一話、自殺と話術
今日は学校の創立記念日で学校が休み、平日には書けない長い長い小説を書き終えて、目の疲れを感じながらパソコンの前で深く椅子に座って深くため息をつく。
中二からこの作業を続けて二年半もはや日課の一部になっていた。
最初は暇つぶしにやっていただけなのに、今はどっぷりハマっている。
「流石に疲れたぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と大声で叫ぶと隣の妹部屋から
「うるせぇ!今勉強してんだよ!キモイから家から出てけ!ブス!ハゲ!」
と妹に言われたので、少し家を出て散歩することにした、まったく口の悪い妹だ。
日頃酷い言葉をかけられている俺ですらそこまで言われればキズつく。
(なにを今更キズついてんだ。でもハゲてはないと思う。)
と割り切り、家を出ることにした。
家出て、住宅地をしばらく進むと、大通りに出る
またしばらく歩くて脇道にはいると、河川敷、しばらく河川敷を散歩することにした。
散歩していると、川に通じる階段が見てきた、自分が一番安らげる場所だ。
あまり人も通らないし、車の音もあまり聞こえない、一人になりたいときには、最適な場所だ。
悩み事や辛い事があったりすると、よくここに来る。
今日もここでゆっくりするつもりだった。
が、今日は珍しく先客がいた。ここらでは見かけない子だった。
(なんだ、こんな場所に、しかもこんな平日の昼に、)
しかもロングヘアの整った顔立ちで結構な美人だった、それが尚更疑問を高めた。
もし、彼女が不良少女だったとしても、これだけの美人ならここには来ないだろう、
もしや!彼女もこの癒しポイントを!とも思ったが、こんな平日の昼間からそれはないだろう、少なくともうちの学校や近くの学校には、こんな美人はいない、いたらもうとっくに有名になっている、そう考えるとますます謎が深まったが、彼女が隠すように持っていた、似つかわしくない、大量の睡眠薬とスポーツドリンクで謎が解けた。
自殺だ。
なるほど、あまり人通りが少ない場所でいるのも平日の昼間にいるのも自殺のため。
しかも本当に自殺したいらしい、普通、未練があったり人に気付いてほしい時は死んでも、みんなが気付やすい学校や家族が気付きやすい自室などで自殺することが多い。
でも本当に、誰も迷惑をかけたくないやつは、誰にも発見されにくいこういった場所で自殺する。
(こいつマジだ。でもこんな美人でも死にたくなることがあるんだな、さどーすっかな止めても相手は本気で死にたがってるいいはた迷惑なのかもしれない、でもまぁ助けておいて損はない気がする。)
助けることにした。
自分で思うのもなんだが、幸い今の自分には高度な話術がある。そのおかげで中学からはいじめられずに済んだし、友達もたくさん出来た。
(今の俺ならいける)
そう決意して話かけてみることにした。
「よ!どうここ和むでしょ?」
こっちに気付いた彼女は急いで睡眠薬を隠した。
「ん?何持ってたの?俺目悪くてさ見えなくてさ、まあそんな事はどうでもいいや」
そっと自分からは見えてないことをまた、それを見てない事を彼女に確認させた。
「俺の名前は銘苅齊彬よろしくー!」
「ここいいところでしょ、人もあまり通らないし、車の音もしない、たまに来るんだ」
彼女は俯いたまま、一点を見つめたまま、意識すら、瞳孔すら、呼吸すら、何一つ変えなかった。
(まずいな、興味を持ってもらえない事にはなにも始まらない、まず喋ってもらわないと、彼女にとってのタブーもわからないし、方言もわからない、小さい町物凄く小さい県だから。こんな美少女いたらすぐわかる。だからといってだからといって、この付近の人間じゃないと決めつけるのもまだ早いな、まずは彼女に喋ってもらわんとな。)
「なあ、すっげ美人だよな、俺なんて、こんなんだからあれなんだけどさ、暇なら遊びに行く?」
(すっげ恥い、単刀直入に聞いた、この二択で彼女の返信が聞ければ、彼女の声が、喋り方が分かれば)
だが、彼女は何も発することはなく、彼女は一点を見つめたままだった。
(くっそぉ、これじゃあ俺が恥かいただけじゃないか、こうなったら意地でも彼女に喋らせてみせる!)
いつしか俺の目的は
彼女と会話することになっていた。
その後も俺は喋り続けた。自分しか喋らないから話が持たなくなって途切れ途切れになる事が多々あったけどそれでも喋り続けた。すると彼女が。
「私と居ていいの?私と居るとあなたが嫌われてしまうかもしれない。」
初めて聞いた彼女の声、ほそぼそと発したその声はとても透き通っていてとても綺麗な声だった。
俺はものすごい達成感を感じていた。
(は、話してくれたぁぁあ!よかった!そろそろ自分の話術に疑いを持ちかけてたところだったぁ。)
「…もし俺が周りから嫌われて一人なっても、あんたがどう思ってるかは知らないけど、俺はもう友達だと勝手に思ってるよ、それに一人よりかはマシ。」
「…ともだち?」
「ん?俺の友達になる基準は低くてね、君がどう思ってるかは知らないけど、俺は君の事をもう友達だと思ってるよ」
彼女は大きく開いた目でこちらを見つめらがら固まっていた。
「………」
(俺なんか変なこと聞いたかな?)
「友達になるのが嫌かな?」
「………」
「?」
「おーーーーい聞いてる?」
「………」
「おーーーーーーーーい」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
お互いに黙り込んでしまって2分が経過した。沈黙を破ったのは彼女だった
「友達になってください!!!」
彼女は喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
「びっくりしたぁぁぁぁぁ!」
「い、いきなりどうしたの!?」
「え、ダメですか?ともだち」
「え、いいよ?てかもう友達だって俺は思ってるんだけど」
「よかったぁ、人生で初めてともだちができた。」
彼女はそうつぶやくと、大きな声で泣き出した。
「ウェぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇえぇぇえ」
鼻水を垂らしながら号泣した彼女を前にどうしたらいいかわからなかった
「お、おお、おう、よ、よろしく」
「ま、まずこれで鼻水と涙吹きなよ」
そう言ってティシュを渡すと泣きながら、ティシュを受け取ると、泣きながら涙を拭くき続けた。
(それじゃ拭いてる意味ないだろ)
「ま、まずは落ち着いて、深呼吸して」
「う、うん、ス〜~ゲホゲホ、ス〜〜〜〜ゲホゲホ」
「大丈夫!?深呼吸になってないよ!落ち着いて!落ち着いて!」
「う、うんありがと」
それから彼女が落ち着くまで彼女が落ち着くまで十分とちょっとかかった。
「あ、ありがと、お、おちついたよ」
「それはよかった、改めてよろしく。」
「き、君の事はな、なんて呼べばいいのかな?」
まだ彼女の言葉はぎこちなくなかった。
(あれ?聞いてなかったのかな?俺の名前?まぁいいや)
「俺の名前は銘苅齊彬、アキラって読んでくれたらいいよ。」
「私の名前は、ウリエル・ジョシュア」
「ウリエル?て言うと天使の?」
「う、うん、」
(こんなに泣いてた子が、破壊の天使か)
「よろしくねウリエルちゃん」
「ウリエルでいいよ?」
「わかったウリエル」
「よろしくねアキラ君」
二人が仲良くなるのに時間はかからなかった。ただ時間だけ過ぎていった。
「もう帰らないと」
そう彼女が切り出した。
「また会えるかな?」
「わからない。」
「明日には、帰らないと」
「え?」
「私、正義感が強くて、いつも周りとは馴染めずにいて、気がついたら孤立してて、みんなからいじめられてたの。それを家族も相談できずにいたの、でもお祖母ちゃんだけにはいろんなことを相談出来てお祖母ちゃんだけが私の心の拠り所だったの。」
「でも」
「お祖母ちゃんが、昨日死んでしまって」
「それでお祖母ちゃんの家に来てたの」
「それで…」
「死のうとここに?」
「うん」
「でも今は俺いるから」
(何言ってんだろむちゃくちゃハズカシ)
「うん、君が離れていてもいると思うと心強いよ。」
「じゃあね」
「おう、じゃあな」
帰っていく彼女の背中を見ながら、暑くなった思いが、膨れ上がっていったのを覚えている。
「あ、電話、番号聞くの忘れてた」