第六話
~おしらせ~ ※本日は三話連続投稿!
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「やっと間に合った!」
「よかった! ありがとうございます! じゃぁ、この原稿すぐに会社にもって行きますから!」
「でも安全運転で行ってくださいよー、林さん」
そう言って林さんを見送った後、俺はふかふかの羽毛布団にダイブする。
「ハァ~、これでしばらく寝れるよ……」
久々のゴロゴロタイム。ここのところ原稿の締め切り前でずっと徹夜していたのでこの瞬間は最高に気持ちがいい。原稿を描き上げた人だけに与える神様からのご褒美なのだ。
「忙しいって大変だけど、なんか幸せだよな……」
うとうとしつつ、そんなこといいながら俺はつい微笑んでしまう。二年前の状態がうそのように今は充実している。何だこの差は? って思うくらい未だに信じられない自分がいるけどな。でもこれは現実なんだ。今の俺は売れっ子漫画家で間違いは無い。今俺が描いている連載中の漫画『モンスターバスター シュート』は連載をスタートし始めてからずっと高順位をキープしている。あのクールな編集者の林さんでさえ俺を称賛する。なので正直むずがゆい。もちろん家族の態度も手のひらを返したように俺を褒めまくる。お前ならできると思ってたって。うぅ……なんかそれを思い出したらムカついてきたわ……(笑)。
「あぁやべー、俺もう落ちそう……久々にゆかりんのDVD見ようと思ったのに……」
そんなことをボソボソ言いながら俺は眠りに付こうとしていた。その時――――
『♪♪♪ ゆけ! 僕たちの未来のために! 走れ! あの風に乗っ~て! 厨二病でも無問題! だって厨二病だから! ねっ! ねっ! ♪♪♪』
「ったく、せっかく眠りに付こうとしてんのに、こんな時に誰からだよー」
しかし出ないわけにもいかず、俺はしぶしぶ携帯のディスプレイも見ずに電話に出る。
「もしもし」
『もしもし、俺だけど、今大丈夫か?』
俺って誰だよ? ……はっ! もしかして――――
「お前、オレオレ詐欺だろっ!」
『……何バカなこといってんだよ? 南原だよ』
「あっ、南ちゃんか。なんだよー、こんな時に」
『はっ? お前、忙しくて手が足りないから「アシスタント一人求ム!」って俺に言ってきただろ!』
「あっ、そうだった。すまんすまん」
この南ちゃんこと南原という男は俺より二つ年上の俺の実家の近所の兄ちゃんで、見た目は長身のイケメン。でも性格は…………
もーう、俺と体取り替えてくれよー! そしたら俺は完璧な男になるのに!
そんな彼、実は亜弥の元カレである(笑)。彼は何者かというと『アニメート学院』と言う専門学校で講師を務めていて、その傍ら自分の学校の漫画家志望の生徒をアシスタントとして漫画家に紹介している仲介業もしているのだ。(もちろんタダでね)
『それでさ、今からうちの生徒一人連れて挨拶しに行きたいんだけどいいかな?』
「今からか? そりゃ無理だよ~。俺、締切明けで眠いんだ」
かったるそうにしゃべる俺に南ちゃんは悪魔の囁きのごとく小声で俺にこんなことを伝えた。
『かなり可愛い女の子だぞ……』
「うっ……そう来るか」
『どうだ? 会いたくなっただろう? それに今日は挨拶だけだ。まぁ、その子を採用するもしないもお前が決めることだし。一応、その子には自分が描いた漫画を持ってこさせるから。だから返事は後でいい。でも遅すぎるのはダメだぞ。じゃぁ今から行くからな。じゃぁな!』
ツー ツー ツー ツー
「お前も一方的喋って勝手に切るのか!」
もう切れた電話に向かって突っ込みを入れる俺。なんか悲しいな……。
そして一時間後――――
ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン!
「うわっ!!」
六畳一間の家の扉が轟く。俺は南ちゃんたちが来るまでの間ずっと横になっていたのでこの音が家中に響き渡ったた瞬間、俺は思わず飛び跳ねてしまった。
「ったく、ビックリさせんなよ。そんな思いっきり叩いたら壊れるっちゅーの! アパートのぼろさも考えて叩けよな。築四十年だぞ、四十年!」
そんなことをグチグチ言いながら俺は玄関に行き戸を開ける。
ガチャ
「オッス! 久しぶり~! 元気にしてたか? ってかまーだこんなボロいアパートに住んでんのか? いい加減引っ越せよ」
「おい! ボロいアパート言うな! ここに住んでる人に丸聞こえだぞ」
相変わらず南ちゃんは性格変わってねーな……。デリカシーがないっちゅーか、亜弥が振ったのもわかる気がするよ(笑)。あれだけ男は顔じゃないって言っておいたんだけどな……。
「じゃぁ、上がるな。おじゃましまーす」
「って、勝手に上がるな! ってかちゃんと靴揃えろ! ……ん?」
……うわっ!
俺は驚いてしまった。南ちゃんのすぐ後ろにいた女性。この人がきっと南ちゃんの言ってたアシスタント候補の女性なんだろう。何が驚いたかって、この女性――――
めっちゃ可愛い……。
俺はこの女性を見た瞬間、すぐさま心の中でこの言葉を呟いてしまった。ほんのりと茶色いセミロングの髪に栗色の瞳。瞼の上にはカールした長いまつ毛。本当に人形のようだ。
「あ、かなり汚いけど、適当に座って」
「って、南ちゃんが言うな! それは俺のセリフだろ! ってか人んち勝手に入って汚いってなんだよ!」
俺はこの女性を視野に入れつつ顔を熱らせながら南ちゃんに突っ込みを入れる。その瞬間、彼女と目が合ってしまった。一気に顔から汗が吹き出しシャツが汗でじんわり濡れていくのがはっきりわかる。
ヤバイ! この女性を直視できん!
しかしそんな彼女は俺からすぐに目をそらし、俺たちのコントとともとれる会話には無表情のままゆっくりと床に腰を下ろした。
「しっかしこの部屋、汚ねーし暑いなぁ。もう九月の末だぞ。なんか飲み物くれよ」
「年上の人にこんなこと言うのもなんだけど、殴りてーわ……」
そんなことを言いながら俺はしぶしぶペットボトルのお茶をコップに注ぎ、小さなテーブルの上に置いた。その時にチラリとその女性を見ると軽くお辞儀をしコップに口をつけたのがわかった。
うわ~、唇柔らかそう……。
「な~に、山田さんの顔見つめてんだよ?」
ニヤニヤしながら俺の顔を覗きこむ南ちゃん。
「い、いや、見つめてなんているわけないだろ!」
うそ。俺は彼女の唇をじっと見つめてしまった。小さいのにぷっくらとした唇に思わず吸い込まれてしまったのだ。
いかん、いかん。これから俺のアシスタントになるかもしれないのにそんなこと思ったら仕事に集中できなくなる……。
「あ、そうだ。まだ彼女のこと紹介してなかったよな」
「あ、確かに」
苗字は『山田』ということだけは分かったが、下の名前は何なのか気になる。意外にも古風な名前だったりして。例えば梅子とか。
「彼女は山田満里奈さん、十九歳。漫画家志望の学生さんだ」
南ちゃんが彼女のことを紹介してくれたので俺は挨拶をしようとするのだが彼女を直視できないために視点が定まらない。そんな状態で彼女の方を見てキモイと思われたら嫌なのでつい下を向いたまま挨拶をしてしまった。
「は、初めまして、秋田イェーガーと申します」
あ~、親に言われたのにな。人と話すときは人の顔見て話せって……でもできねーんだよ。こういうときはどうすればいいのか教えてもらってねーからな。うん、これは教えてくれなかった親父のせい。
すると彼女は何も言わずコクリと頷いた。
え? やっぱり嫌われちゃった? ふつう挨拶したら、挨拶し返すよね? ってか彼女の声まだ一度も聞いてねーし! これは俺とはしゃべりたくないってことなのか? やっぱり俺のことキモイと思ったのか? そうだろー! お前も結局は顔で判断するタイプなんだな……。コンチクチョー! あぁ、もうこれでわかったよ。女って結局そういう生き物だってことなんだよな。そう考えると森川さんって本当に天使なんだよな……。森川さん、一瞬でも無口なこの女のことを可愛いと思った俺を許してください! 俺は、森川さん一筋なんですから!
森川さんに対して心の中で懺悔する俺に、南ちゃんはサラリと衝撃的な言葉を発した。
「あ、そうだ。これ言わなきゃいけなかったよな。彼女は耳が聞こえないんだ。でもな手話はできるし、人の口の動きを見て何を話しているのかだいたい読み取ることもできる。だから会話にはそんなに問題はないと思うぞ」
そ、そうだったのか……。俺はひどい勘違いをしてしまった。彼女は無口なわけじゃなかったんだ。あ~、すまん! 山田さんよ、こんな罪深い俺を許しておくれ!
今度は山田さんに心の中で許しを請いていると、山田さんは俺にA4の茶封筒を差し出してきた。そして俺に頭を下げる。
「あっ、もしかしてこれ、山田さんが描いた漫画?」
俺がそう言ってその茶封筒を受け取ったあと、口の動きを読み取ったのか山田さんは軽くうなずいた。
「英治、ぜひ見てやってくれよ。彼女結構うまいんだよ。特に背景とかお前よりうまいと思うぜ」
「おい、彼女の前でそんなこと言うなよ。背景下手ってばれちゃうだろうが」
そんなことを言いながら俺は茶封筒から原稿用紙を引き出しそれを手にとる。そしてパラパラとページをめくり思ったこと。
俺より絵、上手いな……。
続く
こんにちは、はしたかミルヒです!
本日は三話連続投稿してみました! 皆様、いかがでしたでしょうか? またこういうことをやってみたいと思いますので今後ともお付き合いのほどよろしくお願い致します!
では最後に……皆様、三話連続お読みいただいたこと誠に感謝いたします。どうもありがとうございましたm(__)m
ではではまた明日♪
ミルヒ




