には村人が25人。不死鳥親子が見つけた場所には16人。村人に案内された避難場所にも13人と合わせて54人の生存者を保護することが出来た。
保護された中に先代の村長が居て、消火時に亡くなった者、避難後に領兵の手に落ちたものなど不明者が18人いる事が分かった。その不明者の中にリョウタ君も含まれていたので俺が王都で保護していることを先代村長に教えてあげた。
アルウェイさんが先代村長に火事の時の状況を詳しく聞いた中に領主の思惑が見えて来た。
「この村は林業と薬草栽培で生計を立てておりました。しかし、昔はこの辺りで鉱石が取れておりまして、今回村民が避難した洞窟は発掘中に作られた空気穴と言われております。正式な鉱山の入り口は私も知りませんし、この洞窟が本当に鉱山の空気穴なのかも確証はありません。
あくまで言い伝えですからね。ところが、一年程前に先代領主様と長男の跡継ぎ様が急な病にお倒れになって今の領主様がお着きになったのですが、それからこの村に使者の方がよく来るようになりました。要件は村の明け渡しをせよと言う事でしたのでその度にお断りをしておりました」
「村の明け渡しですか……」
「はい。代替え地があっての移住なら村の者たちと話し合いも出来ますが着の身着のままでは私どもも生きてはいけません。お断りをすることしか選択肢はありません」
「なぜ明け渡せと言ってきたのですか?」
「わかりません。新領主様の決定と言うばかりでとても村の者が納得できるような話ではありませんでした」
「ところで、今の村長は何処に居らっしゃいますか?」
「半年前に私の息子に代を譲りましたが、消火中に村の者をかばって……」
「それはお辛い事で……」
「いえ、村の者を救っての事です。誇り高い事です」
「それでは現在は村長不在ということですね」
「はい。そう言う事になります」
「では、王命を受けた騎士団が命じます。騎士団がヘンダール領に駐留中は貴殿に村長を命じます」
「確かに承りました」
「では、隊員が用意した炊き出しで申し訳ありませんが、食事に致しましょう」
こうしてアスナル村は復興に向け歩き出すのだった。




