1.リング(鈴木光司)
【りんぐ】
超有名ホラー。でも映画も全然見ないし、ストーリーも全く知らなかったので、あっこれが○○が出てくる作品なのね! と読んでいて知りました。
数行ごとにコロコロ変わる視点。神視点?三人称多視点? こういう視点はあまり使われないという指南書(大沢在昌の『小説講座 売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない』)を読んだのですが、私はこういう視点も決して嫌いじゃないなぁ、と思いました。皆の思っていることや行動の理由が数行ごとに分かるので、物語がスピーディに動く感じがするし、コンパクトに収められるように思います。要は読めればOKという気もします。
内容ですが、序盤は大変面白い! 論理性のある文章で、ミステリーのようにばらまかれる伏線・謎を回収し、問題の核の部分を探り出していく展開。登場人物の察しのよさに時々ついていけなくなるも、イライラ感・じれじれ感は全然ない。常に人の動きを感じる、「動」の小説。
ホラーとして好きなシーンもいくつかありました。ビラ・ロッグキャビンに出向いた浅川が、レストランで食事する人達に違和感を覚えるシーン。和製ホラーのじめじめとした空気感が素敵! こういう人の生活の中にあるホラー的な「気づき」にドキッとします。
もう一つはビデオ映像の意味不明さ。こういった、人間の頭で生み出したとは思えない脈絡がないことの怖さ、というのもとても好きです。
ホラーといってもユーモアを感じる文章も結構ありました。
中盤の解決策を求めて登場人物たちが飛び回るところは、やや説明的で、経過をただ見せられている感じがして、少し退屈しました。もうちょっと主人公たちに対してアクションがあるとよかったかもと思います。天然痘、というキーワードが出た辺りで、これはきっと○○の死体が天然痘のウイルスをばらまいて、人類が危機に陥るという終わり方に違いない! そうだったら嬉しい! と予想を立てていましたが、違いましたね(笑)。また、浅川と竜司のリミットが違うところがキーなのかと想像していましたが、これも少し違いました。
ちょっと微妙になったかな~と思って読んでいた終盤。ラストもラストで、それはガツンと来ました。これには愕然としました。一気に物語に引き戻されました。
あやふやな未来しかないのなら……。所詮、人間は……。私は誰の行動も否定できません。だって、これはエゴとは言い切れない真理なのかもしれないから。ホラーという枠に収まりきらない、世界の秘密に触れた本作は、ずっしりとした余韻を残します。
それでもホラーだからか、あれはどうなったんだっけ? と思う箇所がいくつか残ったのは少し気になりはしました(笑)。ヘルメットの彼はなぜ? 車の彼らはなぜ? まぁ、それは考えても仕方ないか(笑)。
竜司のキャラクターがなかなか面白いと思う自分と、そこまで嵌りきれない自分がいました。多分この辺は、もうちょっとページ数があって積み重ねがあると、心を動かされる箇所なのかもしれません。