第二百七話 ホンちゃんのお使い
王宮に報告を頼まれたホンちゃんは神がかった速度で飛んで行き王宮に着いたのは良いが、どう入れば良いのか分からず悩んでいたが、そこは魔獣。人間のよう門で取り次いで貰うという発想は無く、また主に確認をするという発想も飛んでいて単に王宮に行き人間の長に伝えるという事しか頭になかった。
王城の窓からいくつかの部屋を覗いてみたら、昨日主と話していた人間を見つけた。
一瞬、窓を壊して入ろうかと思ったが、あとから怒られそうな気がして寸での処で思い直し、窓に張り付くとバンバン叩いた。
ホンちゃんが張り付いた部屋では国王であるクラムと宰相が話をしている所だった。
いきなりバンバンとけたたましい音に驚き、音がする方を見ると窓に小さなドラゴンが張り付いていた。
「陛下、こちらへ」
宰相は陛下を守るように前に出る。
「待て、あのドラゴンは昨日チョコラ殿が連れていたドラゴンじゃないのか?」
「……言われてみれば角が有りますね」
「危険は感じない。入れてやれ」
クラムの指示で宰相が窓を開けると、待ってましたとばかりに中に入って来たホンちゃんは
『お前、俺の主と話しをしてやつだな』
「その方はチョコラ殿の従魔か」
『俺はスモールホーンドラゴンのホンちゃん。創造主様の眷属である。今は訳あって主の元に居る』
「そうでしたか。失礼を致しました。それで神獣様が私に何か御用でしょうか」
『主からの伝言だ。アスナル村の住人が領主から逃れ隠れているところを見つけた。救助を頼みたい』
「何ですと!」
『領主に見つかると殺される。早く救援に向かえ』
「わかった。今すぐ騎士団長ゴーラルを呼べ。神獣様にはもっと詳しくお話をお聞きしてもよろしいですか」
『わかった』
クラムはゴーラルが来るまで村人たちの現状を聞いていた。ただホンちゃんの話はあちこち飛ぶので解りにくかったが、領主が村人を追い出すために火事を起こし、逃げた村人を捕えようとしている事だけは理解できた。
「騎士団長、ゴーラル・ゴードン殿がお越しです」
部屋の外から声が掛かり入室の許可を出す。
「お呼びによりまかり越しました」
「騎士団長ゴーラルに命じる。これよりヘンダール領に向かい火災にあった住民の保護と領主の一時拘束、そして火災の真相解明を命じる」
「はっ、しかし生存する住民は居なかったと……」
「それは虚偽報告の可能性が出て来た。こちらに居る神獣様はチョコラ殿の従魔でもある。神獣様の報告では火災に遭ったアスナル村の住民は今チョコラ殿が保護をしていて、領兵による村人狩りが行われているとの報告があった」
「それで領主の拘束ですか」
「そうだ。時間が惜しい。すぐに出動しろ。神獣殿、この者たちをチョコラ殿の元へ案内をお願い出来ないだろうか」
『良いぞ』
「この神獣様も人間の言葉が話せるのですか?」
「失礼があってはならんぞ。チョコラ殿の神獣様は格式が高いお方ばかりだからな」
「はっ。では神獣殿、案内をお願いいたします」
『引き受けた。早く行くぞ』
主の使いを無事にこなしたホンちゃんは洞窟に急いで戻るつもりだったが、人間の足は遅い。
結局、騎士団が領主を拘束し、主と合流できたのは王宮を出て3日後だった。




