第二話
本日は二話連続投稿します! 第一回
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(あ~! 買っちゃった! 買っちゃったよ! でもせっかく貯めていたお年玉、全部使っちゃった……。でもなんかいい気分!)
ヒカルはドリームショップを出てから桜並木の歩道を悲喜交々(ひきこもごも)しながら家路まで歩く。
今は三月中旬。桜の花びらがひらひらと舞うこの季節の歩道には一面花びらのじゅうたんが敷かれていた。
(もうすぐ私は二年生。また一年が過ぎれば三年生。そして一年待ってようやっと
卒業。カミングアウトするのが怖くってジュンイチ君とあんな約束しちゃったけど、正直私も長すぎて待てないって思ってたんだ。でもこの液体があるのなら……)
そう思うとヒカルは立ち止まり、スクールバッグから先ほど買った夢の液体を取り出し、それを眺めた。
(ジュンイチ君と付き合うことができるかも! あぁ~! どんな人かな? 身長は高めかな? まぁ、低くても優しければいいし! ぜったい優しい人よ、ジュンイチ君は……)
そう思いながら夢の液体の小瓶をギュッと握りしめるヒカル。その時突風が吹き、ヒカルの制服のスカートが激しく揺れ、花びらのじゅうたんはあっという間に消え去ってしまう。その花びらの下にあったコンクリートがどことなく侘しさを感じさせていた。まるで魔法が解けた後のシンデレラのように……。
(どうしよ~! 誰にもパンツ見られてないよね??)
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「ただいま!」
「あ、お帰りヒカル。今日は遅かったわね」
ヒカルは台所にいる母親のところに行き挨拶をする。お玉で味噌を溶かしていた京香は一旦手を止めヒカルの顔をチラリとみるとにっこり微笑んでまた手を動かし始めた。その片手鍋からは味噌汁のいい匂いが漂ってくる。
「まぁ、ちょっと気になった店があってつい寄り道しちゃった」
「どんな店? もしかしてまたあなたの好きな可愛い雑貨屋さんでも見つけたの?」
そう言いながら小皿に出来立ての味噌汁を少量入れ、それをヒカルに渡す京香。
熱々の味噌汁をズズッとすするとヒカルは「バッチリ」と言いながら親指を立てその小皿を返す。
「いやいや、雑貨屋さんじゃないよ。夢を売る店に行って来たんだ!」
ヒカルからその小皿を受け取ると京香ははてと首を傾げながらも微笑を浮かべ小皿をささっと手で洗う。
「夢を売る店? 占い屋さんってこと? ふふふっ。面白いコンセプトの店ね。最近はほんといろんな店があるわね。ない店なんてないんじゃないかしら」
「占い屋さんではないよ。まぁでもすっごく不思議な店だったなぁ。結構高かったけどいい買い物しちゃったし……」
(あっ、しまった!)
ヒカルはハッとした表情を浮かべとっさに口を手で押さえた。そんなヒカルの言葉をもちろん聞き逃さなかった京香はボウルの中にあった人参を手に取り、それを指示棒のようにピシッとヒカルに突き出した。
「ヒカル~! 一体何を買ったのか知らないけれどもしかしてお年玉と毎月あげているお小遣い、全部使ったんじゃないの~?」
「そ、そんな使ってないよ~! ただ思ったよりも高かったなぁ~って言っただけ! じゃ、じゃぁ自分の部屋行って勉強するね~!」
慌てふためいた感じでそう言うとヒカルはさっとスクールバッグを手に取り早足で台所から去って行った。そんなヒカルの背中に向かって叱咤する京香。
「ヒカル~! こら、まだ話は終わってないでしょ~! 無駄遣いはダメっていつも言ってるでしょ!」
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バタン
部屋のドアを閉めた途端フゥーっとため息を出し、安堵の表情を浮かべるヒカル。
「危ない、危ない……。今ある全財産使ってしまっただなんて口が裂けても言えないよ……」
そう言いながらスクールバッグを机の上に置き、ドリームショップで買った夢の液体を取り出す。そしてそれを眺めらがらにんまりとヒカルは微笑んだ。
「ふふふ~ん♪ 早く夜にならないかな~♪」
ヒカルは夜が待ちきれないのかウキウキした面持ちで軽やかに部屋中をくるくると舞い踊りながら鼻歌を歌う。
その時、部屋のドアからノックの音が聞こえた。その音が聞こえた途端、ピタリと足を止め、ヒカルは声をかけようとするがその前にドアがガチャリと開かれた。
「あ、あずみ!」
妹のあずみが部屋に入ると、いたずらめいた様子でヒカルに手話で話す。
『お兄ちゃん、なにニヤニヤしてんの?』
『あずみ、その呼び方はやめてっていつも言ってるでしょ!』
そんなあずみの言葉にヒカルは頬を膨らましながら戒めた。
『ごめん、冗談だって! でもなんでそんなに嬉しそうなの?』
『いや、ちょっといい物買っちゃったんだ』
『いいもの?』
『へへん! 何か見たい?』
ヒカルは仁王立ちになりベッドに腰掛けているあずみを見下ろし自慢げに話す。
『もーう! そう言うふうに言われると見たくなっちゃうでしょ』
『あはは、確かに! ではあずみさんにお見せしましょう!』
ヒカルはあずみの目の前に「ジャーン!」と言う効果音を入れながら夢の液体が入った小瓶を見せつけた。
『どーう? これが巷で話題の夢の液体よ! いちごミルクみたいな可愛らしい色してるでしょ?』
『……』
ヒカルの言動が理解できず不可解な表情を湛え、首をかしげるあずみ。
『夢の液体って何? それに私、そんな液体初めて見た……。ほんとに巷で話題なの?』
あずみに訝しげな表情を湛えられ、つい後ずさりしてしまうヒカルだったが気を取り直し、この液体について説明した。
『……わ、話題かどうかはよくわかんないけど、これを寝る前に飲めば、自分の望みの夢が叶うのよ! しかも夢の中で体験できて、その夢が嫌なら破棄できるの! すごいと思わない?!』
そんなヒカルの説明も空しくあずみは痛々しそうにヒカルを見つめてこう言った。
『……お兄ちゃん、大丈夫?』
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「もーう、あずみはほんと現実主義者だな~! もっと夢を持たなきゃ~!」
ベッドの上に横になりながらそんなことをぶつぶつ呟いているとヒカルのスマートフォンから東野カナの曲が流れた。
「あっ、この曲はジュンイチ君からだ!」
ヒカルは急いで体を起こし、机の上に置いてあるスクールバッグからスマホを取り出す。スマホの画面にはジュンイチ君からのメッセージが表示されていた。
『来週、ヒカリちゃんの誕生日だったよね? 三月二十六日。』
(ジュンイチ君、私の誕生日を覚えててくれたのね……)
ヒカルは途端に嬉しくなり、頬を赤く染めた。そしてすぐさまジュンイチと名乗る相手に返信する。
『こんばんは~! そうだよ! その日は私の誕生日☆ でもよく覚えていてくれたね。私、すっごく嬉しいよ♪ ありがとう!』
すると一分もたたないうちにジュンイチから再びメッセージが届いた。
『ねぇ、その日はもうヒカリちゃんの学校でも春休みに入ってるだろう? その日だけでいいからデートしない? ヒカリちゃんに渡したいものもあるし、言いたいこともあるし……』
そのメッセージを見て硬直するヒカル。
(私に渡したいもの? 私に言いたいこと? 気になる。でも、ど、どうしよう……。会いたい気持ちはすごくあるのに……。でもこんな私を見たら……。男だってばれたくない……)
そう言いながら自身の手を眺めるヒカル。そう、ヒカルは中性的な見た目に反して、手だけはごつく立派な、すなわち男性そのものの手をしていた。何て書いていいのか迷い、スマホの上に自身の指が泳ぐ。
(早く返信しないとデートしたくないんだって思われちゃうよね? でもなんて書けば……)
ジュンイチへの返信の文面に思い悩んでいると一階から母親の京香の声が聞こえてきた。
「ヒカルー! 夕食できたわよー!」
「はーい、今行く!」
(あ、もうそんな時間か……。とりあえず……)
そう思い、ヒカルは空中で泳いでいた指をようやっとタッチパネルにつける。
(こんな感じでいいよね?)
『そうだね、時間があれば行けると思う。じゃぁ、夕食の時間だから行ってくるね。またあとでね♪』
(OK、送信っと……。でも、ちょっと曖昧すぎたかな……)
続く
こんにちは、はしたかミルヒです!
第二話を読んでくださりありがとうございます! 引き続き第三話をお楽しみください♪




