3.黒い家(貴志祐介)
【くろいいえ】
短い大学時代に買ったのをずーっと積んでいて、四年経った今ようやく読みました。内容はすなわち生きている人間の怖さを書いたホラー。日本ホラー小説大賞を受賞している有名ホラー……なのですが、怖くはないかなぁ……。
視点は三人称一元視点。若槻が視点人物で主人公です。
読み始めてまず、文章がとても読みやすいと感じました。ホラーでこの文章力。これは受賞理由の一つに確実になっていると思います。
肝心の内容ですが、前半は若槻の働く生命保険会社の実情・生命保険の知識が羅列されていて、なんとなく説明を読まされている気分……。興味深くはあるのですが、「私ホラーを読んでいるんだよね? いつまで生命保険の話するの……?」とページをめくるスピードが上がらず。物語の地盤固めのためというのは分かるのですが、恐怖を提供する中心人物に動きがあるのが大体ページの半分を過ぎたあたりという遅さ。
そしてホラーとしては、舞台(ディテール)を整えるだけ整えて、そこまで爆発力がない。大体その中心人物が深みのないいわゆるサイコパス(と小説内でしっかり説明されています)で、恐怖を演出するやり方がただグロくて痛いだけというのが……なんというか、思ったよりストレートですね……という感じ。
怖い要素を集めて怖い人間を作ろうとしたけど、意外性がなくなって逆に怖くなくなってしまった、みたいな。
全体的に、ホラーを表現するのに捻りや工夫をあまり感じられない。作者もそこに力を入れたわけではない気がする。
さらにこの作品の中心人物はサイコパスではあれど、一応目的がハッキリしているので、そこまで理解不能で怖いというわけでもない……。どこかしらただの恐怖の装置のようにさえ感じられる描写のドライさも恐怖を薄めている原因かもしれません。情念というものが感じられないから、後を引かないサッパリとした読み心地なのです。言ってしまえば、このサイコパスな犯人だけでなく、どの登場人物にもいまいち深みが感じられない(笑)。
生きている人間の怖さなら、人間心理を洞察した普通小説やミステリーの方が身近なぶんずっと怖いと感じられます。
そうは言っても、後半はサスペンスという意味でなかなかハラハラできました。
まぁ、犯人のモンスターぶりに「一人でそんなに可能なの!?」と微妙に笑いに転じそうになった部分もなくはないですが。
なぜか一番印象に残ったのは、若槻が松井刑事に対してわざと大声で「お願いします!」と言うシーンです。若槻策士だなぁ、とニヤニヤしてしまいました(笑)。
本編とほとんど関係ない豆知識にも興味が湧きました。オーストラリアでカンガルーをはねても車体が傷つかないように取り付けられた車の鋼鉄のガードは歩行者を殺害する凶器であるのに規制されない、とか。関西人にとって標準語でまくしたてられるほど癇にさわることはないのだ、とか。
社会派でSF風味。ホラーというジャンルの間口の広さを感じました。最後に思うのは、この舞台のディテールを組み上げた部分を評価せざるを得なくて、賞をあげたんだろうなぁ、ということです(いい意味で)。