4.永遠の出口(森絵都)
【えいえんのでぐち】
私はミステリーにもホラーにもSFにも分類されない、普通の人々(普通って何だ)の生活を書いた小説を「普通小説」なんて呼び方をしてしまうのですが、そんなジャンルは検索すれど出てこない(笑)。造語だったようですね……。「家族小説」や「青春小説」と言い換えてもいいのだろうけど、「普通小説」という言い方はもっと大きな枠なんだよなぁ、と思うのです……が、私くらいしか使っていないみたいなので、この辺でやめておきます(笑)。
この作品も、私の言葉で言えば「普通小説」。紀子の青春時代を早回しで再生する感じ。それでも青春小説という言葉だけでは語れない作品だと思います。家族小説というのもなんか違う。あくまでこれは、紀子の人生の小説なんでしょう。
紀子の一人称で語られる物語。ちょっと硬質な文章表現が重なって迫力を増す感じ、リアリティがないようで確かに感じるリアルな心情・登場人物・人間関係……。時々吹き出すような文章があるかと思えば、胸をぎゅっと掴まれて、息がしづらくなるような切なさ。これが小説を書く才能なんだろうな……と勝手に敗北感を覚えたりしました。結果としてこの作品は、かなり面白かったです。
特に第三章から本格的にページをどんどんめくりたくなるような気持ちになりました。仲良くしていた男子を友人に取られる。こう書くと物凄く陳腐なんですが、その時の感情の揺れ動きとか、恋のからくりや駆け引きを知るところ、恋愛における敗者と勝者の差なんかがずーんと刺さってきます。でも大丈夫! 小中学生の恋愛はそれでいいんだよ紀子! と精一杯の共感を覚えるとともに、甘酸っぱいというより残酷で、でも現実ってこうだよね、と思わせるこの恋愛模様が……正直私はかなり好きです。目が離せませんでした。
また、あまり深刻でない場面なんですが、「この世にはできる人間とできない人間の二通りがいて、できない人間には自分の意思で人生を切り開く権利がないと宣告されたのも同然だ。ひどい。ひどすぎる。」という文章が出てきて個人的には「ホントにね~……」とがっくり来てしまいました。発達障害的な意味でですが、もうずっと前から実感して悩みに悩んだことなので、作者が意図していたより多分残酷に深刻に響いてきました……。
そして第八章の恋愛もまたムズムズして笑いあり涙あり。もう、紀子~という感じで。紀子自体特に好感の持てる人物ではないのですが(途中で相当グレるし)、事例が事例だけに、胸が熱くなってしまいました。お相手の保田くんは普通のエロ高校男子って感じでキモッ、としか思えませんでしたが……キッカケがキッカケなんで、やっぱりちょっとは理解できちゃうんですよね……。この恋の行方はいかに!? という甘酸っぱさはなく、恋が病である側面が強調されるところも、甘いだけの恋愛話に「だから?」みたいな疑問符がついてしまうひねくれ者にはちょうどよくダウナーな気分になれるのでよかったです。こういう小説で気分が落ちていくのは本当に癖になりますね!
恋愛のエピソードばかり拾い上げているのは、やっぱり恋愛が一段と強烈だったからかもしれません。ですが、この作品はあくまで紀子の人生の物語。そして題名である「永遠」「出口」……この言葉たちも結構頻繁に出てきて私を少しの間考え込ませました。第九章では太陽系や地球の話まで出てきて「永遠」なんて……となる展開には、私の好みもあってかなりワクワクしました。作者の「つきのふね」も読んでみたい! この作者にかなりの興味が湧きました。
「永遠の出口」はエピローグでそっと語られる状態が、まさにそういうことなのかもしれません。出口とは知らぬ間に抜け切っていて、振り返った時に初めて気づくもの……なんて、今ぼんやりと思いました。
余談ですが、ケイドロ(警察と泥棒)、フラフープ、けん玉、バブル、血液型占い。ホテルニュージャパンの火災は存じ上げないのですが、こういった時代を彩る言葉たちがなんだかノスタルジックでいいですね。特に血液型占いは私が小中学生の時に盛んにバラエティー番組で取り上げられて、B型だった私はB型差別的な言葉を吐かれたり、A型の子と仲良くしていたら「え? A型とB型じゃ相性悪くて大変じゃない?」と言われたり、母でさえOだBだ合ってる合ってる! と騒ぐ日々、しまいには学校が「血液型占いにはなんの根拠もありません」との手紙を配り……情報が発達した今じゃ考えられない破天荒な時代だったなぁ、というのを思い出しました。もちろん、この作品の時代は私が生まれるよりも前なのですが、なんていうか、人間って昔はこうだったなぁ、とか懐かしむ気持ちになりました。