第五話
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「はぁ、ワッフル美味しかったなぁ。また三人で美味しいもの食べに行きたいな……」
私はあの後まっすぐ家に帰り、自分の部屋に入ってから座布団に腰を下ろした後、小さいテーブルの上に肘をつき、今日スマホで撮ったワッフルの写真を見て、そんなことをぼそりと呟いた。
でもやっぱり気になるな……。
何が気になるのかというと別れ際の純の態度。本当に西園寺さんのことが好きなのかと疑ってしまう。
何か純の中に悩みでもあるのかな?
そう思うといてもたってもいられなくなってしまい、純にメールをした。
『今日はどうもありがとね! ワッフル超美味しかったね! また三人で美味しいもの食べに行こう! あ、あとでワッフルの写真送るね♪ ところでさ、私の勘違いだったら悪いんだけど、純、何か悩みでもある? 私、純のこと小さい時から知っているから、純の中で何があったのか本能的に感じちゃうんだ。あ、でも本当に何もないんだったらごめんね! でもいつでも相談して。私はずっと純の味方だから』
うん、オーケー。これで送信っと。
すると十分後、純から返信メールが届く。
『今日はお疲れ! 確かにワッフル美味しかったね! 俺もまた一緒に食べに行きたいよ。 ところでさ、俺の悩みって話だけど、やっぱり由奈はすごいな。由奈の前では隠し事できないのが良く分かったよ(笑)。由奈に信じてもらえるかわからないんだけど、俺の中で何か不思議なことが起きているのは確かなんだ。急にエリカに告白したい衝動に駆られるって自分でどう考えても納得できない。エリカのことは好きだよ。でもそれが恋かと言われると……あぁ、よく自分でもわからなくなってきちゃった! ごめん、メール長くなっちゃったね……。じゃぁ、俺風呂入ってくるわ』
「やっぱり……。でもなんか許せない……」
それを読んだ後、ついこんな言葉が私の口から漏れてしまった。
でもよく考えてみると純は西園寺さんのこと好きじゃないのに告白したくなって告白したってこと? そんなの常識じゃ考えられないわよね……。好きだから告白するものなのに……。
詳しく話を聞いてみたくなった。そこで私はメールで純と会う約束を取り付ける。
『それは西園寺さんに対して失礼だと思うんだけど……。なんか純のことよくわからなくなってきちゃった……(-_-;)。ねぇ、今度の土曜日、遊ばない? それに関してもっと話聞きたいし』
このメールを送って今度は三十分後に純から返信が来た。
『おう、いいよ。確かにエリカに対して俺ってば失礼なことしてるよね……。ちゃんと謝るべきだよな……。でもこの気持ち、どうやって説明すれば……うぅ~! 超悩む! 由奈HELP ME!』
私はこのメールにすぐ返信をする。
『もーう、情けないなぁ~! じゃぁ、西園寺さんも誘って話し合いましょうよ。こういうことは正直に話すのがお互いにとって一番いいわ。でも西園寺さんには当日までこのことは黙っておいた方がいいかも。私の勘だと彼女、こういうシリアスな話し合いは苦手な感じがするし……。純から言ってくれる?』
送信して一分くらいで純から短めのメールが来た。
『了解! 今、エリカからメール来たところだったんだ。ちょうどいいタイミングだから誘ってみるよ!』
このメールを読んだあと私はホッと一息ついた。
とりあえず第一段階はOKね。あとは当日、純は本当のことを西園寺さんに打ち明ける。そして私は…………告白する。
そんなことを考えると体が火照ってしまう。
「あ~! 水、水!」
そう言いながらバッグに入っていた、飲みかけのもうぬるくなってしまっているミネラルウォーターをゴクリゴクリと音を立てながら飲み干す。
やっぱり私ってば、策士……いや、小悪魔なんだろうか?
これだけは言える。少なくとも私の頭の中の天使は居所がなくなっているってこと。
◆◆◆
ガラッ
「おはよう」
私は教室の扉を開けると私の貸した本を読んでいる、まだ教室に一人しかいない純に挨拶をした。
「おっす、由奈。昨日はごめんな」
「ううん、いいの。じゃぁ、今度は私から誘ってみるよ」
そう言いながら私は窓側に座っている純の前の席に遠慮がちに軽く腰掛ける。純はというと本にしおりを挟み、パタリとそれを閉じた後、頬杖をつきながら窓の方を向き、校門にパラパラと入ってくる生徒を眺めながらため息まじりでこうつぶやいた。
「なんでエリカからメール来なかったんだろうな? 何か気づいて怒ってるのかな?」
私は静かな口調でその問いに答える。
「西園寺さんも、気づいてたりしてね。純の本当の気持ち」
「……」
純は私の答えに相槌すら打たずに、ただただ窓の外を眺めていた。純にしては珍しい態度だった。
その時、教室のドアが開かれる。
「おっはよー!」
「おはよう、ユーコちゃん」
「おっす」
純は軽く手を上げ、ユーコちゃんにいつも通りの笑顔で挨拶をした。
「あ~れ~? 朝から何二人でいちゃついてんのよ~~?」
そうニヤニヤしながらユーコちゃんは私たちのもとに近づいてきた。私は、すぐに座っていた席を空ける。
「勝手に座っちゃってごめんね」
「いいの、いいの! 遠慮なく私の席に座んなさいなぁ~」
ユーコちゃんは手を前に出して振りおろし、まるで奥さんが井戸端会議しているときにするような手つきで私と純をからかった。
「そんなんじゃないってば! もーう、からかうのは良くないよ~」
私は苦笑いを浮かべユーコちゃんを窘めた。
「でもさ、私見ちゃったんだよね~」
「なにが?」
純も声には出さなかったが顔をユーコちゃんに向けて「?」と首を傾げた。
「昨日、星野君とエリカが駅で一緒に歩いてるところ! あ、由奈の前では言わなかった方が良かったかな?」
まだこの教室に私たちしかいないのにもかかわらずユーコちゃんは純の耳元で口に手を当て、小声でコソコソとニヤついた顔で言ってきた。そして最後にチラリと私を見る。そんなおしゃべりで噂話好きなユーコちゃんに私はもう一度窘めた。
「ユーコちゃん! 早く席に座ったら?」
ユーコちゃんは左手を頭の後ろに回しながら軽く舌を出し、「あっはー、ごめんごめん!」と言いながら笑って謝ってきた。
「じゃぁ、私は職員室に行って、書類を取ってくるから」
◆◆◆
「失礼しました」
ガラッ
うっ、結構重いなぁ~。
腕の力がないことを後悔しながら両腕に書類を抱え込み職員室から出る私。
こういう時に偶然、西園寺さんが通りかかって私を助けてくれたら……。って危ない危ない!
そんなバカなことを考えていたら書類がずり落ちそうになってしまい、慌てて私は体勢を立て直した。
そうこうしてるうちに教室の近くまでやってきた。 生徒がゾロゾロと教室に入っていく。教室の廊下沿いの窓から教室の中を覗いてみると騒がしくなってきていて、いつも通りの光景がそこにあった。入口の方には西園寺さんの姿もあった。いつもなら嬉しいはずなのに本人を見た途端、緊張が走ってきた。
あぁ、うまく言えるかな……。
すでに開いている扉のレールを跨ぎ、西園寺さんと彼女の隣にいた石橋さんに挨拶をする。
「あっ、おはよう西園寺さんに石橋さん!」
好きな人がいる前で今気づいたような感じで話しかけてしまうのは昔から私の悪い癖だ。早く直さないと……。
少しげんなりした面持ちでいると石橋さんが元気よく私に挨拶をしてきた。
「おはよー、ゆなっち!」
初めてそう呼ばれたあだ名に私は思わずクスリと笑ってしまう。
「まぁ、石橋さんったら! その呼び方、初めて言われたわ!」
石橋さんのおかげで緊張が少し取れてきたみたい。これなら西園寺さんにちゃんと約束、取り付けることができるかも!
私と石橋さんがお互い笑っている間、西園寺さんは純の隣の席に着いた。
今言わなきゃいつ言うんだ? よし、言おう!
石橋さんとの会話を一通り終えた後、私は意を決して西園寺さんのところへと向かう。フゥーと息を吐き呼吸を整える。そして私は西園寺さんに話しかけた。
「西園寺さん、も、もしよかったら土曜日、私と純とで、い、一緒に遊ばない?」
言った! 言えた! あとは西園寺さんの返事を待つだけ……。
西園寺さんの顔を恐る恐る見てみた。すると彼女は私を訝しげに見つめている。
やっぱり言い方悪かったかな? 裏がありそうな感じだったかな? もっと違う感じで言えばよかったかな?
私は床を見ながら自分の言動に反省する。その時西園寺さんの脚がちらりと私の目に入った。再び様子が気になった私は軽く顔を上げ目を西園寺さんに向ける。すると彼女は――
笑ってる? でもなんで? さっきまで私の顔をあんな目で見てたのに……。
そして西園寺さんは一生懸命に笑いたい気持ちを堪えたかのような表情を浮かべこう言った。
「うん。一緒に遊ぼう!」
続く
こんにちは、はしたかミルヒです!
第五話を読んでいただきどうもありがとうございます!
ケース5も五話目にして早くも佳境に入ってきました。エリカ編での行動とは一味もふた味も違う由奈の行動にご期待ください。
ではまた明日♪
ミルヒ




