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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース6:売れっ子漫画家になりたい(英治編)
64/109

第七話

■■■


 コンコン コンコン


「あっ、来たな!」


 俺は急いで玄関に行く。山田さんと初めて会ってから三日たった昼のこと。山田さんは俺のアシスタントとなり、今彼女が俺家の戸を叩いてきたのだ。(それで全然違う人だったりして)

 ゆっくりと戸を開けるとやはりそこにはミカちゃん人形のような彼女がいた。


「あっ、どうぞ上がってください」


 ヤッベ! 緊張しちゃって声が上ずった! 

 そんな俺の焦りに気づいていないのか彼女は軽く頭を下げ、俺の家に入る。


「ちょっとはきれいになっただろ? 南ちゃんに言われてちょっとは片づけたんだよ」

「……」


 ポリポリと頭をかきながら山田さんに話しかけてみる。すると山田さんは不可解な表情を浮かべ首を傾げた。

 はっ! いけねー! ついいつもの癖で早口でしゃべっちゃったよ……。ゆっくり喋んないとな。


「きれいになったでしょ? 俺、片づけたんだ」


 今度はゆっくり口も大きく開けて話してみた。

 すると山田さんは薄い微笑を浮かべ座布団の上に座った。山田さんが初めて笑った。薄い微笑ながらもその笑みには温もりが感じられた。

 うわ、山田さんの笑み、貴重だなー! すぐに俺の脳にインプットしとかなきゃ!

 俺は幸せな気分になりニコニコしながら自分の作業机の上にあった原稿を手に取りそれを山田さんに見せた。


「あ、あのさ、早速だけど山田さんの背景の上手さにあやかって、ここの原稿に公園の背景を入れてほしいんだ。いいかな?」


 すると山田さんはこくりと頷く。


「あ、そうだ、俺の漫画って見たことある? 『モンスターバスター シュート』っていうアクション漫画描いてるんだけど」


 俺はそう言いながら本棚に置いてある『モンスターバスター シュート』の一巻を取り出し、山田さんに渡した。その本を手に取ると山田さんは再びこくりと頷く。

 山田さん、『モンバス』知ってたか! こりゃー、嬉しいぜ! もしかしてモンバスのファンかな?


「い、一応知ってるかもしれないけれどモンバスの大まかなあらすじを説明するね」


 するとまたもや可愛く頷く山田さん。

 ほんと、マジミカちゃん人形だよな……って、いかんいかん、見とれてる場合ではない! 説明せねば!


「物語の内容はね、主人公 修人しゅうとが地球を破壊しにやってきたモンスターたちから地球の平和を守るために他四人のモンスターバスターズとともに戦う話だ。まぁ、よくある王道アクションヒーロー漫画ってやつだよね。ははははっ」


 すると山田さんも俺につられて軽く笑った。でも純粋に笑った感じではなく、何かこう……

 あれ? なんか今バカにしたような笑い方してなかった? だって「ぷっ」みないな感じの笑い方だったよ。いやマジで!

 正直俺は軽くショックを受けた。ほんとに軽くだからね。うん、軽くだよ……ほんとに軽くだってばよ!

 気を取り直し、話を元に戻す俺。まぁ、俺の気のせいかもしれないしな。うん、絶対今のは気のせいだ……。


「それで話を戻すけど、この漫画の背景を山田さんに描いて欲しいんだ。あと時間が余ればベタも頼むかもしれないけどいいかな?」


 すると山田さんは頷き、A4サイズの紙が入るような大きなバッグから自分用の作業道具を取り出す。


「あっ、もし必要な道具があれば俺の机にあるから、そこから勝手に取って使っていいからね」


またこくりと頷き、すぐさま作業に取り掛かる山田さん。


「ちょっとテーブル小さすぎるよね。一応これより少し大きめのテーブルがあるから持ってこようか?」


 俺はいつも自分の作業用机で描いているので気にはしていなかったが、この小さなテーブルの上でしかもペッタペタな座布団の上に座って描くなんて、正直描きづらいだろうなぁ(姿勢悪くなっちゃうしね)と思い、山田さんに配慮してみたが彼女は首を横に振り鉛筆を手に持つ。

 あぁ、しまった。せめて、彼女のためにリクライニングの座椅子でも買って用意しておけばよかった。

 俺は心の中で後悔しつつも自分も机に向かい原稿を描き進めることにした。

 山田さんが帰ったらナトリにでも行って買ってこよう……。


■■■


「う、上手い……」


 俺は山田さんが入れた背景のあまりの素晴らしさに思わず息が漏れた。

 ってか背景がうますぎて、俺の絵すべてがちんけに見える気がするんですけど……。これメイン、登場人物じゃなくて背景になってるじゃん……。


「あ、ありがとう。これでオーケーだよ。じゃぁここと、ここの背景もお願いしちゃおうかな?」


 俺が指示すると山田さんはすぐに作業に取り掛かる。その仕事は早くてそれでいて丁寧だった。

 山田さん、いい即戦力だな。それにこんなにも可愛いし……。うぅ、南ちゃん、たまにはいいことやってくれんな……。

 そんなこんなで俺一人でやっていたころより数倍早く仕事を進め、終わらせることができた。

 

 そして午後七時――――


「ありがとう。完璧だよ! 今日はもうこれで終わりだから、また来週頼むね。ご苦労様でした」


 俺が軽く笑みを見せ、こんな言葉を投げかける。すると山田さんは電子メモパッドを取り出し、なにやら書き始めた。さらさらっと書いたあと俺にそのメモパッドを見せる。


『明日は来なくてもいいんですか?』


 あぁ、そうか。毎日来なきゃいけないと思ってるんだな……。


「大丈夫。あとは俺一人で間に合うから。ほら背景、山田さんに全部描いてもらったし。もう仕事は仕上げくらいしかないから。ほんとに助かったよ。ありがとな」


 するとなぜか山田さんは寂しげな表情を見せ、俺に頭を下げるとそのまま玄関へと向かった。

 な、なぜ寂しげな表情を浮かべる?! ま、まさか俺との時間をもっと過ごしたいとか?! そんなバカなことを思い浮かべた俺は無意識のうちに靴を履こうとしている山田さんの肩をポンッと叩き、声をかけてしまった。


「も、もしよかったら夕食、どっかで食べないか? 近くにラーメン屋とか安くてうまい定食屋とかもあるし! もちろん俺のおごり!」


 そんなことを口走ってしまった俺は言った途端、「しまった!」と思ったが、それと同時に山田さんの返事にも期待してしまった。

 すると山田さんはまた電子メモパッドを取り出し、さらさらっと書いた。そしてそれを俺に見せつける。


『ステーキ食べたい!』


■■■


「わりぃ、ステーキ食べれるところ、ここしか思い浮かばなくて……」


 俺たちは今、自分の家から歩いて十分ほどのところにある全国展開している有名なファミリーレストランに来ている。

 そんな俺の謝りをさして気にしている様子もなく山田さんは楽しそうにメニューを眺めていた。

 ファミレスでもよかったってことか? てっきりもっと本格的なステーキが食べたいのかと思ってたけど……。まぁ、そんな嬉しそうな顔してくれんならここで十分だったってことかもな。

 何やら食べるものが決まったらしく山田さんは俺にメニューを差し出し、料理の一つを指差す。


「えぇっと、サーロインステーキ&カニクリームコロッケ……ってこれすごいボリュームだよ! 食べれる?」


 俺はこんな細い山田さんがそんなに食べれるわけないと思い驚きの表情を浮かべながら確認するも、さらに山田さんは違うところにも指を差した。


「ビ、Bセット……ってこのセット、ライスとスープが付くんだよ?!」


 俺が困惑の表情を浮かべるも山田さんはニコリと笑い頷く。

 こんな細い体のどこにあんな量の料理が入るつーんだよ? 胃だけが異常にデカいのか? ってそれじゃぁ、ギャルなんとかって子だろう……。

 本当にこんな量を食べれるのかと訝しげに思いながらも俺は店員を呼び、山田さんの食べたい料理プラス俺の食べたい料理(から揚げ定食)を注文した。

 俺たちはドリンクバーで好きな飲み物を選び、自分の席に戻ると山田さんはバッグからまたメモパッドを取り出し、なにやら書き始めた。

 なんだろ? 今度はデザートも食べたいとか書くのか?

 そんなことを思いながら俺は山田さんの書いている姿を眺める。前に垂れ下がる髪の毛を耳にかける動作を見るとついドキッとしてしまう。あぁ、ヤベェ、俺には森川さんという意中の女性がいるのに……。

 俺は自分の山田さんに対する気持ちを必死で抑え耐えていると山田さんは俺にそのメモパッドを見せた。この後ホテルにでも行きましょう。とか書いてたらどうしよ? なーんてバカな想像もしてみたがそこに書いていたのは俺の漫画に対する意見だった。


『秋田先生の漫画ははっきり言ってつまらないです。今はアクションヒーローブームで流行っていますがそのうち人気がなくなるでしょう。秋田先生の話術を生かしてギャグ漫画、あるいはミニまる子ちゃんのようなエッセイ風漫画を描いてみてはいかがでしょうか?』


 …………俺は固まる。顔も知らない人に面白くないと言われるならまだしも、山田さんにしかも面と向かって言われるなんて……しかもアドバイスまで……。

 でもな、俺にだってプライドはあるんだよ。こんな漫画家の卵に批評され、しかもアドバイスまでもらっちゃうなんて正直イラッとするぜ……。


「あ、山田さん、悪いけど俺、ギャグ漫画とかエッセイ漫画なんて描く気ないから。それにアクションヒーローブームって言ったけど、アクション漫画はいつでも少年漫画雑誌の花形なんだよ。廃れることは絶対ない!」


 俺が正論を話すと山田さんは黙ったまま俺を見つめた。そして軽く笑みを見せ、再びメニューを眺める。

 俺の正論に折れたようだな……。俺はプロなんだからプロに反抗したところで結果は見え見えだっちゅーのにな。まぁでも山田さんまだ十九だし。子供が大人に反抗するようなもんなんだよな。ってメニュー見て、まだ注文する気かい!


■■■


 「本当に全部食いやがった……」


 俺はついその言葉を発してしまう。山田さんは本当にステーキ&カニクリームコロッケとライス、そしてスープまでペロリと完食してしまったのだ。しかも俺より早く……。

 この子、食うのめっちゃ早すぎでしょ! やっぱあれだ、コイツはやっぱりギャルなんとか子だ!

 そんなことを思っていると彼女は再びメニューを指さし、俺に注文してくれと目で合図してくる。


「デザートやっぱり食べるのね……。しかもホットアップルパイってボリュームすげーぞ……」


 すると山田さんはメモパッドでさらさらっと書いて俺に見せた。


『バニラアイスまで添えてあってお得だと思いませんか?』



 あっという間にデザートをペロリと平らげた山田さん。それなのになんで彼女はスリムなんだろう? と思いながら自分の腹をさわる俺。あぁ、なんだよ? 俺の方が食べてないのに何でブクブク太るんだよ? 遺伝子のバカ野郎……亜弥も覚悟した方がいいぜ。


 席を立ち俺は会計を済ませると(ファミレスで四千円以上も使うってどういうこと?)山田さんは深々と頭を下げた。


「あぁ、いいって! 山田さん、今日頑張ってくれたんだし」


 俺が手を左右に振ると山田さんは笑みを浮かべる。それにつられて俺もついニコリとしてしまった。


 店を出ると秋の夜、暑がりの俺でもさすがに寒かった。


「今日は本当にサンキュな。じゃぁ、これで」


 そう言って俺は長ティー一枚しか来ていない上半身を手の摩擦であたためながら家に帰ろうとすると、山田さんが俺の肩を軽く叩いてきた。後ろを振り返ると山田さんは電子ペンを持ち、何か書き出す。そして俺に見せたパッドには――――


『これから一緒にアニメみませんか?』


つづく

こんにちは、はしたかミルヒです!

第七話を読んでくださりどうもありがとうございますm(__)m

なんだか二人、いい感じですね。でも英治、森川さんのことはどうするんでしょうか?

次回、ナトリで山田親子にばったり会う英治。英治はどうなっちゃうのでしょうか?(笑)

お楽しみに♪

ミルヒ


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