第百八十四話 キッカを説得する
キッカを呼んだのは良いけど、どうやって話そうか思案をしていた。しかし何時までも黙っているわけには行かない。意を決して切り出した。
「キッカ、お前ジュグレさんの店で商人の修行に行かないか」
「行きません。私が邪魔になったんですか!」
「邪魔だなんて…… そんなことはないよ」
「じゃ~ どうしてですか!」
「……悪い。言い方を間違えた」
「ちゃんと説明をしてください」
「そうだな……」
俺はこんなに説明下手なのかと自分でも呆れるほどにグダグダになりながら説明を始めた。
「キッカやアントン。マルサールがうちに来て半年。正直、みんなのスキルがこんなに早く開花するとは思ってなかった。これは嬉しい誤算だよ。みんなが来た時に2年の期間を設けたよね。だけど、実際はたった半年で俺が教えられることが無くなったと感じたんだ。だからアントンには家庭教師をつけて次の医学学校の入学試験を受けさせることにした。俺の勘では合格するだろう。そうしたら寮に入るためここを出ることになる。キッカもそうだ。もし俺に商人のスキルが有ればもっと教えることが出来ただろう。だけど俺にそのスキルは無い。伸び盛りの今を俺では役不足だ。唯一マルサールは俺と同系のスキルだからこれからも教えられる」
「…………」
「それで、俺は正直悩んだんだ。マルサールとキッカで古物部門を独立させよかとも思った。だけど中途半端に独立させるよりもしっかり修業させてからのほうが良いとタージさんからもアドバイスを貰ったこともあった。そしてジュグレさんがキッカを仕込んでやると言ってくれた。正直俺は助かったと思った。これでキッカの才能をもっと伸ばしてやれる。潰さずに済むと……。
だけど、どうしてもここに居たいと言うのなら居てもいい。キッカの気持ちを尊重したいからさ。
でも、一時の感情より自分の将来を考えてほしい。ジュグレさんのところでの修業が終わったら帰ってこれば良い。ジュグレさんのところにはうちの店員のまま行ってもらうつもりだから」
「……分かったわ。コミュレットで勉強してこれば良いわけよね。それが私の仕事なんでしょ」
「そうだよ。これはキッカへの新しい仕事だよ」
「それでいつから行けば良いの?」
「それはキッカの気持ちを聞いてから決めるつもりだったから……」
「そう。早いほうが良いわ。そしてすぐに戻って来るんだから!」
「そうだね。キッカならすぐに戻ってこれそうだ」
なんか俺の感情だけをぶつけた形になったけどキッカが行くと言ってくれた。仕事と割り切ってたから納得はしてないんだろうけど、ジュグレさんの下で修業をしたら一回りも二回りも大きく花開くだろうからこれで善かったんだと自分に納得させた。




