魔王談、メイド著 【 勇者さまの倒し方 】 @vs意味不明な幸運と最適解を紡ぐ、死に戻り系野郎
魔王城に務めているメイドさんは準備を欠かさない。
何時いかなる時も対勇者の方策を考え、魔王さまに上申しなければならないのだ。
だから今日もイメージ・トレーニングをするのである。勇者さまが何時来ても対処できるように。
それが魔王城勤務のメイドが求める理想のメイド姿なのである。だが――
「浮かばない! 正統派勇者さまばかりで、幸運系勇者さまの対策が浮かばない!」
何でどいつもこいつも意味不明な最適解を紡いで、絶体絶命な場面を簡単にすり抜けられるんだ!!
こんなの幾ら魔王さまでも倒せっこないじゃないか! チートだ、チート!! ズルい!!
「何を喚いているのだ。メイドよ」
そんな風に一頻り喚いた所で、通路の奥から魔王さまがひょっこり現れた。
二本の角に真っ黒フェイス。見た感じのビジュアルが些か適当だが、この御方こそ魔王と呼ばれるに相応しい実力と冷酷さを兼ね備えていらっしゃる、魔王の中の魔王さまである。
「魔王さまっ、申し訳ございません。勇者さまを倒す方法が思いつかないのです!」
「ふっ……その程度の事で悩んでいたのか。良い。どのような勇者なのか、私に話してみるが良い」
「おぉっ……」
不甲斐ないメイドを叱責するどころか、率先して相談してみろと仰って下さる。器の大きい方です。ビジュアルは残念ですけど。
「幸運系勇者さまの倒し方ですっ」
「成程、死に戻り持ちか。一見、何でもない容貌や素質持ちだというのに、訳のわからぬ解を連発する輩だな」
流石は魔王さま。既に出会ったことがあるような体で話されています。
「で、では対策が?」
「そいつらは我が軍勢に丁重にお招きした後、酒池肉林にて懐柔して無力化したぞ」
――え? もう、倒したことがあるのですか?
「で、ですが勇者さまは幸運、もとい死に戻りという特殊能力持ちなのですよ?」
「だろうな。で? 殺意を向けられなければ居ないのと一緒だ。懐柔出来るというのならしない手は無い。女、酒、金、地位、総てくれてやって堕落させてやれば良いのだ」
魔王さまは調教師。メイド覚えました。
ですがまだまだ不安要素があります。そんな死に戻りというチートな力を持つのなら、自殺してやり直すことが出来る筈。
「自殺されたりして、運命改変されませんかね?」
「なるほど。己の命を賭けて死に戻りをするかもしれないと……ふむ、メイドよ。その着眼点は良い。だが甘いな」
「なっ!?」
異世界に召喚された勇者は大概がチート持ちだ。神やら魔女やらが力を分け与えまくっているらしい。
だが、それこそ隙がある証左なのだと魔王さまは仰られました。
「まず死に戻りを特殊能力として持つ者は、大抵が普通の人間なのだ。故、死に対する恐怖心が無い訳ではない。死ねば死ぬほどメンタルが強化されていくという特性を有しているがな」
「ですが、恐怖心を乗り越えられたら……!?」
「それはそれで、大いなる脅威になるであろうな」
だが、魔王さまの表情は涼やか……な、気がする。ビジュアルが残念すぎて表情がよく解らないけど。
「勇者は幸運にも死に戻ったとしよう。だが先に言ったとおり、普通の人間なのだ。そして何故このような力を与えられたかについては、大方伏せられている傾向にある。なのに魔王を倒すという大義名分を奪い、更に成長させないようヨイショし続ければどうなる?」
「そうなれば当然ブクブクと太って、とっても怠惰に……まさかっ!」
「そうだ。勇者はその名に恥じるような醜態を晒し、厳しい運命に立ち向かうような気概を次第に無くすだろう……その姿を勇者の仲間に見せれば良い。更に酒池肉林にて懐柔し、子を孕ませさせれば魔王軍に愛着も湧こう。クックック……やはり永久保存の魔法を創って正解だったようだ」
この魔王城に無限とも思える食材が腐ること無く山のように積み上げられて、美人なメイドさんが沢山働いているのはそのような理由があったのかと、メイドは目から鱗が落ちる想いだった。
決して自分がエロいことをしたいからとか、買いに行くのが面倒くさいとか言い出す、駄目駄目な魔王さまが居らっしゃったとか、そういう理由ではなかったのだ。
「さ、流石でございます! 魔王さま!」
「ふっ……止せ。この程度のこと、造作も無きことよ」
何処まで本気なのかはビジュアルからは想像も出来なかったが、今日も魔王城は平和でした。