第八話
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母さんが帰った後俺はすぐに風呂に入った。浴槽に浸かりながら母さんの言葉を思い出す。
『あぁ、やっぱりあの女に洗脳されてるんだね。早く別れたほうがノボルのためだよ。母さん、そう思う』
あの言葉が頭から離れない。昔からどんなことでも母さんの言った言葉は全部信じてきた。今でも母さんの言ったことは全部正しいと思っている。父さんのことが信じられなかったから余計にそう思うのかもしれない。しかし茜のことを否定されると……
「茜は少なくとも悪い女性じゃない……よな……」
茜と初めて会ったあの時、茜と初めてデートした時、茜と初めて口づけを交わした夜。茜に一緒に暮らそうと言った時の茜のあの表情。
「顔をしわくちゃにしながらうれし泣きしてたっけ……」
茜との出来事を思い出すたびに胸の底から嬉しさが込み上げる。
母さんのあの言葉を今回ばかりは信じたくない気持ちの方が上回っていた。しかし母さんを信じなければいけないという気持ちが頭の隅にまだあるのも事実。
「はぁ、どうすりゃいいんだ……」
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「今日は、甲子園球場から私、アナウンサーの杉内正信と解説、ドルフィンズ、そしてシャークスでピッチャーとして大変活躍しておりました長野伸也さんでお送り致します。長野さん今日はよろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
「シャークス、今日の先発はもちろんあの男、金子ノボルです! 長野さん、金子は三試合連続完封を成し遂げましたが今日も完封試合に期待してもよろしいでしょうかね?」
「金子は今年も相変わらず絶好調ですからね。金子が出れば、絶対シャークスは負けないと言うくらいですし。今日も期待していいと思いますよ」
「はい、では今日も金子の完封試合に期待しましょう!!」
今日の試合、モチベーションがなかなか上がらない。正直言うとまだあの母さんの言葉を引きずっている俺がいる。
俺ってメンタル、こんなに弱かったっけ……?
「ノボル! 今日も俺たちに魅させてくれよ!」
「…………」
「ノボル!」
「え?! あっ、スイマセン、松井さん! んで何を見させてくれるんですか?」
俺はついトンチンカンなことを言ってしまう。
「お前なぁ、もう試合始まるぞ! 大丈夫か??」
俺の相棒、キャッチャーの松井さんはいつも俺のことを心配してくれる人の一人だ。
「だ、大丈夫ッス!」
「よし! じゃぁ今日もお前の三振ショーを魅せてくれ!!」
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シャークス対レオパーズの試合が始まった。
「ピッチャー金子、マウンドに上がります」
俺は足でマウンドの足場を整えてから、いつも通り気合を入れる。
今日も完封するぞ……よし!
「レオパーズ、最初のバッターはライトの真鍋」
「真鍋は今シーズン、絶好調ですからね」
「そうですね、真鍋は今シーズンの打率ランキング二位をキープしております」
「二人の対決は見ものですね」
「さぁ、ピッチャー金子投げました!」
「ストライク!」
「まず初球はストレート。おっと百五十二キロでました!」
「今日も初球から百五十二キロ越えだと完封勝利、期待できそうですね~」
次は何で行くか……またストレート? カーブ? 俺の得意なシンカーで行くか? 松井さんは何を……おっ、それで行きますか! よし、了解!
「金子二球目投げた!」
「ボール!」
「金子、二球目はチェンジアップできました! しかしこれはボール」
さっすが、真鍋さん。よく球、見てるな。次のサインは……またストレート? 大丈夫か……いや、大丈夫。俺なら……
しかしその瞬間、俺はなぜか母さんの言葉を思い出してしまう。
はっ!
「金子三球目行った!」
あっ! しまった…………
カキーーーーーーーーーン!!
「おっと! 真鍋打った!! 伸びる、伸びる!! これは行くか?行くか?」
「真芯に当たりましたからね~」
「なんと! ホーーーーーーーーーーーームラン!!」
ハァ、やられた……
「真鍋、三試合連続完封の金子からホームランを打った!! ガッツポーズをしています、真鍋! 一方で金子はガックリと肩を落としてます」
「これは金子、相当なショックでしょう」
ヤバい……試合に集中しなきゃいけないのに。なんでこんな時に……
「おい、ノボル! 大丈夫か?」
松井さんが俺の所まで駆けつけてくれた。
「スンマセン……」
「一回ホームラン打たれたぐらいでへこたれるな! お前ならできる!!」
「はい! 頑張ります!」
バシッ!!
「痛ッテ!」
松井さんに思いっきり背中を叩かれ気合を入れられた俺。
「続いて二番、レフト金森です」
「金森は今現在打率二割八分五厘と好調ですよね」
「そうですね。さぁ、この好調な金森に対して金子はどう投げるのか」
正直、さっきストレートで打たれたから、次は違う球で行きたい!
松井さんは……え? またストレート?? ウソだろ……? ストレートは無しだろ……
俺は松井さんのサインに対して首を横に振った。
絶対ここは俺の得意なシンカーで行くべき!
松井さんも俺が投げたい球を理解できたようでシンカーのサインを送ってきた。
よし!
そして俺は――――
行けーーー!!
渾身の力を振り絞って投げた。しかし――――
カキーン!!
一瞬の出来事だった。
「金子!! こ、これは、大丈夫なのか!?」
「なんと! シャークス、ピッチャー金子の右肘に金森が打った球が当たった!!」
「これは、かなりヤバいな……」
「球場がざわついています。金子もうずくまったまま全く動きません。長野さん、これはシャークスにとってかなりの大打撃ですよね??」
「おいおいおい……」
「長野さん?」
「大打撃も何も金子にとって人生を左右することになるぞ……」
「解説者の長野さんも呆然と金子の様子を見守ってます」
「よりによって、前も怪我した右肘とは……」
「ようやく金子が担架で運ばれました! 今後の金子の状態がかなり気になりますね……」
つづく
昨日卓球をして右腕が筋肉痛になった はしたかミルヒです...
中学校の部活で卓球少しやってたんですけど大人になった今、また自分のなかで卓球ブームが来まして毎週日曜日に遊び程度でやってるんですが、やりすぎたせいかとにかく右腕が痛い!!キーボードを打つにも苦痛です(苦笑)
さて今回の話はいかがでしたでしょうか?ノボル、大怪我しちゃいましたね...この先一体どうなるんでしょう?
次回は病室での話になります。茜は来てくれるんでしょうか?
次回もお楽しみに♪