第七話
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自宅のあるマンションに入る。俺が住んでいるマンションにはホテル並みのエントランスがあり、心地よいBGMが二十四時間流れている。
「ノボル!」
そこで俺は母さんと鉢合わせする。
「母さん! どこ行ってたんだよ~? 母さんに夕飯頼もうとしたのにいないしさぁ~」
「あぁ、ちょっと友達の所にね……」
なぜか母さんは苦笑いを浮かべながら気まずそうにしている。
「そ、それよりノボル、母さんに夕飯を頼もうとしてたって、茜さんに作ってもらえばいいだろう?」
ドキッ
確かにそうなのだが俺の家には茜はいない。いつ帰ってくるかも分からない状態だ。
「いや、あのさ……茜、仕事で今日は帰ってこないんだよ……はははっ……」
「あぁ、茜さんも忙しいからねぇ」
「まぁ、コンビニ弁当買ってきたし、これ食うから大丈夫」
「じゃぁ、ノボルは母さんの作るご飯を食べなよ。母さんはそのノボルが買ってきた弁当食べるから」
母さん……
母さんの優しさが目に染みる。少しでも母さんのことを疑った自分が憎い。
ちょっと格好は派手になったけどやっぱり母さんは、母さんだ。
「ごめん……」
つい心で思っていたことをボソッと口に出してしまった。
「え?」
「あ、いや、なんでもない。サンキュ、じゃぁ作って!」
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母さんは俺の冷蔵庫の中に入ってある野菜とウインナーを使って野菜炒めと茄子の味噌汁を作ってくれた。そして俺は母さんと二人っきりで食事をする。
まぁたまには親子二人だけで食事ってのも悪くはないな。
「いただきます!」
「たくさん作ったからいっぱい食べておくれ」
母さんの作った野菜炒めは少し塩辛いのだがごはんに絡めて食べるとちょうどいい塩梅になるから不思議だ。
「茜さん、明日は帰ってくるのかい?」
「え? あぁ……」
母さんから茜に関する質問をされるたびに胃が痛くなる。
ハァ……でも茜、いつ帰ってくるんだろう……
また不安に陥る俺。そんな不安を掻き消そうと俺はテレビを付けた。
「あ、この番組まだやってるんだ」
「この番組人気あるからねぇ。母さんも良く見てるよ。波乱万丈物語」
『波乱万丈物語』とは俺が小さい時からやっている人気番組で芸能人の波乱万丈な人生を再現ドラマ仕立てで紹介するドキュメンタリー番組だ。
今回の主役は今注目の若手俳優、三木雅人。
「こんなに爽やかな青年が波乱万丈な人生歩んできたとはねぇ」
「まぁ、どんな人間でもいろんな人生歩むもんだよ」
司会のアナウンサーが三木雅人の紹介を大まかにした後、再現ドラマが始まった。
中学生時代から物語は始まる。その内容とは、雅人が中学生の時に突然父親がいなくなってしまったとのこと。母親にその理由を聞いてみると父親は飲み屋の女とデキていてその女のもとへ行ってしまったとのことだ……当然、雅人は父親を憎んだ。「もう父親とは親子の縁を切る!」と心にも誓った。俳優になるまで母親と二人、ひもじい思いをして暮らしていた。
高校生になったある日、街中でスカウトマンに声をかけられる。これが雅人の人生を変えたターニングポイントだった。背の高い雅人の芸能デビューはモデルから始まる。百八十五センチの身長に甘く爽やかな印象をもつ顔立ち。そんな雅人を世の女性たちが放っておくわけがない。瞬く間に雅人は人気モデルとなり、その後はドラマや映画デビューも果たした。もちろん収入も見る見るうちに増えていく。あの貧乏だった時代から一転、雅人は高級マンションに住み、高級スポーツカーに乗り、三百万円もする超高級腕時計を身に着け、忙しいながらも充実した生活を送っていた。もちろん母親にも月六十万円もの仕送りをしていたとのこと。母親は雅人の仕送り額で十二分に生活できるので、スーパーのバイトを辞め悠悠自適な生活を送っていた。もちろん雅人も今まで苦労して育ててくれた母親に対して今度ばかりはいい暮らしをしてほしかったので母親の優雅な生活を優しく見守っていた。
しかし、二年くらいはそのままの仕送り額で満足していたはずの母親なのだが、ある時を境に月六十万じゃ足りないと言ってきた。雅人は母親にその理由を聞いてみたのだが、母親は明確な理由を言ってはくれなかった。だた今の額じゃ生活ができない。もう少しだけでいいから援助してほしいと……
「ゴクン」
母さんがいきなり大きな音を立ててつばを飲み込みんだ。その額には汗が流れている。どうやらこの再現ドラマにのめり込んでいるいるらしい。しかし母さんは、緊迫している表情とは裏腹のことを言ってきた。
「き、今日の波乱万丈物語はあまり面白くないねぇ! チャ、チャンネル変えてもいいかい?」
母さんは俺にそう聞いておきながらも俺が返事をするまえにチャンネルを変えてしまった。
「母さん、さっきのドラマ、かなりのめり込んで観ているように見えたけど……」
「か、母さん最近、ドラマよりもバラエティの方が好きなんだよ~。ハハハッ……」
俺と一緒に暮らしているころは、バラエティなんて一切見なかったくせに……人間、歳をとると嗜好も変わるものなのか?
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結局俺たちは、大した面白くもないバラエティ番組(母さんはあの番組を面白いと思って観ていたのかは疑問なのだが……)を見て夜の九時半過ぎまで他愛のない話をし時間を潰した。
「じゃぁ、失礼するよ」
母さんがソファから腰を上げ玄関へ向かおうとしたその時、床に落ちてあった白いメモ用紙を見つけそれを手に取る。
「あっ、それは、ちょっと!」
俺が必死でそのメモ用紙を奪おうとしたが時はすでに遅し……
「しばらく距離を置きましょう? 茜? ノボル……これはいったいどういうことだい??」
「いやぁ、あのう……」
なかなかうまく言葉が出てこない。
ヤバイ……どうしよう? 母さんを心配させてしまう……
「もしかして茜さん、出て行ってしまったのかい……?」
「あっ、いや……えぇっと……」
全身から汗が一気に吹き出してくる。
「何も言わなくていい。何も言わなくていいよ、ノボル」
「!? 母さん……?」
そう言うと母さんは俺を抱きしめた。
「ノボルには何も言わなかったけれど私は最初から思ってたよ。茜さんはそんなイイ女じゃないって」
母さんは俺を抱きしめながら茜のことを言ってきた。
「イイ女じゃ……ない……?」
「顔のことを言ってるんじゃない、性格がイイ女じゃないって言ってるんだよ」
「……」
つい黙ってしまう俺がいる。
「お前は騙されたのさ。あの女に……」
「いや、でも……あ、茜はそんなやつじゃないと思う……」
母さんが思っているほど茜は悪いやつじゃないと思ったので否定したのだがなぜか語尾が弱くなってしまう。
「あぁ、やっぱりあの女に洗脳されてるんだね。早く別れたほうがノボルのためだよ。母さん、そう思う」
「…………」
「ノボル!」
「……わかったよ……」
わかったという言葉を言った瞬間、急に落ち込んでしまう俺。
「じゃぁ、母さん帰るよ。まぁ隣だから何かあればすぐ呼んでおくれ」
「…………」
「ノボル?」
母さんが俺を心配そうに見つめる。
「あぁ……うん……」
「もう、しっかりしておくれよ。そんなんじゃバッターにすぐ打たれちまうよ。ノボルにはちゃんと稼いでもらわないとね!」
「…………」
「だから! これからもこの右腕で母さんをずっと支えておくれよ」
そう言いながら母さんは真剣なまなざしで俺の右腕を掴んだ。
「じゃぁ、お休み」
「……うん、お休み……」
つづく
私の可愛がっているぬいぐるみの口が最近臭くなってきてどうしようかと悩んでいるはしたかミルヒです!
ってか口だけじゃなく、体も真っ黒になっちゃいまして(笑)どんだけ可愛がってんだよ!って話ですよね...でも洗濯したら目を回してしまうでしょ?(笑)
ってなことで第七話を読んでいただきどうもありがとうございます!
息子のカネを目当てに生きてる母親どう思います?母親を溺愛している息子もどうかと思いますけど(苦笑)
兎にも角にも次回は再び野球の試合のシーンに入ります。そこで大変な事態がノボルに襲い掛かるかも?!
ではではお楽しみに♪
はしたかミルヒ