第百十九話 いきなり王居殿からですか!
今日から実質的な王城での作業に入る。その前に店の開店だ。昼前には閉めるにしても出来るだけ引き受けたい。昨日もそうだったが、朝に引受け夕方戻ってきたら作業に入る。最近は張り紙をした期間は依頼の数が減る現象に有る。そのせいか以前ならほぼ徹夜で仕上げていたが最近はそこまでならない。特に、今回は騎士団と近衛隊の仕事がこの期間中は無いので更に少ない。
これは余談だけど、騎士団と近衛隊の契約は解除すると陛下と約束したはずが、陛下も「武具の手入れは常に必要。でないと有事の時に使えなくなる」と両隊から押し切られ、王城の作業期間だけは停止するという覚書が届いた事に平民の俺が国王陛下に異議申し立てをすることなど出来る訳が無かった。
午前中の営業で受けた依頼は2件。明日の朝には渡せるからと預かり、閉めるまでには完了してしまった。これで夕方から依頼が無ければやることが無くなる。なにを隠そう昨日もそうだったからな。
まぁ~ 戻った時のことを考えても仕方がない。これから王城での作業だ。集中しないと大変なことになる。なにせ高価なものが一杯だからだ。壊したら弁償など絶対に出来ない。ルーバとレーちゃんにも言い聞かせていたら、『レーちゃんが治せるから安心なの~』と逆に言われた。
さすが不死鳥だよ。
そんなやり取りをしている間に業者専用の門に着いた。「ご友人殿は貴族門でお願いします」と今日も言われたが「俺は仕事で来るのだから終わるまでこの門を通らせてもらいます」とはっきり伝えて置いた。「では、工期中はご友人扱いいたしませんよ」と言われたが願っても無いことだ。
しかし、以前にも似た様な会話をしたような気がしていた……
無事に門を抜けると王太子殿下が笑いながら待っていた。
「やれやれ、友人殿には困った物ですね。警備員の苦労も分かってあげてください」
「俺は仕事で来ているのです。遊びで来ている訳じゃない。それに平民だから業者用の門で十分です」
「ブレませんね」
「俺がここから来ると分かってるからこの門まで迎えに来たんでしょ?」
「そうですね」
「なら発想が同じなんだよ。それより、どこから始める?」
「そうですね。王居殿からやって頂きます」
「いきなりかよ!」
「はい。陛下にはご退位までの間、完璧に復元された気持ちの良い部屋でお休み頂きたいですからね」
「完璧って……ハードル上げ過ぎだよ」
「いえ、コミュレットの仕上がりを見ていますからね。期待していますよ」
「……わかりました」
「ではご案内を致しますね」
いきなり陛下の住居とは思わなかったが、いずれやる場所。早く終わらせておけば気も楽になるか…… よし、慎重にしながらも早く終わらせよう。




