トイレ
ぽちゃん・・・。
誰もいないであろう学校の放課後のトイレ
静かな空間に響く音
それは動物として当たり前のことなのに
時に人を羞恥に追いやり、時に人生を変えられてしまう
そんな何かが和式トイレに舞い降りた
しかし、今日はいつもと何か違っていた
和式トイレ「父さん!?」
?「・・・なんだ、和式か。」
そう、それは余りにも大きかった。
全てを包み込むような余りにも大きな無視などできない存在
不器用で、無口で、ぶっきらぼう。
だけど、全てを許してくれそうな温かい存在
和式トイレ「どうして父さんがここに・・・。」
?「世界は狭いんだ。会うことなんて良くあるだろう。」
それは体外に出た瞬間、すべてのものを幸福へと導く存在
快感を誤認し、その道にいってしまう人も少なくはない
和式トイレ「今頃なんだって言うんだ。あの時僕を置いていったくせに。」
?「あれは仕方がなかったんだ。」
彼の母は、優しい母だった。
母がいるだけで周りの空間が明るくなるような
色でいうなら母がいるだけで周りは黄色に染まっていった
?「あの時、私はひどく弱っていた。」
対して父は余りしゃべらない人だった
無口のわりに体が大きいもんだから、人一倍怖がられていた
?「度重なるストレスでな。」
父は津波のようないじめを受けていた
何度も何度もストレスを受けた体は次第に周りから崩れていき
少しずつ父を小さくしていった
父のいる空間は、母の力でもどうしようもなく
暗くなっていた
色でたとえるなら茶色い空間だった
暗い色は有無を言わさず周りの色を巻き込んでは茶色に変えていった
和式トイレ「あのときの父さんはいるだけで迷惑な存在だった。だからって母さんと僕を置いてどこかにいくことないじゃないか!」
父は逃げ出したのだ
ぼろぼろになった体の父は、いともたやすく津波に押し流されてしまった
彼を置いて
和式トイレ「それから僕は水面上では笑ってすごしていたよ。」
彼は、泣き続けた
もう父は戻ってくることがないことを悟ったように
その涙を流すほど、父は遠くへいってしまうのではないか
しかし、涙は止まらなかった
?「お前までこっちの不祥事に巻き込みたくなかったんだ。」
知っていた
全部知っていた
父さんが僕のために出て行ったことも
返済するには水を掴むような借金だったが、彼には一銭も借金は回ってこなかったこと
出て行った後も親戚に預かってもらうように伝えてあったこと
和式トイレ「だったら何で僕を置いていったんだよ・・・。」
?「あの時は私たちがいないほうが、お前にとっても幸せだった。」
和式トイレ「知った口を利くな!」
彼は怒号した
涙した
その涙は父を押し流し手しまうほどの思いが詰まっていた
しかし、父はすんでのところで止まった
和式トイレ「やっぱり父さんは大きいや・・・。」
涙は父を伝わり、彼に跳ね返ってくる
茶色い空間が染み渡る
和式トイレ「・・・今は水に流せないけど、これからは、水に流せるような父になってくれよ。」
?「すまなかった」
和式トイレ「水臭いや、親子だろ?敬語はやめろよ。」
?「そうだな。」
彼はそっと目を閉じ、
和式トイレ「これかよろしく頼むよ。」
そしてゆっくり目を開けた
和式トイレ「父さん。」
しかし、彼の目に映っていたのは黒いゴム質のものだった
ギュッポン!
和式トイレ「父さん?」
ギュッポン!
和式トイレ「父さーん!」
彼が再び涙すると父はまた深い闇へと流れて行った