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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース7:耳が聞こえるようになりたい(満里奈編)
73/109

第三話

■■■


「アンタ、うざいのよ! 早く出て行って!」

「満里奈ちゃん……」


 私はお父さんが留守なことをいいことに今晩の夕食を手に持ってリビングまでやってきた金子を追い払う。


「アンタは所詮山田家の財布よ! 財布でしかないのよ! 私のお父さんはね、あんたのことを最初っから単なる金づるとしか思っていないんだから」

「そ、そんな……龍二さんはわた……」


 金子のその言葉に私は食い気味で答える。


「お父さんは私だけのもの! 正直、もうお金あまりないんでしょ? フンッ、使えない! あんたはねもう用無しなのよ! お父さんの代わりに言ってあげる! 今のあんたは金づるにもならない単なるババアよ!」

「ま、満里奈……ちゃん、どうしてそんなに私のことを……」

「出て行って! いいから今すぐ出て行ってよ!」


 私は手一杯金子を押し出しながら片手で玄関の戸を開ける。


「ま、満里奈ちゃん?!」


 玄関の戸を開けたと同時に金子は私が押したせいで勢いよく倒れ、しりもちをついた。


 ドンッ


「ツッーー」


 あまりの痛さに苦悶に満ちた表情を浮かべる金子。そんな金子を私は冷然たる面持ちで上から見下ろす。そして最後にこんな言葉を突きつけた。


「もう家には一歩たりとも入らせない! さようなら!」


 そう言い、私は思い切り家の戸を閉める。


 バタンッ


 閉めた戸にもたれかかり私は安堵の表情を浮かべた。

 ……これで解決できた。金がないババアはもう必要ない……お父さんは私が守る!

 金子を追い出すことは耳が聞こえる様になってから決めていたことだ。「自分の声であいつを追い出す」それを実行した今、私の心はすがすがしさを覚えていた。

 そう、今の私の耳ははっきりと聞こえる。半年前のある朝、急に耳が聞こえるようになった。あの時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。


□□□


「満里奈、いつまで寝てるんだ? 早くしないと遅刻するぞ! 今日は卒業式だろう?」


 そう言いながらお父さんは私の部屋に入ってきた。

 うぅ……うるさいなぁ~! そんなに大きな声で言わなくたってわかってるのに!

 そう思いながら重たい体を無理やり起こし、私は眠たい目をこすり軽くお父さんを睨み付ける。


「?!」


 するとお父さんは驚愕の表情を浮かべ「あ……あぁ……」と言葉にならない声を発していた。


『なに、そんなに驚いているのよ?』


 もちろん私は不思議な面持ちでお父さんに尋ねる。するとお父さんは衝撃的な言葉を発してきたのだ。


「お、お、おまえ……み、耳が……き、聞こえるのか?!」


 え? 何言ってるのよ? お父さん…………って?! あっ!! き、きこえる……。一体これは……え? な、なんで?


「あ……あ……」


 私は驚愕のあまり体が震えた。ガクガク言ってなかなか震えが止まらない。


「あぁ! これは奇跡だ! 奇跡以外の何物でもない!」


 お父さんの声が確実に私の耳に届いてる! その途端、涙が私の頬を伝った。そして私はごくごく小さな声で初めて言葉を発した。


「神様……」


□□□


 あの時の感動は本当に今でも忘れられないよ……。これは神様からの贈り物なんだって、今まで私が頑張ってきた、その分のご褒美なんだってお父さんが言ってた。うん、私もそう思う。だって私、今までずっとずっと苦しみを耐えて耐え抜いてきたんだから……。


■■■


「山田さん、ちょっといいかな?」


 次の日の昼、アニメート学院の校舎内でサンドイッチを食べていた私に声をかけてきたのは漫画・アニメーション科の講師を務める南原先生だった。


「はい」


 私は一言だけ返事をして南原先生を見つめた。


「おっと、そんなに見つめんなよ~。照れちゃうだろ……ってこんなどうでもいい話は置いといて、山田さんって漫画家のアシスタントになる気はないかなぁと思ってさ」


 そう言いながら南原先生はベンチに座っている私の隣に腰掛ける。


「アシスタントですか?」

「うん、秋田イェーガーって漫画家知ってる? 実はそいつとは昔からの知り合いでさ、んで、この間電話来て『アシスタント一人求ム!』って言われたんだよ。それで俺も生徒の中で誰がいいか考えた挙句、君が頭の中でまず初めに浮かんだんだ。ほら山田さん、うちの生徒の中でも指折りに絵がうまいだろ? だから漫画家のアシストでもすれば経験値が増えて、漫画家になれるチャンスも増えると思うんだよね。まぁ、嫌ならいいんだけど、どうかな?」

「秋田イェーガー……」


 私が秋田イェーガーのアシスタントになれる……。


「あっ、そうだ、これは女性の山田さんには言っておいた方がいいよな……そいつ、名前で一応わかると思うけれど男なんだよ。それでもい……」


 私は南原先生の言葉を途中で遮りこう答えた。もちろんその答えは――――


「もちろんやらせてください!」


■■■


「あ、あった、あった! このボロいアパートの二階が秋田イェーガーの家だよ」


 南原先生は秋田イェーガーの住むアパートを指さし結構大きな声で私に言ってきた。


「ボロいって……南原先生、それはちょっと失礼なんじゃ……」

「ん? あぁ、別にあいつに遠慮しなくったっていいんだよ。言いたいことがあれば遠慮なくあいつに言えばいいさ! ハハハッ」

「いや、そう言うわけじゃなく、このアパートに住んでる人たちにも……」

「さぁ、行くべし!」


 って聞いてないし……。そう思うと南原先生って結構ぶっ飛んでるな……。その南原先生と知り合いの秋田イェーガーもこんな感じなんだろうか……?

 私は苦笑し、一抹の不安を抱えながらも南原先生の後へとついていく。


 ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン!


 壊れそうなくらい大きな音を立てて戸を叩く南原先生。


「ちょっと先生! そんなに力強く叩いたら迷惑ですよ!」

「いいの、いいの! どうせ奴は寝てるんだし、このくらい大きな音出さないと起きないんだって~」

「いや、だから……」


 この人の頭の中に『近所迷惑』という言葉は存在しないのだろうか……?

 そんなことを思いながら南原先生の顔をジロリと横目で見ていると戸が開かれた。


 ガチャ


 戸が開けられた途端、南原先生は即刻秋田イェーガーに話しかける。


「オッス! 久しぶり~! 元気にしてたか? ってかまーだこんなボロいアパートに住んでんのか? いい加減引っ越せよ」

「おい! ボロいアパート言うな! ここに住んでる人に丸聞こえだぞ」


 ふ~ん、この人が秋田イェーガーか……。想像通りね……。でもイメージより若干……デブ。


「じゃぁ、上がるな。おじゃましまーす」


 私がそんなこと思っている間に南原先生が遠慮なしに秋田イェーガーの家の中へズカズカと入っていく。


「って、勝手に上がるな! ってかちゃんと靴揃えろ! ……ん?」


 私も南原先生の後に続き一応お辞儀をして靴を脱ぎ、家へと上がる。その時、秋田イェーガーと一瞬目が合った。


「……?」


 なぜか彼は私を見て驚きの表情を浮かべていた。

 なんでびっくりしてんのよ? 私の顔に何かついてるとでも言うの? 失礼な人ね……。さすが南原先生と友達なだけあるわ……。

 そんな様子の彼を横切り、私は毅然きぜんとした面持ちで部屋の中へと入った。


「あ、かなり汚いけど、適当に座って」


 南原先生がまるで自分家にいるような態度で私にそう言ってくる。

 いや、ここ、アンタの家じゃないし……。あぁ、もう南原先生にツッコむのよそう……。

 そう思っているとこの部屋の家主が私の代わりに南原先生にツッコみを入れた。しかしなぜか彼は顔を赤らめながらツッコんでいる。


「って、南ちゃんが言うな! それは俺のセリフだろ! ってか人んち勝手に入って汚いってなんだよ!」


 この人、何で照れてるんだろう? もりかして南原先生のことを?! うぅ、気持ち悪くなってきちゃった。もう考えるのよそう……。

 そんな変なことを考えていたら秋田イェーガーと再び目が合ってしまった。

 ヤバイ!

 私は無意識に目をそらしてしまう。

 なんで目が合っちゃうのよ……。別に好きとかじゃないけど目が合えば恥ずかしくなっちゃうのはなんでなんだろ?

 そう思いながら私は汚い床に腰を下ろした。 ってほんとに汚いんだから! そんな私の心の叫びをこのノ~天気男が代弁してくれる。


「しっかしこの部屋、汚ねーし暑いなぁ。もう九月の末だぞ。なんか飲み物くれよ」


 たまにはいいこと言うじゃん、南原先生! うん、確かに喉乾いたかも……。


「年上の人にこんなこと言うのもなんだけど、殴りてーわ……」


 そんなこと言いながらも秋田イェーガーは、私たちに冷たいお茶をくれた。私は軽くお辞儀をし一口お茶を飲む。


「な~に、山田さんの顔見つめてんだよ?」


 そう言ってニヤニヤしながら秋田イェーガーの顔を覗きこむ南原先生。そんな南原先生のからかいに秋田イェーガーは顔を真っ赤にしながら手をぶんぶん振り否定する。


「い、いや、見つめてなんているわけないだろ!」


 そんなに必死に否定しなくたって……。

 私が下を向き物憂げな気分でいると南原先生が秋田イェーガーに私のことを紹介してくれた。


「あ、そうだ。まだ彼女のこと紹介してなかったよな」

「あ、確かに」

「彼女は山田満里奈やまだまりなさん、十九歳。漫画家志望の学生さんだ」


 そう南原先生が紹介してくれると秋田イェーガーは私の顔を見ずに下を向きながら自己紹介をする。


「は、初めまして、秋田イェーガーと申します」


 ……何で私の顔を見てくれないのよ? そんなに私のことが嫌い?! それとも……いや、そんなわけないか……。  

 そんなことを考えていると南原先生が私の肩をポンッと叩き、目で合図してくる。私は南原先生の合図を読み取りチラチラと秋田イェーガーの顔を見ながらボソボソと小さな声で自己紹介をした。


「は、はじめまして、山田満里奈と申します……」


 そう言った後私は自分が描いてきた漫画をそっと秋田イェーガーに渡す。


「あっ、もしかしてこれ、山田さんが描いた漫画?」

「は、はい……」


 すると南原先生が私の描いた背景を褒めてくれた。


「英治、ぜひ見てやってくれよ。彼女結構うまいんだよ。特に背景とかお前よりうまいと思うぜ」

「おい、彼女の前でそんなこと言うなよ。背景下手ってばれちゃうだろうが」


 南原先生にツッコみを入れながら秋田イェーガーは封筒から私の漫画を取り出し、それをパラパラとめくる。そして頷きぼそりと呟いた。


「俺より絵、上手いな……」


続く

こんにちは、はしたかミルヒです!

ねむーい! 毎日なんだか眠いです。睡眠時間たっぷりとっているはずなんですけどね(>_<;) なのでいつもナマケモノ状態……シャッキリしたいなぁ~……。

ってなことで第三話をお読みくださいましてどうもありがとうございます!

早速、満里奈の夢の中へと入りました。この後秋田イェーガーとの関係はどうなっていくのでしょうか? お楽しみに♪

ミルヒ

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