第四話
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迷うけど……よし、このパーカーと靴下買っちゃおう!
私はレジに向かい店員さんに呼びかける。
「すいません、お願いします!」
すると服をたたんでいた店員が小走りでレジへと向かってきた。少し息を切らしながらも「申し訳ございません、お待たせしました」と言って会計をしてくれる少々ふくよかな可愛らしい印象の店員さん。(柳原香奈ちゃん似!)私は買ったばかりの財布から一万円を取り出し、その店員さんに手渡す。
「では一万円、お預かりします!」
そして私はおつりと買ったものを受け取り、満面の笑みで店を後にした。
「ありがとうございました~!」
喋り方も香奈ちゃんに似てたな、あの店員さん♪
心の中でそう思いながら私は思わずクスリと笑ってしまった。
季節は十一月、東京でもここ最近肌寒い日が続く中、今日はやけに暖かかった。
ジャケット脱いだ方がいいよね。
そう思いジャケットを脱ぎ、先ほど服を買った店の袋にジャケットを押し入れた。
あぁ、この後どうしようかな……。そう考えながらブラブラと適当に歩いていると列に並んでいる見覚えのある人を発見する。私は思わず声をかけた。
「純!」
すると向こうも私の声に気づき爽やかな声色で手を大きく振りながら返してくる。
「あっ、由奈!」
純の声と同時に西園寺さんの姿が目に留まった。私は嬉しくなり彼らのもとへと走った。
「あっ、西園寺さんも純と一緒だったのね~!」
照れてしまい、つい今気づいたかのように話してしまった私。情けないな……と一瞬落ち込む。自分を嫌いになりそうだった。
そんな気持ちになりながらもふとこの列の先にあるお店を見てみるとどうやら新しくできたワッフルのお店だった。その時純が言う。
「由奈ももしかしてここのワッフル食べに来たの?」
「ううん、この近くのお店でさっき服を買って来たんだけどたまたまここを通りかかったら見たことある人を見つけてね。声をかけたってわけ! ウフッ」
「ははっ、その見たことある人ってのが俺か~」
私はちらりと西園寺さんを見た。
あぁ、彼女と一緒にワッフル食べたいな……。食べながら西園寺さんと楽しい会話したいな……。
私は純の顔を見て自分も一緒に食べたいような感じで言ってみた。私って策士なんだろうか? でも勝手に西園寺さんと付き合った純が悪いんだからね。このくらいの邪魔なら文句ないでしょ。
「ほしい服買っちゃったし、ちょうど小腹すいてきたところだし、私もベルギーワッフル食べようかな~」
しかし純は嫌な顔一つせず、私の誘いに乗ってきた。
「おっ! じゃぁ一緒に食べる?」
「ヤッター!」思わず私は心の中でそう叫ぶ。あ、でも一応西園寺さんの了解も取らないとね……。
「え? でも西園寺さんに聞いてみないと……」
そう言いながら私は西園寺さんを見つめた。思わず顔が火照ってしまう。
「エリカ、由奈も一緒にいいだろ? おいしいものはみんなで食べたほうがもっとおいしくなるし!」
純が西園寺さんに同意を得ようとしてくれる。そんな西園寺さんはというと何か下を向いてぼそぼそと呟いていた。
あ……やっぱり、デート中なのにこんなこと言ったらまずかったよね……。
そう思い私は純に「やっぱりいいや」と言おうとしたのだが純は西園寺さんに答えを促す。
「ん? 由奈も一緒じゃだめかな?」
すると西園寺さんはコクリと恥ずかしそうにうなずき、足元の小石をころころと転がしていた。
「うん! エリカもいいみたいだし由奈も一緒に食べよう!」
あぁ、良かった……。あれはOKの合図だったのね。もーう、西園寺さんったら素直じゃないんだから……。そう思ったら嬉しさが込み上げて来て思わず目がウルッとしてしまった。私は彼女に感謝と今の抑えられない気持ちをぶつけてしまう。
「西園寺さん、ありがとう! 私、西園寺さんと前からおしゃべりしてみたいなぁって思ってて! 今日はおいしいもの食べて楽しい話いっぱいしようね!」
そしてどさくさまみれに手を握ってみる。西園寺さんの手は氷のように冷たかった。
でも手が冷たい人は心が温かいって言うしね。うん。
今の私はどんな些細なことでも幸せに感じてしまう「敏感少女」になっていた。
二時間後ようやっと私たちは店内に入ることができた。店員さんがにこにこ笑顔で尋ねてくる。
「いらっしゃいませ! 三名様でよろしかったですか?」
それに純が「はい」と答える。そして私たちは四人がけのテーブル席へと案内される。
あぁ、ようやっと西園寺さんと楽しい話ができる! 何話そうかなぁ。あー! どうしよう? いざそう言う場面が来ると頭が回らないよ~!
私が心の中で頭を抱え込みながら西園寺さんと何を話そうか迷っていると、いつの間にか二人はもう席についていた。私も慌てて窓側の奥に座った純の向かいに座る。まだ今の私には西園寺さんの真向かいに座る勇気がなかったのだ。腰を落ち着かせると心も落ち着いてきた。そうなると本好きの純に勧めなきゃいけないものがあることに気づく。
「あっ、そうだ! 純に貸したい小説があるの!」
そう言って私はバッグから一冊の文庫本を取り出した。
「この小説、超面白いんだよ! 王様が市民に過酷なゲームを課す物語なんだけど、映画化もされてて……」
純は私からその小説を受け取り、パラパラとめくりながら「へぇ~」と言い、興味深い表情を見せていた。ふと純の横の彼女を見てみる。
西園寺さんにもお勧めしたいな……。でもできるかな……。ダメよ! 私から話しかけなきゃ始まらない! 勇気を振り絞り彼女に聞いてみる。
「さ、西園寺さんももしよかったら読んで……みない?」
すると西園寺さんはテーブルの上に右肘をつき窓の向こうを見ながら一言だけ「いい」と返してきた。
「あっ、もしかして西園寺さん、すでこの小説読んだことある?」
「ない。そんな小説面白くもなんともなかったわよ!」
面白くなかったか……。残念に思い、少し俯き加減でいると急に純が笑い出した。
「はっはっは! エリカ! 面白くなかったってことは君、この小説読んだんだろ?」
「え……あ……」
西園寺さんは口を開けながら言葉にならない声を出して顔を真っ赤にさせる。
「エリカってガチ天然娘だな! はっはっは」
「本当、西園寺さんってば面白い。フフフフッ」
西園寺さんの可愛さと純の笑い声に私もつられて思わず声が漏れてしまった。
これで彼女との距離も一歩縮まったかな?
他愛のない話に花を咲かせている中、店員さんが爽やかな笑顔でワッフルを運んできた。まだテーブルの上に置かれていないのにも関わらずバターの何とも言えない芳醇な香りが私の鼻を刺激させる。
「大変お待たせしました~! ミックスベリーのワッフルでございます!」
そう言って店員さんは豪華で色鮮やかに飾られたベルギーワッフルを私たち三人の前に置いた。私はそんな可愛いワッフルを見てつい興奮してしまう。
「うわ~! 超かわいい! ベリーがたくさん乗ってる~! アイスクリームも添えられてるよ! よーし写真撮っちゃお♪」
私はバッグから素早くスマホを手に取り、真上から、そして斜めアングルから二枚写真を撮った。
「この写真、二人にも送るね!」
私は二人を交互に見つめそんな言葉を言う。
「おう! サンキュ!」
純はいつも通り笑顔で私にそう言った。西園寺さんはというと……ワッフルを見つめたままだった。
おいしそうだもんね! 女の子なら可愛いスイーツを見たら興奮しちゃうもんね! その気持ちよくわかるよ!
そう思っているとふと気づく。
あ、私、西園寺さんのメルアド知らないや……。
再び勇気を振り絞って聞いてみる。でもメルアドを知りたいからこんなこと言ったと思われたくないので、確信犯だと思われないようにさり気なく……。
「も、もしよかったら西園寺さんのメルアドも教えてもらえるかな? そしたらすぐこの写真送るから……」
緊張しながらも言うことができた私の言葉に西園寺さんはなぜか不機嫌な様子で「自分で撮るからいい」と言い、自身のカバンからスマホを取り出し、写真を一枚撮った。
西園寺さん、どうしたんだろ? 早く食べたいのに私があんなこと言ったから機嫌悪くしちゃったのかな?
とりあえず何かしゃべらないと! と思い、思いつくことを言ってみる。
「あぁ、やっぱりこういうのは自分で撮ったほうがいいよね! ハハハッ……」
あ~! 何言ってるんだろ? 私……。ダメだ、こんなこと言ってちゃ、西園寺さんとの距離がどんどん離れていく……。すると私の向かいからこんな声が聞こえてきた。
「ア、アイス、溶けないうちに食べちゃおうよ!」
すかさず私はその助け舟に乗る。
「そうだね! 私おなかぺこぺこだし! 食べよ、食べよ! いただきまーす!」
私の合図とともに二人もワッフルを口の中に運んだ。
なにこれ?! お、おいしすぎる!
口に入れた瞬間から濃厚なバターの香りとベリーのソースが上手く混ざり合い、何とも言えないハーモニーが口の中で広がる。そしてこのワッフルの食感。ベルギーワッフルなのでアメリカンワッフルよりもしっかりした歯ごたえで食べごたえもありそうなのだが、なぜか全然重く感じない。むしろもう一口、二口、三口とパクパク食べれてしまう。
その時、私の斜め向かいから「おいしい!」との声が耳に入ってきた。それと同時に私の目が迷わず彼女の方に向かれる。
頬を左手で押さえながら感嘆の表情を浮かべ目をキラキラ輝かせている彼女。とても可愛らしかった。
「うわ! 超うまい! こんなワッフル初めて食べた!」
そう言いながら純も目をキラキラさせてこのワッフルの味に感動していた。私も興奮覚めやらぬうちに二人の後に続きこのワッフルの味に感想を言う。
「本当においしい! 今まで食べたワッフルの中でもダントツだよ! こんなおいしいお店誰が見つけたの?」
「エリカだよ。この前テレビでこのお店の特集やってたんだって。それで行きたいなぁってエリカがずーっと言ってって、それで今日に至ってるってわけ。なっ?」
そのことを言った後、笑顔で西園寺さんを見る純。私も純に負けじと笑顔で西園寺にさんにこう言った。
「なるほどね! 西園寺さんに感謝しないと! ありがとう……」
結局二時間並んでしゃべりながらでもワッフルを三十分以内で食べ終えてしまった私たち。
まぁ、やっぱりこんなもんだよね。でもこんなに美味しいワッフルに出会えたことに感謝だよ!
会計を済ましてお店を出ようと私たちは席を立ち、レジへと向かう。純が伝票を店員さんに渡して財布をポケットから取り出した。それは申し訳ないと思い、私は純を止める。
「今日は私のおごりだよ!」
そう言いながら私はバッグから財布を取り出した。しかし純は私の財布を押し返す。
「いやいや、悪いよ。俺が払うから!」
「ううん、せっかく二人で遊んでいるところを勝手に入り込んで邪魔しちゃったからせめてもの償いだよ! それにこんなにおいしいワッフルを食べることができたし♪」
それに西園寺さんとも距離が少しだけだけど縮まった気がしたし。
そんなことを思い、顔がにやけるのを必死で押し殺しながら財布からさっと五千円を取り出し店員さんに渡した。ふと私のバッグについているキーホルダーを見ている西園寺さんに目が行く。西園寺さん、私のキーホルダーに興味あるのかなぁ? なんて思っているとそんな私の視線に気づいたのか西園寺さんと目が合ってしまった。恥ずかしさにすぐに視線を離してしまった私。
あぁ、ダメダメ! 私ったらすぐ顔が赤くなるんだから!
「ありがとうございました!」
元気のいい店員の挨拶を背中で受け止めた後、私たちは店を出た。
「おごってもらっちゃってなんか悪いな……ほんとサンキュな」
私にそう言いながら純はポリポリと頭をかく。もちろん私は「とんでもない!」と言い、手を左右にブンブン振った。手を数秒振ったところで私は二人に告げる。
「じゃぁ、私はここで。あとは二人で楽しんでね!」
私はもともとお呼びでない人だったからここでさよならするのが当然だと思ったのだが純が帰ろうとする私を引き留めた。
「えっ? もう帰るの? せっかくだからこのまま三人で遊ぼうよ」
その言葉を聞いて嬉しくなってしまい、私の頭の中にいる悪魔の声を借りて「じゃぁお言葉に甘えて」と言いそうになったがもう一人、私の頭の中にいる天使がそれを阻止した。
「いやでも悪いよ! それに家に帰ってからいろいろやることあるし」
「そっか。それなら仕方ないよな。無理に引き留めてごめん」
軽く笑みを浮かべながらもふと哀しげな表情になり、軽く肩を落とした純。ここで疑問に思う。「西園寺さんと二人きりになるのは嫌なのだろうか?」と……。そんなことを考えながらもここでずっと立ち話するのはどうかと思ったので、私はここで別れの挨拶を切り出した。
「今日はありがとう! じゃぁ、明後日また学校でね! バイバイ!」
「こっちこそおごってもらってありがとう! じゃぁな!」
そして私は二人のもとから早足で素早く去った。
邪魔しちゃいけない……。
続く
こんにちは、はしたかミルヒです!
第四話を読んでいただきどうもありがとうございます!
今回は由奈視点からワッフルの話を書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
ではまた明日♪
ミルヒ




