第十話
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街の片隅にある一軒の小さな店。この目立たない小さな店にほとんどの人は気付かない。しかし夢を叶えたいと強く願うものだけが気づく不思議な店。
カラ~ン!
「いらっしゃいませ! ドリームショップへようこそ!」
クマのぬいぐるみを抱いていた夢子はそれをレジ台にポンと置き、笑みを浮かべながら満里奈のもとへと近づく。
「山田様、今日来店なさったと言うことは夢の液体を破棄しに来たのでございますね?」
夢子の言葉にこくりと頷く満里奈。
「そうですか。残念でございます。まぁ、致し方ございませんわよね……」
寂しげな表情を浮かべ足元を見つめる夢子。しかしすぐに顔を前に上げ「ゴホン」という咳払いの後、先ほどまでの寂しげな表情からニコリと笑みを湛えいつもの夢子に戻るとあのことを言い出してきた。
「ではお約束通りキャンセル料、七十万円を先に支払っていただけますか? ウフッ♪」
あ、キャンセル料……。忘れてた……。ど、どうしよう、七十万なんて払えるわけがない……。
高校二年生の満里奈にとって七十万円は大金だ。今の満里奈にはどうやってもそんな大金を得る方法はない。
「ん? どうかしましたか?」
愕然とする満里奈に夢子はきょとんとした面持ちで彼女を見つめる。満里奈は今にも泣きそうな表情を浮かべ夢子の顔を見ながら藁にも縋る思いで心の中で必死に懇願した。
私はあの夢を現実にはしたくありません! かといって私の手元にそんな大金もありません! どうか、どうか月賦払いで返済することはできないでしょうか? お願いです! 私の一生のお願いです!
「そう言われましても、約束は約束ですからね……。払えないのであればその夢を現実にするしかないですわ。なぜ耳が聞こえる様になったのにわざわざその夢を破棄したいのですか?」
すると満里奈は切なげな表情を浮かべ、目を伏せながらこう答えた。
たった一人の大切な家族を失いたくはないんです。どんなに世間から批判されるような悪いことをやっていても私の父親は山田龍二、一人しかいません。それに父は……私をとても大切にしてくれた……。耳が聞こえるようになったところで父を失ったら私は生きている意味がない……そんな世界なんて私にはまったくもって価値がないんです! だから!
そう心の中で叫ぶと満里奈はその場で膝を床に付け、腕を前に出し、頭を下げた。
「え? ちょ、ちょっと山田様! 土下座なんておやめください!」
夢子は必死に満里奈に土下座をやめさせようと満里奈の上半身を起こそうとする。
夢の液体を破棄させてください!!
その顔は真っ赤に紅潮しており、涙がぽろぽろと雨粒のように流れていた。
「山田様のお気持ちは十分理解いたしましたわ、しかしルールはルールですのよ。これを覆すことは誠に残念なことでございますがワタクシには出来ないことなのです」
そ、そんな……。お父さんが死ぬのがわかりきっている未来なんてそれこそ生き地獄よ……。
満里奈はその場で抜け殻のようになり呆然と虚空を見つめる。しかしその時だった――――。
「夢子さん、別に月賦払いでもいいではございませんか」
そう言いながら店の奥から白衣と緑色の髪をなびかせながらゆっくりとした足取りで彼女たちのもとへとやってきた。
「月子さん!」
月子は満里奈の前でしゃがむと呆然とする満里奈を優しげな瞳で見つめ、こう言葉をかける。
「山田様、では月賦払いということで契約を成立させましょう。では夢の液体が入っていた小瓶を私に返していただけますか?」
え……? でも……
そう思いながら満里奈は不安げな表情で夢子に顔を向けた。そんな夢子はもちろん月子の言動を諌める。
「月子さん! わかっていらっしゃるのですか? 何度もワタクシは申し上げたはずです! 一度約束した契約を勝手に破棄してはいけないと!」
「やっぱり夢子さんはあのお方が怖いのね。でも今回のケースは私に責任があるわ。あの液体を作り出してしまったのは私、張本人ですから……」
「で、でも……あのお方がこのことを知ってしまったら月子さんはどうなるのよ……」
夢子は不安げな表情になり顔をゆがませながら、か細い声で月子に訴える。
「夢子さん、心配無用ですわ」
月子はゆっくりと立ち上がり夢子の肩に優しく触れ、薄い微笑を浮かべながら夢子にそう告げた。
「さっ、とりあえず山田様の夢の液体を破棄いたしましょ。では山田様、小瓶の方を……」
満里奈は顔をパァーっと明るくさせるとバッグから夢の液体が入っていた小瓶を取り出しそれを月子に渡した。
「はい。ではこれで山田様の夢の液体の効力は無効となりました。またのお越しをお待ちしております」
本当にどうもどうもありがとうございます!
そう心の中で幾度も唱えながら満里奈は月子に深々と何度も頭を下げた。
「あらら、そんなに頭を下げないでくださいな。お金はちゃんと払ってもらうんですから。ということで月賦払いのことは忘れないでくださいね。支払いが滞った時点でこの夢がまた現実のものとなりますので」
そんな月子の微笑を見て再び満里奈はぽろぽろと涙を流した。しかし今度は笑いながら……。
はい、わかっています! 必ず返済しますから!
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二年後――――
『孤独のヒーロー モンスターバスター!』
「へぇ! 凄いね! 満里奈ちゃんの漫画がアニメになるなんて!」
満里奈の家に妹とともに遊びに来ていた加藤ヒカルが満里奈の代表作、『モンスターバスター』のアニメを観ながら感嘆の表情を浮かべそう話す。そんな満里奈は満面の笑みを湛え手話でこう答えた。
『うん、私も今すごく幸せだよ! お父さんももうすぐ退院できるし!』
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「用意ができたぞ」
地面が震えるような低い声で黒い衣服に覆われたその者が二人に声をかける。
「「はい、了解いたしました」」
夢子、月子とともに修理のため(夢子は目、月子は脚)店の奥に設置してある集中治療室へとその者を先頭にして向かう。集中治療室までの道のりは薄暗く、まるで灯りのないトンネルを歩いているようだった。
そんな道を歩く中、ごくごく小さな声で夢子は月子に呟いた。
「私たちはあの時から人間ではなくなったのですわよ。思えていらっしゃいますか? 月子さん」
そんな月子は表情を一つも変えずにこう答える。
「えぇ、忘れもしませんわ。走馬灯が見えたくらい私たちは半死半生でしたから」
「そんな私たちを助けてくれたのはあのお方……」
そう言いながら夢子は前を歩くあの者の後姿を切なげに見つめた。
「夢子さん、ところで次のターゲットは?」
「加藤ヒカルですわ。修理した後、西園寺エリカが亡くなった直後にタイムスリップいたします」
「そう……。いつになればこんなこと終わらせることができるのかしら……」
そんな月子の言葉に訝しげな表情を浮かべ夢子は尋ねた。
「月子さん、なぜ急に心変わりされたんですの? ターゲットのことなんて何も考えていなかったあなたが……」
「それは……では、なぜあなたは青木直人に――」
すると先頭を歩いていたあの者が立ち止まり二人に声をかける。
「さぁ、着いたぞ。中に入れ」
「「はい」」
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『ジュンイチ君、ずっとチャットできなくてごめん』
『ヒカリちゃん、いいんだよ。俺も学校でちょっと不幸があってチャットできる状態じゃぁなかったから』
『ジュンイチ君も? 私の学校でも同じクラスの子に不幸があって……それで気が滅入ってて……』
『やっぱりクラスメイトがいなくなるって心にポッカリ穴が開いたような感じになるよね』
『そうよね……』
『ねぇ、この間言ってた卒業したら会う約束、あれってほんとにほんと?』
『えぇ……卒業したら会うかも……』
『会うかもって?』
その時ヒカルの母親が階段下でヒカルを呼ぶ。
「ヒカルー! 夕食出来たわよー!」
END
こんにちは、はしたかミルヒです!
満里奈編、最終話をよんでくださりどうもありがとうございます!
次回 ケース8:女の子になりたい(ヒカル編)を二月上旬に投稿したいと思います。
日にちが近くなればTwitterや活動報告で告知しますのでどうぞよろしくお願いいたします(^^♪
ミルヒ




