第百二十話 またも親子喧嘩
殿下の案内で王居殿に入った。陛下の居住だからさぞ煌びやかなのでは思っていたが、以外にも質素って印象だ。
「驚いたようですね」
「……はい」
「父上はもともと派手なのがお嫌いで、倹約を美とする人なんです」
王城は権力の象徴。王家の威厳を目に見える形で示す必要があるから贅を尽くす必要があるのだとか。
これは自国の貴族達だけでなく、他国に向けても国力を示すこと事で無駄な争いを避ける目的もあるようだ。しかし、時にはその財を奪い国力を強化しようとする国もあるため、軍事も強化しながら整える必要があるのだと説明を受けた。
「それゆえ、国民が汗水流して作り出し、納めてくれた税を個人的な物欲を満足させるためだけに使っては申し訳ない。国民の笑顔を守る為に使うのだと日ごろから言っており、実践されておられます。ですから王居殿はと言うより、王族の住居はすべてが見劣りするくらい質素なのですよ」
過去2度も陛下に会ったが、印象は腹黒狸だ。何を考えているか分からないし、人を上手く言いくるめる。まぁそうじゃないと交渉事など出来ないのだろうけど……しかしその印象が少し変わった気がした。
国民を大事に思われていることが窺えた。
殿下の話を聞きながら通されたのは居間だった。そこにはナント陛下が居た。
「チョコラ殿。待ちかねたぞ」
「父上、公務はどうされたのですか!」
「公務は宰相に任せおいた。それよりチョコラ殿の仕事ぶりを見る方が大事だ」
「どこが大事なのですか。公務の方が大事に決まっています」
「さては、お前ひとりでチョコラ殿の仕事ぶりを楽しむつもりだな。それはズルいぞ」
「陛下とあろうお方がなに子供じみた事を言われるか……」
「クラム。私室では父上と呼べと言っておる。なんならパパでも良いぞ」
「……呼びません」
「昔は呼んでくれたのに…… パパは寂しい……」
「そんな事で誤魔化されませんよ。公務にお戻りください」
「はっ、詰まらん奴じゃ。お前は遊び心を知らんのか」
「今は必要ありません」
仲が良いのか悪いのか、このまま黙って見ているといつまで経っても終わりそうになさそうだ。
「あのぅ…… そろそろ作業に入りたいのですが……」
「おぉ、すまんすまん。ここはわしの住居じゃからな。わしが直々に見分しよう」
「父上!」
「良いではないか。チョコラ殿の実力は王妃の時に知っておる。だがあの時は布団に隠れて見えんかったからな。今回はそれを見る事が出来るんだぞ。王としても確認する必要があるんじゃ!」
「すいませんが言い争いはお二人だけでやってください。俺も……私も時間が惜しいので早く仕事をはじめたいのです」
「そうじゃった。クラムの事など気にせず、作業を始めてくれ」
はぁ~なんだか先が思いやられる……




