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7.バイバイ、ブラックバード(伊坂幸太郎)

【バイバイ、ブラックバード】

 6話収録の連作短編集。巻末に伊坂幸太郎のロングインタビュー付き。

 伊坂幸太郎は私の中で「面白い部分もあるけど再読したいとか集めたいとか全く思わない作家」です。高校生の頃初めて読んだ「重力ピエロ」は「なんだこれ相当つまらねぇな……」と読むのに凄く時間がかかりました。でも「死神の精度」で「面白いじゃん! 見直した!」となり、だから完全に合わないというわけでもない。でもうーん……、定価では絶対買いたくない作家です。だって人気だし他の人が買うだろうし。だったら比較的売れない海外作品を買って早川書房とか東京創元社を潤したいと思ってしまうのです。そんな学生時代に大体分かって読むのをやめた伊坂作品をなぜ今更、と自分では思うのですが、それはやっぱり人気作家なのでブックオフでタイトルが目に入りやすかったのと、濁音「ド」で次に繋げたかったから。と期待薄の読書だったのですが……なかなか、いや、かなり楽しめたので驚きでした。


 「僕」の一人称視点と女性の三人称一元視点が混在。


 五股をかけている星野一彦が「あのバス」に乗らなければならなくなったため、一人一人の女性に別れを告げていくというストーリー。これだけ聞くと全然読みたくならない(笑)。実際、一話目を読んだ段階では「いつもの伊坂だな」と乾いた感想しか湧いてこない。いつもの伊坂って何だって言われると困るのですが、淡々としていて変な登場人物がいて、ちょっと感動ポイントがあって……っていう感じでしょうか。ところが、巻末インタビューによると、「僕の書く連作短編は第一話は比較的普通の話にするのが鉄則。最初は自然な感じじゃないと読者が物語に入りづらいかと思うので」だそうです。そうだったんですね。それが引きの弱さになっている気がしなくもないけど……。

 しかし二話目からは読むのが楽しくなってきた。あんまり認めたくないのだけど、確かにユーモアにセンスがあります。自然とニヤニヤ顔になります。特にゴリラのくだりには吹き出してしまいました。

 三話目も話自体は特に興味が湧かないけど、スーツの推理と「(汗)」にはやられました(笑)。

 四話目、この辺から物語らしくなってくる。しかしまぁ簡単な文章で読み易いです。

 私が一番好きなのは五話目ですね。複雑じゃないのに「上手いな~」と素直に思える仕掛け。こういうのは伊坂幸太郎の得意とするところ。女優の心理が書かれていて、そこにもグッと惹かれました。「私の周りには興味を持つ人か持たないふりをする人ばかり」っていうのが、ああ確かに身近に好みの美男子がいたら私は興味を持たないふりをするな。したことがありますね……。イケメンは恋愛対象にならないのですが、二十五歳そこそこになって、確かにイケメンは見てしまうなぁ、というのが分かりかけてきたこの頃。まぁ、そういう話は置いといて。

 最終話は繭美にスポットが当たった話。繭美は主人公の付き添いの強烈なキャラクターの大女です。といって、伊坂作品って登場人物に興味があんまり湧かないんですよね。なんか淡々としているし書き分けとかあんまり考えてない感じだし。私がセリフや言動で「いいなぁ」と思うタイプだからか、この平板な文体からは一定以上の魅力が見えてこないのです。


 ところで、伊坂作品の問題点と言えるのかどうか……それは比喩にもなっていない比喩です。「比喩ってこれでいいんだっけ?」と不安、不快感さえ感じる比喩表現がこの本では多発します。正直こればかりは読んでいて大変気持ち悪い! 何が駄目って私の勉強不足でハッキリと指摘できないのも気分が悪いです。多分稚拙なんだと思います。もっと美しい表現を求めてしまうんだと思います。伊坂作品に期待するのはお門違いなんでしょうが……。とりあえず羅列してみます。

 p.65「どこかの男に好感を抱くことは、余計で、厄介な出来事に過ぎず、(たと)えて言うなら、ピアニストが日々の練習を休んでテレビゲームをやるような怠慢にも思え~」

 p.106「向き合う繭美と不知火(しらぬい)刑事が、牽制し合う野生動物に、たとえば狂暴な熊と俊敏な狼のように見えた」

 p.141『「何でそうなるんだよ」と言う彼女は、的外れの答案を提出した生徒に苛立つ教師のようでもあった。』

 p.173『悪夢を一人で抱えることに我慢できなくなったかのように、「もしかすると殺されるかもしれません」と打ち明けた』

 p.266「リポーターとカメラマンは、恐ろしい呪文をかけられたかのように、顔から血の気が引いている」

 無理に変に例えなくていいんですよね。今気付きました。例えなくていいのに例えるから何普通のこと言ってるんだこの人、となるんでしょう。小説自体は伊坂作品の中で相当上位の面白さだったので、こういうのがあると勿体ないなぁ、と思ってしまいます。



 興味深かったのは巻末インタビュー。この小説は結構作者の実話からヒントを得ているそうで、人生こそが創作の種の宝庫なんだなぁ、と思いました。実際そうですよね、トラウマでもなんでも見聞きし体験したことはどこかで創作の(かて)になるはず。曲がりくねった人生もいつか小説になるかもしれない……と自分を無理やり励ましたところで、次の本に行ってみましょう。


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