第六話
本日は二話連続投稿です。(二回目)
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私はいつの間にやら毎日秋田先生の家に毎日通うようになっていた。仕事が忙しい時はもちろんのこと、暇なときでさえ私は先生のもとへと足を運んだ。毎日通ううちに私たちはの距離はグッと縮まり、いつしか先生は私のことを『まりなっち』と呼ぶようになっていた。
「先生、結構うまく背景描けましたよ」
「おっ、すごいな! ってかギャグ漫画なのに背景凄すぎないか?! 背景が主役になってんぞ」
「ちょっと力み過ぎちゃいましたかね?」
「まぁ、これもたまにはアリでしょ! あ、そうだ、まりなっちに伝えたいことがあるんだ」
そういうと先生は作業机から『週刊少年ステップ』を持ってきた。そして最初のカラーページを開く。それを私に見せると声高らかに発表してきた。
「ジャジャーン! な、なんと俺の漫画、『俺姉』のアニメ化が決定しました!」
「え? ほ、ほんとですか?」
「もちろん! 証拠だってちゃんとここにあるだろ?」
驚いている私を見ると先生は俺姉の広告のところをビシッと指をさす。
「す、すごい……」
「やっとここまで来たかって感じだよな~。なんかしみじみしちゃうぜ」
秋田先生は天井を見つめながらぼそりと呟いた。そんな先生を見ていると私はなぜか感極まってしまい――――
「ん? ってまりなっち?!」
「先生……グスッ……本当に、本当におめでとうごじゃいますぅ~~! グスッ……」
「俺のためにそんなに泣いてくれるなんて……まりなっち……」
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ドクンドクン ドクンドクン
心臓の鼓動が体全体に鳴り響く。
「あぁ、ヤバい、緊張マックスだよ……でもやるんだ。やるって決めたんだから」
そうぼそりと呟くと私は瞳を閉じスーハーと深呼吸をした。十二月上旬の冷たい空気が自分の体の中に入っていく。
そして緊張した面持ちのまま家の扉を叩く。
トントン トントン
ドンドンドンと重量感のある足音を響かせながらこちらまで迫ってくる。そしてゆっくりとその扉が開かれた。
「よぉ」
「こ、こんばんは。や、夜分遅くに押しかけてしまってすいません……」
「いや、俺は全然構わないんだけど。あ、とりあえず中に入ってよ。お茶入れるから」
「す、すいません。ではお邪魔します……」
緊張は未だに取れず、ブーツを脱ぐにも一苦労した。そして私は部屋の中へと入る。
いつもの部屋、いつもの部屋の匂い、いつもの作業机……。なのに全てが新鮮に感じる。
「まりなっち、座って待ってってよ」
「あ、はい」
そう言われて私はコートを脱ぎライム色の座椅子に腰を下ろし、お茶が運ばれてくるのを待った。
「おまたせ、ほうじ茶だけどいいかな?」
そう言いながら秋田先生は私の前にほうじ茶をコトンと置く。
「も、もちろん何でもいいですよ! ありがとうございます」
目の前に置かれたどこかの温泉の湯呑み茶碗から湯気が漂う。その湯気がほうじ茶独特の香ばしい香りを私の鼻まで届けてくれる。
「いい匂い。い、いただきます」
いまだに緊張は解けてはいなかったのだが一口空気と一緒にほうじ茶をすすると温かさからか私はホッとし、肩の力が少しだけだが抜けていくのがわかった。
「おいしい……」
「ほうじ茶、うまいよね。それに安いし」
そう言いながら座布団に座ると秋田先生もズズッと音を出しながらほうじ茶を飲む。
「はぁー、うまい」
「ほんとに……」
そう言った後私はほうじ茶の表面を見つめながら先生に話さなければいけないことを頭の中で何度も復唱する。
「あ、それで俺に言いたいことって? いきなりあんなメールが来たからちょっとびっくりしたんだけどさ。はははっ」
あんなメールとは『秋田先生に伝えたいことがあるので今からお伺いしてもいいですか?』という内容のメールだ。
「あ、そ、それは……あの……」
家から出るときに言う覚悟はすでに出来ていたのに、いざ先生を目の前にすると急に口ごもってしまう……。我ながらホント情けない……。
「あ、なんかアニメ見る?」
「え?」
「こういう時はまず気分を落ち着かせてリラックスさせないとな」
微笑を浮かべながら先生はそう言うとアニメのDVDを取り出し私に見せる。
「どれ見たい?」
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「このアニメを選ぶとはやっぱりまりなっちは俺と趣味が合うな!」
「……そ、そうです……かね?」
テレビ画面を見ながらそう言う先生に俯き照れながら私は答える。
あぁ、どのタイミングで言おうか? まさかアニメ見てるときにそんなこと言えないし……。
目はテレビ画面に向けられていたが、頭の中ではいつ言おうかとずっと考えていたのではっきり言ってアニメの内容は全く入ってこなかった。
そして一時間(30分×2)のアニメはようやっと終わりを迎えた。
「は~、面白かったなぁ~! やっぱりこのシュールさがたまんないね~」
「…………」
「ん? まりなっち、どうした?」
今だ! 今言わなきゃ!
「あ、あの……」
言いだしてはみたもののやはりその先がなかなか言えず俯いてしまう。
でもここで言わなきゃ、一生言えない気がする……。
そんな先生は目をきょとんとさせながら一言「ん?」と言いその先を促す。
勇気出せ……。勇気を出すんだ私!
「先生!」
「は、はい!?」
いきなり力強く言った私の言葉に先生は体をビクリとさせ、体を硬直させる。
「あ、あの……」
そして家に入るときと同じようにスーハーと深呼吸をした後、私は意を決して先生に伝えた。
「先生のことが…………好きです! 付き合ってください!」
言った! ついに言った!
目を瞑り力強く言った言葉はとてもシンプルな告白だった。というか今の私にはこれが精いっぱいの告白だった。
「まりなっち……」
目を開き少しだけ顔を上げ、ちらりと先生の顔を覗きみる。そんな先生は呆然とした面持ちでただただ虚空見つめていた。
続く
はいはいはい、はしたかミルヒです!
第六話を読んでくださってどうもありがとうございます!
本日は二話連続投稿ということで楽しんでいただけたでしょうか?
また近いうちに連続投稿していきたいと思いますのでお楽しみに♪
ミルヒ




