一.
初めまして。
一生懸命書かせていただきますので、よろしくお願いいたします。
数回程度で完結する短編小説です。
なにか一言、お声がけいただけましたら励みになります。
悠介が、ひとり、雨の中で佇んでいた。
傘はない。屋根もない。降りしきる雨粒のひとつひとつが、確実に悠介の身体を湿らせてゆく。
身につけているパーカーのフードを被ろうともしないからには、あえて雨に当たっているようにも思われるが、一見するかぎりにはそんな様子でもない。
どこか不安げで、弱々しく、それは路頭に迷っているかのようでもあった。
しばらくすると、背後にしていたコンビニエンスストアから若い男が出てきた。年は二十を数えたばかりであろうか。髪は紅く、ズボンはだらしなく下がっていて、耳たぶを金色に光る装身具が貫いていた。人間性は偏見によって貶められるべきものではないと理解しつつも、まあまあ、こんな男に制服を着させる店の良識を疑いたくなる風体ではある。
「傘、ないんスか?」
男は、ちろちろと悠介の様子を窺ったのち、背後から声をかけた。
すると悠介は、ただ無言で、その平べったい顔をじとりと向けて、離れがちな両の瞳で男の顔を睨めるように見つめた。
男はややたじろいだようであったが、さっと悠介から目を逸らすと、足元に備えてある傘立てから1本、悠介のために見繕った。なんの変哲もない、それこそ背後のコンビニエンスストアでも買えそうなビニール傘であった。
「これ、使っちゃえばいいじゃないすか。客の忘れもんですから」
差し出された傘を受け取ろうとしない悠介の様子を見て、男はさらに一歩、詰め寄った。そうして戸惑う悠介の右手にそれを無理やり掴ませると、それきり、声を発することもなく男は店内へと戻っていった。
――今日は、男の誕生日だった。
アルバイトを終えた後は女と小洒落たホテルでディナーを取る段取りとなっていた。恋人ではない。しかし、男の誕生日にホテルで食事をとって、そのまま現地解散ということもなかろうという算段くらいは立っていた。コンビニエンスストアの店長からは差し入れにと避妊具を渡された。男もすっかりその気になっていた。
それゆえ、今日の男はいささか心が広くなっていた。慈愛の精神に満ちていた。
むろん、忘れ物だろうと、他人の所有物を無断で譲渡するという行為そのものはれっきとした“悪”である。それこそ、件の女がちょっと傘を忘れたからくれてやった、というのであればそれは男が女からの評価を得るため、すなわち私利私欲のための横領と言えるのであって、褒められたものではない。男も、風体のわりにはそれくらいの分別はわきまえていた。
ただ、今日のように雨の強く降りしきる日であって、そして傘を渡す相手が悠介のような者であるならば、それは少なくとも男の中では確固たる“善”であった。立派な行動をとった自分のことを褒めてやりたいとさえ思っていた。
降りしきる雨粒を半透明のビニールで防ぎながら、悠介はたどたどしく去っていった。
悠介は、ダウン症患者特有の顔立ちをしていた。
悠介は、ダウン症患者特有の顔立ちをしている、健常者だった。