5.血の季節(小泉喜美子)
【ちのきせつ】
ホラー×ミステリーの隠れた傑作っていう帯だけでもうめちゃくちゃ読みたくなってしまう……この「☆しりとり読書日記(日本編)☆」一冊おきにホラージャンルが来てない? って感じですが、それは多分偶然……偶然です。帯の話で行くと、恩田陸のコメントは壮大なネタバレで、これから読むっていう人はおそらく目にしない方が吉。(ていうか、作者あとがきも凄いネタバレだから、あえて隠さなかっただけなのかもしれませんね。)ですが、内容を分かっていたとしても、翻訳家もしていたという作者の文章はレトロチックで流麗で心躍るもの。自在に操られた言葉たちに酔います。そして内容も一丸的にこれこれこういう話だ、と言い切れるものではなく(大抵の本がそうですが)、一つ一つのシーンや言葉に、昭和初期、戦争前後の雰囲気を感じ取れて、今どきのライト文芸とは正反対にある重さを感じることができます。
一応事件を追う警察の視点があり、警察小説的な側面があるので、論理的に解決するミステリーではない、というのは言っておきます。それでもひっくり返しのようなものはあって、ここで恩田陸帯が効いてきて「えっ? 私帯にも騙されてた?」ってなったりして胸がざわつきました。
視点は突き放した感じの神視点。回想で一人称視点。自分でも厳密にはよく分からないのに書いておくのは、作家がどういう視点を使っているかをなんとなくでも掴むためです。小説を書く助けに少しでもなるかと思って。
「しりとり読書日記」を始めてから、読む本読む本が面白くて、この本もご多分に漏れず、といった序盤・中盤……少年がフレデリッヒとルルベルのお城に出入りする回想なんて、とっても好みでゴシックな感じがして、「好きな小説が隠れていたもんだ!」と大いに喜びました。……と、かなり楽しませてもらった部分はあるのですが、最後の一文に「ん? それってどういう意味なの?」という疑問符がついてしまいました。昔はこういう時、自分の読解力のなさを嘆いていたのですが、自分ばかりが悪いということはおそらくなくて、作者が意図的に分かりづらくしている場合も、作者本人がとりあえず深読みしてもらおうと結論付けない場合もあるんですよね。とか言いつつ、後から考えたら単純に「みんなが〇〇にされてる!」って意味だったのかな、どうなのかな……と、まぁ結局モヤモヤして終わってしまって、それまでがよかっただけに、結構残念な気持ちにはなりました。
作者あとがきに「この一作だけを八年かけて書いた」ということが書かれていて、そんなにかけていいんだ! と目が丸くなりました。長編に時間をかける性格の作家だったようです。それを受け入れてくれる周囲に恵まれていたのもあるでしょうが、やっぱり翻訳家としての地位(筆力があると分かっているから?)なのかな? とか色々考えて……。八年かけていいなら、あの作家もこの作家ももっとディテールが凝った良作を生みそうだなぁ、とか思ってしまったりもしました。だけど、八年かけて最初から最後までブレのない一作を書くのも、それは凄いことですよね。
オススメするかどうか聞かれたら「オススメですね」と答える良質な小説ではありました。作者の他の本も二冊積んでいるので(「殺人はお好き?」「痛みかたみ妬み」)、良い縁だったと思って引き続き読んでいきたいです。