第二話
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「私のこと、名前で呼んでいいよ」
「じゃぁ……夢乃……ちゃんでいいかな?」
「うん!」
「私の名前は……」
「名札を見ればわかるよ。めいちゃん!」
「ははは! そっか。よろしく、夢乃ちゃん」
「よろしくね、めいちゃん」
昨日のことがきっかけで私たちは友達になったの。私たちは休み時間お互いに横を振り向き、おしゃべりをするようになった。
夢乃ちゃんは私が思っていた通りの見た目も性格も本当にかわいらしい女の子だった。しかし昨日、真理子先生に注意されてから夢乃ちゃんはクマのぬいぐるみを学校に持ち込まなくなってしまったの。
「夢乃ちゃん、平気?」
「なにが?」
「だって夢乃ちゃん、あの子がいなきゃ困るでしょ?」
「まぁ、ちょっとさみしいけれど家に帰れば会えるんだし、それに……めいちゃんがいるから平気!」
「夢乃ちゃん……」
夢乃ちゃんは自分の言ったことに照れてしまったようでほっぺたをピンク色に染めていたわ。
「め、めいちゃん、もしよかったら今日、うちに遊びに来ない?」
夢乃ちゃんの言葉を聞きびっくりするも、私はうれしくてうれしくて思わず席を立ちあがり大きな声を出してしまったの。
「行く行く! 絶対行く!」
その瞬間、またもや昨日のように教室が静まり返ってしまったの。私はハッと口に手を当てゆっくりと着席した。その横で夢乃ちゃんは「クックック」と言いながら笑うのを必死でこらえていたの。私は小声でそんな夢乃ちゃんに軽く叱ったわ。
「もーう、夢乃ちゃん!」
すると夢乃ちゃん、目じりから出た涙を指で軽くふきながら笑顔でこう言ったの。
「めいちゃんって面白いね!」
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「ここが夢乃ちゃん家か~」
「引っ越してきたばかりだからまだ荷物全部片づけてなくてきれいじゃないかもしれないけれど……」
放課後、私は急いでうちに帰り、夢乃ちゃんが住んでいるマンションの近くの公園で待ち合わせをし、彼女の家へと向かった。
夢乃ちゃんの家についたとき、彼女は軽く笑みを浮かべながらそう言い、玄関のドアの鍵を開けたの。
ガチャ
「お邪魔しまーす」
私は初めて友達の家にお邪魔した。なんてたって私にとって夢乃ちゃんが初めてのお友達だったから。
家の中は私が思っていたよりも広かったわ。玄関を抜けてリビングに入るドアを開けると目の前には大きい窓があり、そこからまぶしいくらいに日差しが入り込んでいて、その横にはうちにある四十型のテレビよりももっと大きいテレビがすまし顔で鎮座していた。そしてそのテレビの反対側に、北欧の家具っぽいスタイリッシュな四人掛けのダイニングテーブルがこれまたおしゃれなマダムのようにきれいにそこの位置に収まっていたの。
「なんかおしゃれだね!」
私は感嘆の表情を浮かべ、思ったことをそのまま口に出した。すると夢乃ちゃんは軽く微笑み、一言「ありがとう」と言うとそのまますたすたと奥の部屋へと私を案内したわ。
「ここが私の部屋よ」
そう言い、カチャリと夢乃ちゃんがその部屋のドアを開けると先ほどのリビングとは打って変わって、淡いピンク色の家具とたくさんのぬいぐるみがバランスよくこの部屋に置いてあったの。本当に夢乃ちゃんらしいとてもかわいらしい部屋だった。
「なんか可愛い部屋だね!」
またもや私は思ったことをそのまま口に出してしまったわ。
「そうかな……。ありがと。でもまた一年か二年後に引っ越しっちゃうんだけどね」
「え?」
私は笑いながらも切なげな表情でそんな言葉を述べる夢乃ちゃんの顔を見つめる。すると夢乃ちゃんは俯き加減で私の一言だけの質問にこう答えたの。
「うち、転勤族なんだ。なかなか一つの町にずっといるってことは珍しくて、長くても二年くらいで引っ越しちゃうんだよ」
「あ、そっか……」
そう言いながら私はどんな顔で夢乃ちゃんを見ていいのかわからなくなってしまい、苦笑いを浮かべながらそこにおいてあったぬいぐるみたちを眺めてしまった。
せっかくできた友達なのに……。
心の中でつぶやいた言葉。夢乃ちゃんの転校する日が永遠に来ないでほしいと思った。
「あ、なんか暗くなっちゃうような話してごめんね。飲み物持ってくる。何がいい? オレンジジュースでもいい?」
夢乃ちゃんはそんな暗い空気を変えようと私に笑顔で飲み物のことを聞いた。私はその質問に「うん、なんでもいいよ。ありがとう」といいニコリと笑みを返したわ。
「じゃぁ、ちょっと座って待ってって。今持ってくるから」
そう言い夢乃ちゃんは部屋を出た。おそらくリビング横にあるキッチンへと向かったと思う。私は夢乃ちゃんに言われたとおりに小さい白いテーブルの横にちょこんと座ったの。そしてこの部屋をもう一度ぐるりと見回した。
引っ越してきたばかりだとはいえ、きれいにしてあるなぁ。
そう思いながら一周するとたくさんのぬいぐるみが目に入ってきたわ。もちろん、昨日まで学校に持ってきていたあのクマのぬいぐるみも中央に私と同じくちょこんと座っていた。何とも愛らしい表情をして私を見つめていたわ。
夢乃ちゃん、やっぱりぬいぐるみ大好きなんだね。
私はそのぬいぐるみたちににっこりと笑みを投げかける。ぬいぐるみたちもそんな私に笑顔で答えてくれた。
私がぬいぐるみたちと無言の会話を続けていると、玄関がバタンと響いた。
「ただいまー」
ちょっと大人っぽいでも少女のようでもある声が向こうから聞こえてきたの。
「あ、お姉ちゃん、おかえり」
なるほど、夢乃ちゃんのお姉さんか。
夢乃ちゃんの言葉でお姉さんだと分かった私は席を立ち部屋を出て、リビングに向かい挨拶しようとした。そしてドアを開けた瞬間、長い髪を二つに分け、三つ編みしていながらもその髪の艶がまぶしいきれいな女性とばったり会ってしまったの。
「あら、こんにちは。もしかして夢乃のお友達?」
なるほど、この人が夢乃ちゃんのお姉さんか。そう思い私も挨拶をする。
「こんにちは。初めまして、青木――」
しかし私が自分の名前を言おうとしたとき、お姉さんが両手を合わせて、ごめんというポーズをとり、こう言ってきた。
「ごめんなさいね、今ちょっと急いでいて……。あ、ゆっくりしていってね」
そう言うとお姉さんは、夢乃ちゃんのすぐ隣の部屋にあるドアを開け、バタンという音を立てすぐにドアを閉めたわ。
『はづき』と書いてあったネームプレートを見ながらここがお姉さんの部屋かぁ。と感心しているとお姉さんは数秒もしないうちにまた部屋のドアを開けスクールバッグではない赤いリュックを片方の肩にかけながら急いだ面持ちで再びリビングのほうへと向かった。しかしパッと振り返り、お姉さんはニコリと私に笑みを投げかける。私が笑みを返そうとしたのもつかの間、再びお姉さんは前を向き早足で去って行ったわ。
「じゃぁ、塾行ってくるから」
「いってらっしゃい。何時に帰ってくるの?」
「たぶん八時くらい。じゃぁね」
リビングから姉妹二人の会話がここからでも聞こえてくる。
お姉さん、塾通っているのか。受験生なのかな?
そう思っていると玄関のドアが勢いよく閉められる音がこの部屋全体に響き渡った。
バタン
「ごめんごめん、お菓子探してたら遅くなっちゃって」
そう言いながら夢乃ちゃんはお盆に二人分のオレンジジュースときれいな器に入ったクッキーを持ってきてくれた。
「ううん、全然」
私は手を左右に振り、笑みを浮かべ先ほど言ったその言葉に「ありがとう」とお礼を付け加えた。
夢乃ちゃんがテーブルの上にジュースとクッキーを置くと私は早速、「いただきます」といいオレンジジュースをこくっと一口飲んだ。オレンジジュースの酸味がのどに染みてそれがまた気持ちよかった。
「あ~、おいしい!」
そう言いながら私は手に持っていたコップをコトリとテーブルの上に置く。
「よかった。でもなんかごめんね」
苦笑いを浮かべながら夢乃ちゃんもジュースを一口飲んだ。
「なにが?」
「お姉ちゃん。ろくに挨拶もせずに出ていちゃったでしょ?」
「でも挨拶はしたよ。お姉さん、塾に通ってるんでしょ? 受験生なの?」
「うん、今中三なんだ。科学者になりたくて必死なんだよね」
「え?! 科学者? す、すごい!」
私が目を丸くし驚きの表情を浮かべていると夢乃ちゃんはこんな言葉をつづけたの。
「たくさんの人を幸せにしたいんだって。お姉ちゃん、昔から野口英世の本を読んでいて、こういう人になりたいってよく言ってたんだ。『たくさんの人を笑顔にできるような仕事って素敵だよね?』って」
「お姉さん、すごいね。目標が高いというか、ちゃんと将来を見てるんだよね」
「うん。私もお姉ちゃんみたいな夢や目標、持てるといいんだけど」
そんなことを言う夢乃ちゃんはどこか切なげな表情を見せていた。私は思わず聞いてみる。
「夢乃ちゃんの夢はないの?」
「夢……」
すると夢乃ちゃんはぼそりそう一言つぶやきながら上を見上げてこう言ったわ。
「私もたくさんの人を喜ばせるような仕事がしたい。でもこれといった明確な夢はないの……」
「そっか」
私は数十秒考えた。夢乃ちゃんにはどんな夢が合うのかなって。そして私はひらめいたの!
「ねぇ、夢乃ちゃん」
「ん?」
「夢を売る仕事はどう?」
「え?」
夢乃ちゃんは『はて?』と首をかしげる。
「みんな絶対喜ぶよ!」
「ゆ、夢を売る仕事って何……?」
ようやっとここで夢乃ちゃんが私に疑問をぶつけてきたの。ここで私は得意げな面持ちで夢乃ちゃんに説明をする。
「夢乃ちゃんは夢を売るお店の店員さん」
「え? 本当に夢を売るの?! え? え?!」
夢乃ちゃんは何が何だか分からなくなってしまった様子で目を何度も丸くしていた。でも構わずに私は話を続けたわ。
「そう、夢乃ちゃんはお店に来たお客さんに夢を売るの。あ、でもそのお店は夢をかなえたいって強く思う人だけに見える店なの。だから当然、お客さんは自分の夢をちゃんと持っている人。夢乃ちゃんはお客さんが来店した時にその人の夢を聞いてあげるの。そしてお客さんの夢を聞いた後でどんな夢でもかなえてしまう魔法の液体を渡す。そう、それが夢の液体」
「夢の液体?」
「うん! それを飲んでから寝ると自分の夢が絶対にかなう最強の液体よ! いいと思わない?」
「でもそれで本当にたくさんの人を喜ばすことができるのかな?」
夢乃ちゃんは怪訝な色を見せながら私にそう聞いてきたの。でも私はこう言う。私には自信があったから。
「もちろん! 人は夢をかなえることで幸せになれるんだよ!」
「でも夢は苦労してかなえるからこそ――」
「それで私の夢をかなえてよ!」
私は夢乃ちゃんの言葉を遮り、自分の夢をかなえてほしいと夢乃ちゃんに訴えた。
「めいちゃんの夢は?」
夢乃ちゃんが私の目をじっと見てそう尋ねる。
「私の夢は……」
ゴクリと夢乃ちゃんが唾を飲み込む音が聞こえてくる。
「小説家になること」
すると夢乃ちゃんは優しげな色を浮かべながら手を合わせ、私の夢をほめてくれた。
「小説家? 素敵な夢ね……。私もできることがあれば手伝いたいわ」
「だから、夢乃ちゃんのお店で、『ドリームショップ』でその夢をかなえて!」
続く
こんにちは、はしたかミルヒです!
第二話を読んでくださりどうもありがとうございます! 夢乃ちゃんのお部屋のように淡いピンクの家具を一度でいいからそろえてみたいものです! 女の子っぽい部屋って一生のあこがれ……。だって今の部屋、ヤヴァイっすよww
ってなことでまた明日♪
ミルヒ




