3話 「突然の転送」+「突然の訪問」
長い沈黙...
「父さん(仮)...?」
「...もういいじゃろ!普通に父さんと呼ばんかい!」
声をかけると、しばらく固まっていた父さん(鳥)は再び動き出した。
「...ていうかお前...ワシの息子じゃろ?魔王、継ぐよな!?継ぐんじゃろ!?」
「...うーん...嫌」
「即答せんかい!...って、えぇっ!?ウソじゃろ!?」
父さんはピヨピヨと狼狽えている。
だって...嫌なものは嫌だ。
「ワシの話、聞いてた?仲間が捕らえられているんじゃ!人間は敵なんじゃよ!」
そりゃまぁ話は聞いたけど...
やはり自分が人間と戦うなんて想像できない。
「父さん...僕は魔王になんてなりたくないよ...
うまく説明できないけど...僕は父さんみたいな生き方は嫌だよ...」
「ファッ!?......」
再びフリーズする。
よほどショックを受けたのだろう。
「ワシの息子が...アァ...」
父さんには申し訳ないが、僕は戦争なんて望んでない。
自由に暮らしたいのだ。本の中に登場する勇者達のように。
そして平和のために力を使いたい。
僕がこう思うのは、本の読みすぎのせいだろうか。
「やはり...お前は、母親に似たのじゃろうか」
父さんがポツリと呟く。
母親...そういえば、母さんはどんな人だったんだろうか...
「...母さんって」
僕が父さんに聞こうとすると、父さんはいきなり大声で遮った。
「お前は!...まだ魔王になる気は無い...という事じゃな!?」
「うん、そうだよ」
「おふぅっ...なるほど分かった...」
ぼくの心は決まっている。
父さんは人間を恨んでいるようだけど、
僕にはその気持ちが分からない。
だから、父さんのように死ぬまで戦い続けるなんて
絶対に嫌だ...と思う。
「エイリとカゲツに、もう少し厳しく教育するように言っておけばよかったのう...」
父さんはブツブツと何か呟いている。
「とりあえず、話はもう終わり?」
というかもう、終わって欲しかった。
今日は朝から色々ありすぎて疲れているのだ。
「いや、最後に1つ...こんな事、前代未聞なんじゃが...」
「何?」
「ワシはもう死んだ身...お前がどういう生き方をしようが、文句は言わん...だが、今のお前は無知じゃ。狭い世界しか知らんのじゃ...」
少し間を空けて、父さんは僕に聞いてきた。
「...お前、人間の街へ行かんか?」
...え?
「...急に何?どういう事?」
父さんは真剣な顔つきだ...多分。
「行かなければ分からない事もある。自分の目で確かめて欲しいのじゃよ。人間と、ワシら魔族...どちらが悪なのか。魔王になるかどうかは、それから決めて欲しい...」
「ちょっ...急に言われても...」
「嫌なら今すぐ魔王城にGOじゃ!」
ウソ!?こんなの脅しじゃないか!
「待ってよ!僕、仮にも魔王の息子だよ!?人間の街に行ったら殺されちゃうんじゃ...」
「仮にもってなんじゃ!...大丈夫、お前はまだ何者でもない...真っ白な状態。魔族の特徴でもある翼も生えとらんし、バレないバレない!」
確かに...
エイリには、翼が生えているのを見せてもらったことがあるけど、僕は生えていない。
でもそれだけで大丈夫なのか...?
「困ったら、キオクソウシツです!って言っとけば大丈夫じゃ!たぶん!」
そんな適当な!
息子が殺されてもいいの!?
「おっと...時間がない。さぁ選ぶのじゃ。行くのか、行かないのか?」
僕はしばらく考えた。
魔王になるのは嫌だけど...
でもいきなり人間の街だなんて...
うーん、心の準備が...
「早く決めんかい!」
「...わ、分かったよ!行くよ!そしたら魔王にならなくてもいいんでしょ!?」
「あぁ、お前の好きにしていいんじゃ!」
非常に急だったが、僕は決意した。
憧れだった人間の街へ行こう。
もしかしたら、本で読んだような冒険が僕を待っているかもしれない...!
「じゃあ、今からお前を人間の街に飛ばすぞ」
「え、今すぐなの?僕、向こうでどうやって生活すれば...」
支度とかしなくて大丈夫なのか?
「大丈夫じゃ、向こうに1人知り合いが居る。そいつに世話になると良い。ガイアスという男じゃ」
「あ、でもエイリとカゲツ姉さんに一言...」
「ワシが伝えておくわ!『転送の術式』を発動!」
本当に今すぐなの!?
不安でいっぱいなんだけど...!?
「行ってこい、コロナ...そして、自分が何をすべきか考えるのじゃ...」
「と、父さっ...!」
急に今までの景色が遠ざかっていく。
僕は、よく分からないまま
黒い渦に飲み込まれていった....
「色々と手順を端折ってしまったが...何とか間に合ったわい...いや、こうなった時点で手遅れか...3年ぶりじゃなぁ...勇者よ」
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コロナ様が書庫に篭もってから2時間...
もうお昼になってしまったのに、
私はまだコロナ様に謝りに行けていない。
「嫌われちゃいましたかね...」
すぐ謝りに行こうと思ったのだが...
もし拒絶されたら...と思うと怖くて行けなかった。
そして、少しでも機嫌を直してもらえるように、
コロナ様の好物のパンケーキを作っていたのだった...
(そろそろお腹が空いて出てくる頃じゃないですかねー...うん、その時に謝ろう...)
あれから少し経ち、大分頭が冷えた。
今日の私はどうかしていたのだ。
焦りすぎても仕方がないとは分かっていたのだが...
(...あまり復讐心に囚われ過ぎるな)
カゲツの言葉を思い出し、少し胸が痛んだ。
復讐...
私は人間を...「勇者」を恨んでいる。
奴らを滅ぼす為だったら何でもする。
...たとえ大好きなコロナ様を利用する事になっても。
そう思っていた。
だが、やはり...でも、カゲツは...
「...おっと、焦げてしまいますっ!」
慌てて、フライパンに意識を向ける。
危ない危ない...パンケーキまで焦がしてしまったら、
コロナ様のご機嫌が斜め45度ですっ...!
急いで裏返してみると、少し黒っぽくなっていたが、
まだセーフ...です。
はぁ...今日は本当にどうかしている。
...何故
...私がこんな思いをしなくてはいけないのか。
そう思うと、怒りだか悲しみだか、
よく分からない感情が湧き出してくる。
「何故...死んだのですか...お父様...お母様...」
私のお父様...「勇者」に殺された...
あの日、たまたま城の護衛についていたばかりに...
ただの平凡な騎士で、優しかったお父様が...
そして、ただのメイドだったお母様まで...
殺す必要はなかったはず。
許せない。
人間の分際で、私の大切な家族を奪った勇者...
いつか、必ず滅ぼしてやる。
...そう...「いつか」でいいのだ。
焦る必要はない...
落ち着け、エイリ...
「......あ」
いつの間にか、パンケーキは真っ黒になっていたが、
私の気持ちは少しばかり晴れていた。
「ゆっくり、やっていけばいいんですよね...」
気持ちを切り替え、作り直すための準備を始めることにした。
...そういえば、コロナ様、なかなか出て来ませんね。
いつもなら匂いだけで飛んでくるんですが。
そんでもって席に着いて、待ち遠しそうに足をパタパタ
やるんですが...やっぱり様子を見に行ったほうが...
そう思い、書庫に向かおうとした。
その時。
屋敷の扉が開いた。
「ごめんくださァ~い」
目を向けると、30代くらいの男が立っていた。
茶髪で髭を生やした眼鏡の男...
医者だろうか...白衣を着ている。
その男は、こちらに気付いたようだ。
「あぁ~...どうもどうもォ!いやぁね?僕ァ怪しいもんじゃァなくてだねェ~...」
...客人...?
いや違う
ここは「静寂の森」...
普段は立ち入ることは禁じられている。
訪問する場合、何らかの連絡があるはず...
つまりコイツは...
「魔王さん...居ますゥ~?」
敵...人間だ。
「誰です?それ以上近付くとぶっ殺しますよ」
「おぉ~...殺されるのは嫌ァですねェ...僕ァ...ヴォイドって名前の、ただのおっさんですよォ?」
コイツ...魔王がどうとか...
おかしい、コロナ様の事は極秘事項。
なのに、どうして人間が...?
どちらにせよ、生かしてはおけない。
「...カゲツ!カゲツ来てくださいっ!侵入者です!」
まだ相手の実力は分からないが...
2人がかりならどうにでも出来るだろう。
相手はたかが人間だ。
「カゲツゥ...?って、あの貧乳のお姉ちゃんですかい...?なんかねェ、ギャンギャン噛みついてくるもんだから...肉団子にしちまいましたァ」
「ウソですっ!!!カゲツが、たかが人間如きにっ!」
「フヘヘェヘハハハハァーーーッ!!!人間如きィですかい!懐かしいこと言いますなァ嬢ちゃん!?古いんですわァ...!人間様ァだって成長してる訳でェ...忘れたのかねェ?」
まさか...カゲツがやられた...?
だとしたら、コイツは一体!?
「あんねェ~この屋敷にね、昔殺したはずの魔王さんと同じ反応があったんですよォ...な~んか、心当たり、ありませんかねェ?」
コイツは...
「あぁ~自分『勇者』なんで。勝てると思っちゃァいけませんよ?」
その言葉を聞いた瞬間、私は満面の笑みで、最大火力の術式を叩き込んだ。
なんて嬉しいんだろう。
復讐の日は「いつか」ではない。
今日だったのだ。