四.
悠介が己の顔立ちについてはっきりと自覚したのは、小学三年生の秋だった。
悠介の通っていた小学校には“ぽぷら学級”なるものがあって、そこに昂輝という生徒がいた。ぽぷら学級とは特別支援学級のことであって、昂輝はダウン症だった。
ただ、昂輝のダウン症患者としての特徴はいささか隠微なものであって、もちろん顔立ちにその特徴は表れていたものの、小学校低学年当時であれば昂輝は一般の学級に混じって学び、生活することができていた。
そもそもが、小学生低学年くらいの精神年齢に見合うとされるダウン症患者の知的障害なのであるから、周囲がそれくらいの年頃であれば昂輝はなんら不自由なく共同生活を送ることができていたし、むしろ冴えた発想で周囲から長ずることさえあった。
これは昂輝に限らずとも、ダウン症患者に限らずとも知的障害を持つ者にはある程度共通し、もちろん程度に差はあるものの、小学生低学年の頃は一般学級に重きを置きながら一般学級と特別支援学級を行き来する生活を送り、成長するにつれて特別支援学級にウエイトを移していくというケースは多い。
昂輝の場合、転換期は小学二年生から小学三年生に上がる春だった。
その頃から昂輝は、あらゆることに対して少しずつ遅れるようになった。
算数も、読み書きも、運動会の練習も、学芸会のダンスも。
あらゆることに、少しずつ至らなくなっていった。
とはいえ、そのこと自体は昂輝の両親、教師、あるいは医者らにしてみれば始めから分かっていたことであって、両親こそは現実を受け止めるのに少々時間を要したものの、やがて昂輝は、建物の影が人目には分からぬ速度でその背をゆっくりと伸ばしていくように、少しずつ、特別支援学級の住人となっていった。
――このことに、とある疑問を抱いた同級生がいた。
彼の名誉のために記しておくと、誓って彼は、悪気があったわけではない。
まだ彼らは、他人の感情を慮るにはあまりにも若すぎて、そもそも、慮るための知恵が圧倒的に足りていなかった。
彼らは、感じたこと、抱いた疑問を柔らかく咀嚼するよりも早く吐き出してしまう、無邪鬼という名の無垢なる悪魔なのだ。
同級生の彼はいつものように悠介の肩を気さくに叩いて、問うた。
「悠介は、いつ頃ぽぷら学級に行きよるん?」