第二話
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街の片隅にある一軒の小さな店。この目立たない小さな店にほとんどの人は気付かない。しかし夢を叶えたいと強く願うものだけが気づく不思議な店。
カラ~ン!
「いらっしゃいませ! ドリームショップへようこそ!」
(気になって入ってみたものの、一体ここは何の店なの? なんか奇抜な店内にゾッとするんだけど……)
そう思いながら制服姿の満里奈は店内をキョロキョロと見回した。
「山田様でいらっしゃいますね」
「?!」
夢子に名前を言われてビクリと体を動かす。だがしかしなぜ知っているのか満里奈は質問することが出来ないでいた。
(こんな時に電子メモパッド持ってきてないし……質問したくてもできないよ……。あぁ、ここが何の店なのかも聞きたいのに!)
すると夢子はニコリと笑い満里奈の質問に答える。
「この店、ドリームショップは店名通り夢を売っているお店です。ですからお客様の夢はどんな願いでもかなえて差し上げることができます。さぁ、山田様の夢をワタクシにおっしゃっていただけますか?」
「……?」
夢子の顔を見たまま呆然とする満里奈。
「山田満里奈様 十七歳 高校二年生。山田様が三歳の時にご両親が離婚。現在、市営住宅でお父様と二人暮らし。将来の夢は漫画家になること」
「?!」
夢子はまるで満里奈のプロファイルの資料を読んでいるかのごとく流暢に話した。そんな夢子に満里奈は驚きのあまり目を丸く見開き、手を口に当てる。
(な、なんで……?! 私の名前を知ってるどころが素性まで知ってるなんて……彼女……いったい何者?!)
満里奈の心の声に夢子はこう答えた。
「ワタクシはドリームショップの店員、夢子と申します。山田様の思っているような怪しい者ではございません。ワタクシはただの店員でございます。ウフッ♪」
(まさか私の心の中を読み取れるって言うの?!)
「はい、ワタクシはお客様の心の声を読み取れる能力があります」
「?!」
(し、信じらんない……この人、超能力者? ってこの声も聞き取れるってこと?)
愕然とする満里奈を前に夢子はクスリと笑い彼女に向かってこう言った。
「もちろん、今の山田様の心の声ももちろんお聞きいたしましたわ。でもワタクシは超能力者ではございません。先ほども申しあげましたがただの店員でございます。では山田様、山田様の夢をおっしゃっていただきますか?」
(私の夢?)
「はい、さようでございます」
(私の夢は……)
満里奈は心の中で呟いた後深呼吸をし、こんな夢を唱えた。
(耳が聞こえるようになりたい!)
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バタン
「お帰り、満里奈。今日は遅かったな」
『ただいま。学校の帰りに面白い店があったからちょっと寄って来たの。あ、今ご飯作るから待っててね』
「おっ、満里奈が料理するなんて珍しいな! どうしたんだ急に?」
龍二は驚きの様子で笑みを浮かべながら満里奈に聞いた。そんな龍二を見て頬を軽くふくらませながら満里奈は話す。
『私だってたまにはお父さんのために料理くらいするわよ!』
(そうよ、あの女に負けないくらいおいしい料理を私にだって作れるんだから!)
そして満里奈の作った料理が食卓に並んだ――――。
「こ、これは……」
『これは、肉じゃが! これは豆腐の味噌汁! そしてこれはきゅうりの浅漬け! どう?』
自信満々に龍二に話す満里奈。
「これ……肉じゃがだったのか……」
龍二は苦笑しながら得体のしれない肉じゃがらしきものを口に運ぶ。満里奈は龍二の言葉を待ちきれずに食べた瞬間に感想を聞いた。
『どう? ねぇ、どーう?』
「……まぁ、しょっぱいな……しょっぱいだけ……」
龍二の思わぬ反応に納得いかない様子の満里奈はムッとしながら肉じゃがを一口食べる。
(な、なによ? お父さんのいじわる! ちょっとしょっぱいくらいがご飯のお供にはちょうどいいのよ!)
パクッ
「…………」
「満里奈、ど、どうだ?」
龍二は不安げな面持ちで満里奈に聞いてきた。満里奈は一言こう告げる。
『しょっぱい……』
「はははっ、まぁ、肉じゃがは意外に難しいからな。でも味噌汁は大丈夫だろう」
そう言いながら龍二は味噌汁をすする。
『……どう?』
先ほどの自信ありげな顔つきはどこへやら、今度は不安げな様子で満里奈は龍二に尋ねた。
「……お前、味噌汁に何入れた?」
『え? 味噌よ。味噌汁なんだから味噌入れるの当たり前でしょ?』
「味噌だけか……出汁は全く入れなかったのか……」
『出汁? 味噌汁って出汁入れるの?』
きょとんとした顔で満里奈は龍二に聞く。
「……お前は和歌子に料理習った方がいいかもな……」
(また、あいつの名前出す……。どうしてお父さんはいつも私とあいつを比べるのよ……。私の料理はあいつの料理に比べて劣ってるとでも言うの? 確かに今回はレシピも何も見ずに勘だけで作っちゃったけど……。でも私の料理の方が何倍も愛情がこもってる! なのに……なのに、お父さんは私よりもあいつの方が好きなの?)
ガタンッ
『ごちそうさま!』
満里奈は涙を浮かべながら席を立ち、自分の部屋へと向かった。
「満里奈! おい、満里奈!」
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(何よ? 何なのよ! もーーーう、ムシャクシャする!!)
そんな怒りを胸に抱きながら漫画を描く満里奈。
(こういう時は漫画で自分の今の気持ちをありったけ描く!)
満里奈は嫌なことが起きた時にいつも原稿用紙に自分の思いをぶつける。彼女が描く漫画はいつも幻想的でいてなおかつ攻撃的な世界だった。
そして――――
(出来た! 私の渾身の作品! その名も『モンスターバスター』!)
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(あ~、漫画描いたらなんだかすっきりしたわ! さてこの気持ちを維持しながら、新人漫画家の批評をするとしますか!)
すると満里奈はノートパソコンを立ち上げ、漫画を批評するサイトにアクセスする。
(えぇっと……あ、秋田イェーガー! まーた懲りずにヘンテコな漫画描いてるのね!)
満里奈は眉間にしわを寄せながら彼の漫画をチェックした。そしてそれを読み終えた後、満里奈は深いため息をつく。
(ハァー、なんて最悪な漫画……これなら読者がつかないのも当たり前の話よね。前の私のコメントちゃんと読んだのかしら?)
そう思い再び秋田イェーガーにコメントを書く満里奈。
投稿者:まり~な
今回の作品も全然面白くありませんでした。秋田先生は才能があるのにそれを無駄にしてると思います。もっと自分の抱く世界がどのジャンルに向いているのか知るべきです。もっと自分自身を知ってください。そうじゃなきゃ、成功しませんよ。ちなみに私は漫画家を志しておりますが、私は自分がどんな漫画が得意なのかよくわかっています。このサイトに近々、私の作品を投稿しますので一度ご覧になってはいかがでしょうか? タイトルは『モンスターバスター』です。
(うん、いい感じでしょ! これでわかってくれるわよね)
満足げな表情を浮かべ、満里奈はマウスの左ボタンをクリックした。
(あとは……)
満里奈はそう思いながら椅子から勢いよく立ち上がった後バッグからドリームショップで買ってきた夢の液体を取り出し、それを見つめた。
(綺麗なグリーンの液体……幻想的だわ。ほんと、吸い込まれそう……)
その液体にうっとりとしたまなざしを向ける満里奈。そして何の躊躇もなく瓶のふたを開けそれをコクッと飲み干した。
(あれ? 何の味もしない……匂いもないし……)
首を傾げ不可思議な表情を浮かべるも満里奈はすぐに微笑を浮かべこう思う。
(まぁ、でも大丈夫でしょ! だってあの夢子さんが売っている液体だから、ぜったい効力あるに決まってるよ! うん、大丈夫! 私はこれで耳が聞こえる様になるんだ!)
そして満里奈は空の小瓶をベッドの棚にコトリと置き、電気を消してベッドに入った。
(私の未来よ、早く来い!)
眠りに入る満里奈は幸せいっぱいの未来を想像してか、その表情には幸福感が充溢していた。
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「夢子さん、山田様に本当の液体を渡したのですか?」
月子が夢子のもとへとフラスコをもったまま近づき質問をする。
「えぇ。それがどうかなさいました? 月子さん」
そう言いながら水晶を眺める夢子。
「彼女にはあの液体、渡してほしくなかったのだけれど……」
「でもあのお方の命令ですから……」
「あの液体は負のエネルギーの抽出量を間違えてしまったのよ……というか夢子さんにもそのこと伝えたはずだけれど……」
そう言うと月子は不安げな表情を浮かべながらフラスコをレジカウンターの上にコトリと置いた。一方の夢子は水晶から視線を逸らさないまま淡々とした面持ちで言葉を紡ぐ。
「でもあくまで夢の未来の体験ですから。その夢が気に入らなければ空の瓶を返却してきますわ」
「彼女はいくらで夢の液体を買ったのかしら?」
「五千円ですわ。最初は七万円と言ったのだけれど、そんな大金払えないと言われたので秋田様と同じ方法で夢の液体を売りましたのよ」
「では夢の液体を破棄する場合はキャンセル料を支払うのね。それはいくらなの?」
一瞬水晶から目をそらし、物憂げな面持ちで答える夢子。
「七十万円……ですわ」
天井を見上げ、空虚感漂う店内で月子はぼそりとつぶやく。
「そう……夢子さんはあのお方が怖いのね」
続く
こんにちは、はしたかミルヒです!
最近 ”Love Live”というアニメにハマっております。統廃合の危機に瀕した自分たちが通っている学校を救うために主人公たちがスクールアイドルになって入学希望者を増やそうします。まぁ簡単に言えばアイドルアニメですね。でも一人一人が個性的でそれでいて本当にかわいいんです! ちなみに私は白米天使のかよちんが大好きです♪
ってなことで第二話を読んでくださりありがとうございます!
次回もお楽しみに♪
ミルヒ




