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ホラー小説家恒川美晴

異世界神社

作者: 黒崎揄憂

「ピアノ」の続編です。今回の主人公は厳密には恒川美晴ではありません。

またよろしくお願いいたします。

恒川美晴。大学のサークル活動兼趣味でホラー小説を書いている大学一年生である。



年末年始ということで実家に帰省し、美晴は親戚の集まりに参加していた。美晴の両親は健在。兄弟もいれば祖父母もいとこもいる。


「あけましておめでとう、美晴おねえちゃん。」


母方のいとこである岸野大樹が美晴に新年のあいさつをする。大樹と美晴は同じ市内に住んでおり、美晴が高校生で、実家暮らしだった頃はしばしば会っていた。


「あけましておめでとう。」


「美晴おねえちゃんはホラー小説を書いてるんだよね。だから俺の話をネタにできないかなって……」


これで美晴が食いつかないわけがない。事故物件でのピアノの騒音と住人の話でさえネタにして小説を書いてしまった美晴である。


「詳しく聞かせてほしいな。」


正月のごちそうや鏡餅が並ぶ畳の部屋で座布団に座り、大樹は話し始めた。



◆◆◆



これは去年の3月の話。俺も美晴おねえちゃんと同じく受験生だった。公立高校に入るために受験を控えていて、合格祈願のために神社に行ったんだ。学問の神様かどうかはわからないけれど、気休めでもいいから受かりたいなあと思って神社にお参りした。


神社に入った時には雨がやんで、鳩が意味ありげに歩いていた。俺はその現象で神社から歓迎されていることに気づいていたよ。だからこそしっかりと手を清め、礼儀正しくお参りした。


俺が神社の鈴のようなものを鳴らして、一礼二拍手をしたときにすうっと風が吹いたんだ。冷たいけれど春の訪れを感じさせるような風。でも、異変はここからなんだ。



◆◆◆



「続きが気になるね。そのあとどうなった?」


美晴は思い出しながら語る大樹に尋ねた。


「うん、その後に怖いことが起こるんだ。」



◆◆◆



風が吹いたあと、気が付いたら知らない場所にいた。要は神隠しにでも遭ったんだろうと俺は確信していた。だけど、その知らない場所はどこか見たことがあるような気がした。


俺はどうやって出られるかもわからなかった。だから神社の境内のような知らない場所を鳥居に向かって歩いた。不思議とその場所は寒くなかったよ。だいたい10月と同じくらいの気温。マフラーも上着もいらないくらい。俺はそのまま階段を下りて行ったんだ。


階段を下りた先にはふつうの住宅街が並んでいた。もちろん人だっている。自転車でどこかに向かう小学生や、仕事返りのおじさん、子供連れのお母さんなんていうごく普通の人たちだ。それでも俺は異変に気が付いていた。


看板の文字が理解できない。書いてある文字は日本語。でも俺に理解できるような文字列ではなかった。


「あ米ぅ輪地絵オゲ」


「コを毛ぺ」


こんな文字列を見て、俺は今いるところが異世界なんだと再認識できた。でも、異世界がこんなところだと気づいてもうライトノベルは読まないと決めた。異世界はライトノベルで表現できるものではないから。


しばらくすると警察官らしき人がこちらに来て何かを話しかけてきた。


「ぃヴ例おぺ画あ?」


何と言っているのかわからなかった。日本語でも英語でも中国語でも韓国語でもない。地球に存在する言語ではない気がした。頭がおかしくなりそうだった。


「僕はなにもしていません!」


俺は警察官に話した。警察官は俺の言っていることがわからなかったようで、俺の腕に手錠をかけて俺は連行された。


そして俺は警察署のようなところの留置所に閉じ込められたんだ。もう二度と帰れないのかと思った。俺はその世界では身寄りがないから。


留置所の中で俺は考え事をしていた。いつ帰れるか、俺はこのまま死ぬのか、せっかく公立高校の入試を受けようとしていたのにもう受けられないのか、二度と友達にも会えないのか。


俺はそのまま留置所で眠ってしまったらしい。その時に夢を見た。


神様のような人が出てきて、俺に何かを語り掛ける夢。


「なんで神社を出たのですか。」


神様のような人は夢の中で俺にそう語り掛けた。


「神社で待っていれば望みはかなえられたのに。」


「貴方は元の世界に戻れますが、私は貴方を呪うでしょう。望むものにたどり着けず望まないものが延々と付いてくる呪いを貴方にかけます。」


神様は残酷で気まぐれだ。奉らなければならず、簡単に願いを叶えてくれるわけでもない。祟り神はいるものだ。


気が付けば俺は神社の境内に倒れていた。腕時計を見ると1時間程度しか経過していなかった。俺は立ち上がって辺りを見回したが、元の神社のままだった。しいて言えば、来た時よりも圧迫感がある。出ていけと言われているような。俺は逃げるように神社を出て行ったよ。



◆◆◆



大樹は口を一度つぐむと、机に置いてある緑茶を口に含んだ。きっとあの時の感覚は覚えている。


「もう二度とあの神社にはいきたくない。」


最後に大樹は言った。


大樹は去年の3月に公立高校の試験に落ちており、滑り止めに受けた私立高校に通っている。それまでの判定はよく、だれもが大樹の合格を確信していたのにもかかわらず。さらに、高校に入っても続けたかったサッカーであるが、ひざの前十字靭帯を損傷して続けることができなくなっている。


神社とは時に恐ろしい場所である。


美晴は複雑な表情で黒豆ときんとんを自分の皿に取り分けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大樹くんのお話を聞いてるうちに背筋に冷たさを感じました! [一言] とっても面白かったです!
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