第百十六話 殿下の愚痴を聞かされた
殿下の執り成しもあって何とか話が纏まった。
監視役は殿下が直々に行う事を柱として、作業時間と工期が決められた。途中、親鳥さんが『我が飛べば一瞬じゃぞ』と協力を申し出てくれたが多くの貴族をはじめ数千人が働く王城でそんな事をしたら騒ぎがデカくなるどころか、レーちゃんや親鳥さんの命すら危うい。まぁ神獣だから狙う側の方が危ないんだろうけど……
それはさておき、殿下の執務に大きな影響を与えないと言う事で宰相さまも納得してくれた。
「では、ここからは私とチョコラ殿で話を進めていきますので、宰相は執務に戻ってください」
「……わかりました。では殿下、詳細が決まりましたら協力要請を各部署に出しますのでお教えください」
「わかった。では下がってよいぞ」
宰相様が居なくなったところで話を進めるのかと思ったら、殿下の愚痴を聞く羽目になった。
「チョコラ殿、この度は余計なことに巻き込んで申し訳ない。父がいきなり王位を禅譲するなどと寝ぼけた事を言い出して、城の中も大騒ぎだ。しかもだぞ、退位したいと言う理由がだな……」
「あ…あの殿下……」
「どうした」
「俺がそんな話を聞いても良いのか?」
「かまわん。私の愚痴だと思って聞き流してくれ」
「はぁ……」
「それで理由がな、『せっかく愛しの王妃と婚儀を結んだのに一緒に居る時間が短すぎだ。王太子もそれなりに育ってきたことで王位を譲り、ワシは王妃との時間を優先する』と言い出したんだ。それに母様も『それは嬉しゅうございます。タンタオ湖の畔に離宮を造りそこで隠居生活をしましょう』
と止めるどころか乗り気だし……」
余談だけど、タンタオ湖と言うのは王都から馬車で3日程の東の地にある湖で王国随一の観光地にもなっている名所でもある。また歴代の王妃様は王を亡くした後に国母様となり、この地で余生を過ごすことも多かった。それはこの地が退位された国母様に与えられる領地ということも理由の一つだ。
「えっと……それのどこがダメなの?」
「私が楽できないだろう!」
「はぁ??」
「いや、失言をした。気にするな。とにかく国王陛下は今だお元気だ。退位されるのはまだ早いと言う事だよ」
いや、しっかり本音が出てたよ…… 楽できないって……
「元気だからこそ余生を王妃様と過ごしたいと言う事ですよね……子供としては協力してあげる処じゃないの?」
「だから……まだ早いって言うの。あと30年は頑張ってもらわないと……」
「30年も待ってたら陛下もヨボヨボになって思うように動けないじゃん」
「そうかもしれないけど……」
「チョコラ殿。よう言うてくれた」
「「陛下」」
殿下の話に集中していたせいか陛下が来た事にも気が付かなかった……。




