2.偶然の祝福(小川洋子)
【ぐうぜんのしゅくふく】
7編収録の短編集。分類するなら普通小説? 私小説のような小説? この日本なのに(多分)異国のような空気感は作者独特です。
語り手の名前を出さない一人称。少し二人称っぽくなるところもあるのですが、作中の人に向けて「あなた」と呼びかけているので、正しくは一人称……だと思います。
小川洋子さんの言葉は一つ一つが平易なのに、集まると大きな意味を持ち、色を持ちます。言葉を連ねることの力のようなものを感じます。つまり、こんな簡単な単語を並べるだけでもこうやって映像化できちゃうんだ! 心情が描けるんだ! という驚きのようなものを感じるのです。
また、物語に大きな起伏やアクションはほとんど目立たないのに、それでも「何かありそう」と思わせて引っ張るのはやっぱり上手い。
作家、アポロ(犬)、指揮者、息子、弟、カタツムリの縫いぐるみ、病人……。様々なモチーフが共通していて、「あれ? もしやこれ連作?」と気付いたのは本当に終盤になってから(鈍い)。何せ電車の待ち時間にちょこちょこ読んでいたもので、全く同じ「私」の話とは思わなかったのです……。今でも「あれとあれの『私』って同じ?」とちょっと首を傾げてしまうくらいです。それでも内容を感じる上ではあまり問題はないとは思います。薄い本ですぐ世界に入れるので(純文学はどこで読むのを中断してもいいので旅に向いているとかいないとか……。確かにミステリーよりは中断しやすいですよね。あっでもこれ純文学なのかな?)、ちょっとした時間に読めるのはよかったです。
「失踪者たちの王国」「エーデルワイス」「蘇生」あたりが印象に残りました。「エーデルワイス」の弟(仮)の登場時のインパクトは結構凄かった(笑)。「蘇生」のお婆さんも短い登場なのに何だか心に残る。「蘇生」って、まだ読んだことがないけれど、作者の「貴婦人Aの蘇生」と関係がありそうですね。
「キリコさんの失敗」という話は以前国語の教科書で読んだので、ここだけ再読になります。ちなみにその時は作為・あざとさ……つまり「なーんか出来過ぎてる。人が作ったみたい。狙ってる」というような感想を抱き、あまり好きになれなかったのを覚えているのですが、今回もやっぱり似たような気持ちになりました(笑)。
「時計工場」の淫靡さには息を詰めてしまいました。本来こういう描写はあまり好きじゃないのですが、小川洋子さんの筆致にかかると、不快感がないどころか、どんどん読ませて! という気分になります(笑)。
題名についてですが、「偶然」という単語は多分二回、「祝福」は多分一回出てきました。その度に何だか意味深に感じて、その単語が使われた箇所で僅かな時間立ち止まってみたりしました。タイトルの言葉を小説に使うのはやっぱり効果的ですね。