第百六十八話 俺はスモールホーンドラゴンだ!
焼肉の匂いに釣られてやって来たドラボックルは何度も結界障壁に当って来ている。それも涎を垂らしながら…… 結界障壁に気が付いていないのか簡単に破れると思っているのか……
「ルーバ、これから俺が言う事を通訳してくれ」
『面倒だな。それより飯を食おう』
「話が終わってからだよ」
『さっさと済ますぞ』
『おい。そこのドラボックル』
『誰がドラボックルだ』
『お主だ』
『俺はスモールホーンドラゴンだ!間違えるな』
『ドラボックルの方が可愛いくて良いではないか』
『うるさいギンパツ狼』
『誰がギンパツ狼だ!吾輩はシルバーウルフ。神に使える神獣であるぞ』
「ルーバ…… なにケンカごしになってんの」
『すまん。あ奴…… スモールホーンドラゴンが吾輩の事をギンパツ狼などと言うからつい……』
ギンパツ狼…… 言い得ていて思わず吹き出しそうになったがルーバの機嫌を悪くしないように必死にこらえた。
だけどドラボックルの正式名称はスモールホーンドラゴンと言うんだ。でもドラボックルの方が呼びやすいからそれで良いよな
「どうして人間の食糧を襲うのかを聞いてよ」
『なぜ人間を襲う』
『訳を聞きたければ俺にもその旨そうな肉を食わせろ』
『なら話さんでよいわ』
「ちょっと、このドラボックルは何て言ってるの?」
『話を聞きたければその肉を食わせろとさ』
そんな事か…… 焼肉を適当に皿に乗せて振るまってやる。
『おい、我らの分が無くなるだろうが』
「ケチ臭いこと言うなよ」
『これ…… 食って良いのか』
『ふん』
『旨い! こんな旨い肉は初めてだ。人間よ、もっと食わせてくれ』
グルグル吠えながら皿をだしてくる。おかわりかな?
再度適当に乗せて出してやるとふたたびガツガツ食い出した。余程腹を空かせていたんだな
「ところで、人を襲う理由を聞いてくれたか」
『食う方が先だと』
あっそうですか。
それから何度かおかわりをして満足したのだろうか、皿を回収しようと手を結界から出した時に咥えられ身体ごと結界の外に引き出されてしまった瞬間、額に何かが当たった。
『俺も従魔になってやった。美味しい肉を食わせてくれ』
いきなり頭の中に声が聞こえて来た。これで4度目だ。驚きはしないが嫌な予感はこれだったのかと落胆した瞬間でもあった。
「従魔になってしまったのはしょうがないとして、ドラボックルは」
『ドラボックルではない、俺はスモールホーンドラゴンだ』
「そうだったね。呼びにくいからホンちゃんな」
『なんでホンちゃんなんだ』
呼び方を決めたからかホンちゃんの声が聞こえるようになった。
「ホーンドラゴンのホンちゃん。可愛くて良いじゃん」
『納得できん』
『もう決まったようだ。諦めろ』
『……』
「ところで、なんで人を襲ってたの?」
『襲うつもりは無かったんだ。ただ、人間が食っている物が旨くてそれが欲しかっただけだ』
詳しく話を聞くと、たまたま野宿していた人間が放置した食料を好奇心で食べたところ、それが衝撃的な旨さで忘れられなくなったらしく、人間に何度も貰えないか頼もうとしたけど、意志の疎通など出来る訳もなくいきなり攻撃されたからそれを除けていただけでホンちゃんからは攻撃はしていないと言う。それで荷物を置いて逃げていくから食い物だけを貰い他は邪魔にならない場所に移して置いたと言った。その場所に案内をして貰うと確かにかなりの荷馬車が置いてあり食料以外はそのまま残されていた。




