第百六話 チョコラ。厨房に拉致られる
シェフ達に囲まれる中、料理長だと言うオレクさんが代表してシュークリームの作り方を聞いてきたのだ。オレクさんが言うには、いくら従業員のパーティーだと言え、味を確認せずには出せないから、オーナーと一緒に試食をしたらしい。特にオレクさんも初めて見る物で興味を引いたのも大きかったようだ。
試食をした感想は見た目堅そうなシューは柔らかく、噛んだ瞬間の食感と口の中に流れ込んでくるクリームの香りと甘さに奇声を発してしまい、それを聞いた厨房スタッフがなんだ? どうした? と集まり大試食会になってしまったと言う事だった。
それからワイワイガヤガヤの騒ぎになり「これは作り方を聞いて明日の本パーティーに出そう」という事になったと説明してくれた。
「とうわけで、これからシュークリームの作り方を伝授して頂きたい」
「えっ…えっと……」
「おいチョコラよ。困ってるようだな」
いきなり名前を呼ばれたことで、声のした方をみたらタージさんが来ていた。
「えっ、どうしてタージさんが??」
「俺か? 俺は関係者枠だからな。今日なんだよ」
「そうだったんですか……」
「おう。それとちゃんとレシピはギルドに登録して来たからな。安心して教えてやれ」
「……。でも今日はお店を開けるんじゃなかったんですか?」
「少し早めに閉めてな、今は昼休みだ。それより、昼の分のシュークリームな。瞬く間に完売だ。夜も期待が出来そうだぞ」
うまいっ亭も客の反応が良かったらしい。俺の実家では当たり前でも王都では新しいお菓子らしいから物珍しさも有ったのかもしれないと思った。そう言えば、村では話題にならなかったけどなんでだろう??
「タージ先輩。おひさしぶりです」
「お~ オレクじゃねぇか。元気だったか」
「先輩はシュークリームの作り方をご存知なのですか?」
「おう。店の厨房を貸す代わりに教えて貰いながら一緒に作ったからな」
「チョコラさん。我々にもお教えください。お願いします。先輩からもお願いしてくださいよ」
「でも…ほら。ルーバとレーちゃんが居るから……」
『我はここで美味い物をたらふく食っているから気にするな』
『ピー(レーちゃんもなの~)』
「よし。ルーバとレーは俺が見といてやるから安心しろ。オレク。チョコラを連れて行きな」
「先輩。ありがとうございます」
タージさんの無責任な発言から俺はオレクさん達に連れて行れ、昨夜に続き再びシュークリームを作る羽目になった。
レシピと作り方を教えている処にジュグレさんもやって来て「これで明日の目玉が出来ました。感謝します」とだけ言って会場の方へ戻って行った。
「オレクさん。明日の目玉って何??」
「あぁ~、明日はこの店の料理を食べ慣れた王族や貴族がかなり招待されているからな。何か新しい物が出せないかと頭を痛めていたんだよ。そんな時これを見たオーナーが『これは出せる』と瞬間的に思ったそうだ。試食をしたら申し分ないどころか決定事項になったんだよ。それでどうしても作り方を教えて貰えと指令が出ていてな……。巻き込んで申し訳ない」
……ジュグレさん……としか言えなかった。
結局、プレパーティーに招待されたはずの俺はまったく料理を食べられず、明日の分までとひたすらシュークリームを作っている中でお開きとなり、タージさん・ルーバ・レーちゃんは思う存分料理を堪能したのか、かなりのご満悦状態で家路についたのだった。




