第百八十話 チョコラ、初心を思い出す
公爵様にお願いをして三日後にはアントンの家庭教師がやって来てくれた。時間は4か月しかないから途中に休憩時間を設けるものも集中してやらないと間に合わないと言う事で特別におじいさんの部屋を使ってもらう事にした。もちろんこの間はアントンの仕事は勉強になる。
今日からクリーニングの仕事は俺がまた一人で行う事になる。と言っても上手く合格をしてくれたらアントンは宿舎に入ることになるからこの状況になることが早やまっただけだ。でも、出来る事なら一発で合格をして欲しいと思った。
店に顔を出すとマルサ―ルが買取り依頼の鑑定をしていた。こちらも初めは真贋だったスキルがいつの間にか鑑定に開花していた。レベルはまだ低いが真贋に比べればより細かい部分まで見られることから短期間で良くここまで成長をしてくれたと思う。もう少しレベルが上がったら独立も視野に入れないといけないと一人思うのであった。
キッカは…… 言うまでも無くすでにこの店の切り盛りをしていて逆に俺が怒られている状況で、しょっちゅう「これでは利益が出ていません。もっと真剣に考えてください」と言われている。
さすがに出張依頼で大金を貰っている事とレシピの版権でお金には困っていない事は話してはいないが、商人としての吟じがきっと許さないのだろう。そのうちマルサ―ルと一緒に支店と言う形で店を任せても良いかな。と思いながら一人作業を始める。
作業内容はやはり騎士団と近衛隊の武具が中心だが、だんだんと依頼の数が減って来ている。これもアントンに派生した回復付与のおかげ。少々の傷や欠けなどは自動回復してしまうために依頼数が減っているのだ。しかし、俺にはそんな付加を付ける事は出来ない?? ってか、やった事が無い。
でも、もしかしたら……
俺は有る事を閃いた。それは形状記憶。これはその物自体が元々の形を記憶していてどんな状況になっても元の形に戻るという機能で、布地や金属加工品に使われる技術だ。って、どうしてこんな事を知ってかだって? それは多分過去生だろうと思う水無月碧(第一話)の記憶が残っていた事をやっと受け入れられるようになったからだ。こんな回想的な置いておいて、一つ実験をしたくなった。
近衛隊の防具を手入れした後に創造魔法で形状記憶を付加してみて、そこに大きく傷をつけてみた。
防具の傷は瞬時に無くなり元の状態に戻った。
成功だ! これで回復付与とは少し違うがアントンに劣らない物が出せることが立証できた。
しかし、これをすべてに付与したら俺の仕事が無くなってしまう事に……悩ましい問題だな。
だけど、騎士団と近衛隊の仕事が無くなれば新しい何かが有るかも知れない。もともと多くの人の役に立てばと思って始めた仕事だし……。
そして俺は決めた。キッカに知れたら怒られそうだけど騎士団と近衛隊の武具全部に形状記憶を付加し、両団からの依頼を減らそう。そして街の人たちにもっと利用してもらえるような店にしよう。
こんな事を思わせてくれたのはやっぱりアントン・マルサ―ル・キッカの三人だな。
まさか俺が教えられる立場だったとは…… 改めて感謝した。




