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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース6:売れっ子漫画家になりたい(英治編)
65/109

第八話

■■■


『あんたが、あんたが敵だったなんて……仲間だと思っていたのに!』

『そうよ、私はあなたたちとは最初から違う人種。私を仲間? フッ、変なこと言わないで! 私はサタンの子、エミリアなのですから!』


 久々に映画館で洋画のアニメを見た。しかもアクション映画。別にいいんだけど俺、日本の萌え萌えしてるアニメの方が好きなんだよな……。そんなことを思いながら見ていると横で目を凝らしながら真剣なまなざしで見ている山田さんがいた。どうやら山田さんはこのアニメに夢中らしい。

 携帯の画面を見てみると時刻は午後十時を過ぎていた。この映画、もうそろそろ終わりそうだけどそんなに面白い映画だったかな? でも俺の隣の人は思い切り楽しんでそうだし……って寝てるーーーーーーー?! 嘘でしょ? さっきまで真剣な顔してみてたじゃん!

 俺は横で寝息を立てて寝ている山田さんに驚愕の表情を浮かべた。面白かったのか面白くなかったのか彼女にこの映画についてぜひとも聞いてみたいものだ……。

 ってしっかし、寝顔も可愛いな……。


  ■■■


 午後十時半やっと映画が終わった。俺たちは劇場を出て映画館のロビーへと行く。


「え、映画どうだった?」


 そう俺が聞くと山田さんはいつもの通りメモパッドに自分の意見を書き綴る。


『秋田先生の漫画みたいな映画でした』

「…………」


 ってどっちなんだーーーーーー?!


 俺はつい両手で頭を抱えこみ、後ろに大きく反ってしまう。

 そんな俺の様子を見て山田さんが微笑を浮かべ、またメモパッドに何かを書いた。そして俺に差し出す。


『もう遅いので帰りましょう』


「……はい、そうですね……」


■■■


『おきてー! 朝だよ! 遅刻しちゃうよ! 早く早くぅ~!』


「はぁ、もう七時か……」


 次の日の朝、ゆかりんの可愛い声に起こされた俺は目をこすりながら重い体を起こす。


「そうだ、ナトリに行って山田さんのために座椅子買ってこないと……」


 夢と現実のはざまにいる俺は寝ぼけまなこでトイレに向かう。


「座椅子はどこだ~? ここじゃないよな~……これは座椅子じゃなくて便器だろ~。お前! もっとしっかりしろよ~」


 シャーーーー…………


 トイレで用を足して現実に戻った俺。昨日コンビニで買ったおにぎり二個とサラダを食べ(俺って結構健康な食事してるだろ? でもなんで太るんだろうな……これ、秋田家の七不思議のひとつ)、買い物へ出かける準備をする。


「座椅子だけでいいよな……テーブルはこの小さいのを退けて少し大きめのを出せばいいし。よし、行くべし!」


■■■


 俺のご自慢のレッドカー(普通の赤い乗用車)でナトリへ向かう。自宅から車で約三十分ほどのところにある大きな家具&インテリアショップだ。駐車場に車を止め、店の中へと入る。

 一人暮らしする際にここで物すべてそろえたけど、それ以来だな……。ココ、安いのに上質な商品ばかりあるからいいんだよ。あぁ、布団だってここで買ったのに五十万の羽毛布団買わされてそれっきりナトリの布団使ってねーなー。だってせっかく五十万で羽毛布団買ったのに使わないなんてもったいないじゃん。

 そんな懐かしい思い出に浸りながら俺は座椅子コーナーへと足を運ぶ。


「お、いっぱいあるじゃん!」


 思ってた以上に種類がある座椅子。俺はその中でリクライニング式の物を選ぶ。

 山田さんは爽やかでそれでいてちょっぴりビターなライム色ってイメージだから……(どんなイメージだよ! とかって言ってツッコまないように! 俺って結構繊細な人間だから。顔ですぐにわかるだろ? え、知らなかった? ボォケ! 俺の顔見たら繊細な男って思っておけ!)


「うん、これにしよう」


 そうぼそりとつぶやきながらそのライム色の座椅子を手に取ろうとしたとき、誰かに肩を軽くたたかれた。振り向くとそこには――――


「や、山田さん?!」


 山田さんがいた。その後ろには怖そうな背の高いサングラスをかけた男がいる。

 後ろの男は誰だよ? 山田さんのガードマンか? ってかずいぶんいかついな。

 そんなことを思っているとその後ろにいた男が俺に話しかけてきた。


「こんにちは、満里奈の父親です。いつも娘がお世話になっております」

「こ、こんにちは……」


 って父親かーーーい!? おいおい、全然山田さんとは似ても似つかねーじゃねーか! ってかそのしましまのスーツや軽いリーゼントも怖いわ! ん……? もしかして山田さんのお父さんって……そのあとの言葉はご想像にお任せします。

 俺が山田さんのお父さんを見ながら恐怖におののいていると山田さんは俺が買おうとしていたライム色の座椅子を手に持つ。

 もしかして仕事用の座椅子、自分で買うつもりか? 山田さんのお金でそれを買わせちゃいけないと思い俺は山田さんの顔を見てこう言った。


「山田さん、仕事用に使う座椅子なら俺が買うよ。俺今日、山田さんが使う座椅子を買いに来たんだから」


 すると山田さんは首を横に振った後その椅子を地面に置き、自分の父親に手話で何やら伝えていた。

 このお父さん、厳ついけど手話わかるんだな……。まぁ自分の娘だもんな。手話ぐらいわかんないとな……。俺も手話勉強したほうがいいかな?

 そんなことを思っていると、この父親は俺の顔を見て話し始めた。


「昨日、満里奈が秋田さんにお世話になったそうで、ありがとうございます。満里奈はこう言ってます。作業道具は全部自分でそろえたいと。座椅子も作業するための道具の一つだから自分で買うと」

「そ、そうですか……」


 怖いお父さんに言われると、なんか否定できない。ここは男らしく「自分で買うよ!」と言った方がいいのかもしれないけれど。う~ん、やっぱり無理。だっておしっこちびっちゃうくらいに怖いんだもん。



 結局座椅子も何も買わずにナトリから出る俺。俺何しに三十分もかけてここに来たんだろ……? するとまたもや、俺の肩を誰かが叩く。もうこれは想像しなくてもわかる。山田さんだな。と思い後ろを振り返ると――――


「お、おと……いや、山田さん?」


 山田さんのお父さんだった。でもお父さんって言うのも変だし、山田さんと言ってみたけれど……。ほらお父さんなんて気軽に言ったら拳銃で撃たれるかもしれないだろ? そんでお父さん、何の用さ? ……とは聞けずとりあえず微笑んでおいた。でもなぜかそれと同時に身構えてしまう俺。


「すいません、うちの満里奈が今日も秋田さんの家でお手伝いをしたいと言ってるんですが、いいでしょうか?」


 そう話すお父さんの後ろを見ると山田さんがもじもじした様子で俺を見ていた。

 はぁ、でもよかった。いきなり「カネ渡せや、コノヤロウ!」とか言ってナイフでも突きつけられるんじゃないかと思ったけれど余計な心配だったみたい。


「も、もちろんいいですよ。山田さん……いや、ま、満里奈……さんが良ければ」


 『満里奈』と言った瞬間俺は赤面してしまった。だって女の子の名前を下で呼ぶのって恥ずかしいじゃん。え? 亜弥? あれは女ではなく、モンスターだからな。そんなこと言ってるといきなり現れて火ダルマにされそうだ。まぁ、いいお姉さんですよ。ほんと……うん、ホントのホントだよ?

 すると満里奈さん……やっぱり恥ずかしい。山田さんは笑みを浮かべお父さんと手話で会話する。するとお父さんは再び俺に山田さんが言いたいことを伝えてくる。


「午後に秋田さんのお宅に伺うと言っております」

「あっ、はい、わかりました。では待っております。では!」


 俺はお父さんと山田さんの顔を交互に見てから礼をして自分の車がある方へ向かう。山田さんとお父さんも礼をしてから俺とは反対側に向かって歩いていく。俺は山田親子の背中を見つつ車に乗り込んだ。

 山田さんのお父さん、怖いな……ってかほんとに血つながってるのか? あの親子。どう頑張ってもあの厳つい父親から人形のような美少女が生まれるなんて想像できないんですけど……。


■■■


 コンコン コンコン


 午後一時、戸が叩かれる音が家中に響く。カネも貯まってきたし、もうそろそろ引っ越ししようかなと思いながら戸を開けると山田さんが笑顔で俺にお辞儀をしてきた。


「あ、ど、どうぞ、入って」


 女の子を仕事とは入れ、家に入れる瞬間は常に緊張するものだ。

 山田さんは朝ナトリで買ってきた座椅子を右わきに抱え、小さな白い箱を左手に持ちながら玄関に入る。俺は山田さんから座椅子をヒョイと取り上げ、家にある座布団と引き換えにその座椅子をドンと置いた。

 すると山田さんはペコリと頭を下げた後シックなショートブーツを丁寧に脱ぎ、きちんと揃えてから家に入る。

 うーん、よくできた子だ。きっとお父さんのおかげだろう。あの顔で怒られたらたまったもんじゃないからな。絶対トラウマになるよ? しっかしあれ? さっきからなんか変なにおいがする。気のせいかな……。 

 山田さんは軽く深呼吸をした後その白い箱を俺に差し出す。俺はその中に何が入っているのか大体想像できた。

 そして山田さんはおなじみの電子メモパッドを使い俺にそれを見せる。


『家で作ってきました。お茶うけにどうぞ』

「おっ、サンキュー!」


 やっぱり。手作りケーキでしたかー! ってか女の子の手作りケーキって食べるの生まれて初めてじゃない?! 昔亜弥に「南ちゃんのためにバレンタインデーにチョコケーキあげるつもりなんだけど試作品作ってみたから食べてみて!」と無理やり食べらされた経験はあるけれどスッゲー苦かったな……。どうやったらあの味出せるんだろう? そして南ちゃんにあげた本番のケーキの味はどうだったんだろうか? あっ、だから南ちゃん、「俺、甘いもの苦手なんだ」っていちいち言ってくるのかもな。あれはぜったいトラウマだわ。

 俺は早速湯を沸かし、マグカップに紅茶を入れると先ほどの白い箱とともにそれらをテーブルの上に置く。山田さんは今日買ってきた座椅子に早速腰を下ろしていた。


「あ、開けてもいいかな?」


 俺はワクワクしながら山田さんに聞く。すると山田さんは笑みを浮かべ頷いた。

 その箱をゆっくりと俺は開ける。

 なんだろう? 手作りケーキの代名詞と言ったらチーズケーキかチョコレートケーキだろう。 どっちだ? あるいはフェイントかけてタルトとか? つばをごくりと飲み込み俺はその中を覗いた。


「?!」


 すると山田さん、再び俺にメモパッドを見せる。


『初めて作りました。糠漬ぬかづけです』


■■■


「う、うまい……」


 山田さんが初めて作った糠漬けはいい塩梅に漬けられていて非常にうまかった。俺は紅茶(アールグレイ)を片手に糠漬けを食べた。

 でも糠漬けなら紅茶じゃなくて、緑茶だよな。判断ミスった……。でも女子に糠漬けもらうなんてこれが最初で最後かもな……。

 そんなことを思いながらふと山田さんの顔を見てみると嬉しそうに笑いながら糠漬けを見つめていた。そんな山田さんと目が合う。

 俺はとっさに視線をそらしてしまった。

 やばっ、マジドキッとしたわ……。今でも心臓のバクバクが止まらねー! ってかこんなことしてる場合じゃないよな。仕事しないと……そんな俺はまだ鳴りやまない胸の鼓動を必死で抑えながら緊張した面持ちで山田さんに言う。


「も、もうそろそろ仕事始めようか」


 すると山田さんは頷き、自身のバッグからいつもの通り作業道具を取り出す。


「もう仕上げだから集中するような仕事はないけれど、消しゴムかけでもやってくれるかな?」


 俺はそう言いながら山田さんに何枚か原稿を渡した。山田さんはそれを受け取り微笑を浮かべながら消しゴムかけを始める。

 消しゴムかけでこんなにもこにこしながらやる人初めてだよな……。そんなに楽しいんかな? そんなことを思いながらも山田さんの姿を見て俺もつい笑顔になってしまう。なんか俺……山田さんの魔法にかかってしまったみたいだ。


続く

こんにちは、はしたかミルヒです!


日曜日に昼寝をしていたら変な夢を見てしまいました。あのカッコイイ福山○治がなぜか公民館らしきトイレの中でギターを引きながら歌っていました。服装もバッチリ決まっているのに、なぜトイレ?(笑)

ってなことで第八話を読んでくださりどうもありがとうございます!

次回は話に急展開があります! 英治に何が起こるのか?!

お楽しみに♪

ミルヒ

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