禁じられた遊び
回転寿司なんて久しぶりねって、君は喜び勇んでマグロを取った。一皿140円は、少し高級なのかもしれない。僕は備え付けのタッチパネルで、炙りサーモンを2皿注文した。どうせ君が「1つちょうだい」って言うに決まってるから。
「相席よろしいですか?」
ボックス席に向かいあう形で食事を楽しんでいた僕たちに、そんな空気読まずの台詞が浴びせられたのは、新幹線型のトレイに載って、注文した炙りサーモンが2皿手元に届いたのとほぼ同時だった。
「え、いや、今日は彼女と二人で―」
初夏だというのに、ロングコートを羽織った不気味男だった。男はポケットからガスコンロとエアガンを無理やりくっ付けたヘンテコな銃器を取り出して、彼女の顔面に照準を合わせると、「ファイヤ」。カチリ。ボウッ。
「……へ?」
彼女は燃えていた。整然と流れていく寿司ネタ、我関せずの客と店員。彼女が燃えているのに。僕はとりあえず炙りサーモンを2皿トレイから取り上げて、自分と彼女の前に配膳した。
「ひっ、ひやぁぁぁぁあああああ!!!!!」
「おさがわせしました」
ロングコートの男は彼女の悲鳴と共にその場から立ち去った。男が見せた誠実な態度に、僕は後を追うことが出来なかった。客と店員が迷惑そうな顔を僕たちに向けている。
「とりあえず、これ食べたら出よっか?」
僕は居たたまれなくなって彼女にそう提案した。彼女は燃えてる真っ最中だったので返事をしなかった。
失礼な女だな、僕はそう思った。
彼女の分の炙りサーモンを奪ってやった。彼女は何の反応も見せなかった。
お会計は500円で足りた。帰りの車中、僕は助手席が空いていることが不思議でしょうがなかった。誰か居たような気がするのに、思い出せない。
翌日病院へ行くと記憶欠損だっと診断された。何か衝撃的な出来事に遭遇した時、自己防衛手段の一つとして「忘れる」という選択肢が取られるとのことだった。人間ってすごいなーと思った。
家に帰ると初夏だというのにロングコートを羽織った不気味な男が待っていた。どうやって入ったんだろう?
「何かご用ですか?」
僕がそう言うと男はコートを脱ぎ、顔面の皮膚を〝剥ぎ取った〟。下から現れたのは可愛らしい女の子の顔―僕の、僕の彼女だ! 思い出した! 彼女は僕の彼女だ!
彼女は背後から表示板を取り出し陽気な声でこう言った。
「トゥットゥル~、どっきり大成功!」
彼女は死んでいなかった。燃えてなんかいなかったのだ。でも、アレ? じゃあ寿司屋で燃えたのは誰? 彼女が表示板を投げ捨て近づいてくる。僕と彼女との距離がなくなる。彼女は僕を抱きしめる。きつく、きつく。そして僕の耳元で囁く。
「あんな女のこと、思い出さなくていいんだよ?」
僕は、本当ハ誰ノコトヲ忘レテイルノ?