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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース6:売れっ子漫画家になりたい(英治編)
60/109

第三話

  ■■■


(とは言ったものの、一年で売れっ子漫画家になるなんてちょっとキッツイよな……)


 そう思いながらスターバッグの帰り道をとぼとぼと歩く英治。


(でも本当に売れっ子漫画家にならないと……亜弥との約束はもちろんのこと森川さんとの大事な約束もあるから……)


 □□□


 二年前、S大学卒業式の日――――


『も、もりかわさん、そ、卒業おめでとうございます!』

『どうもありがとう! 英治君、いえ、秋田イェーガー先生』

『あっ、な、なんでそれを?』

『漫研の人から聞いたわ。ついにデビューしたんですってね』

『あははは。いやぁまぁ、そんな大した作品ではないんですけど、デビューしちゃいました』

『すごいじゃない! こっちこそ秋田先生におめでとう言わなくちゃいけないわよね!うふふ』

『そんな先生だなんて……照れちゃいますよ。それに森川さんの方が先にデビューしちゃって、しかも出した漫画すべて売れてるし』

『でも私と英治君は、ジャンルが全く違うじゃない』


(確かにそうだよな……俺は少年誌だし、森川さんは……ってかそんなこと考えてる場合じゃないだろう! 俺様は今日、森川さんに大事な話があって帰る直前の森川さんを校門前でキャッチしたんだ! 行け、行け! 秋田英治!!)


『あ、あのぉ、今日は森川さんに大事な話があって……』

『あっそうなの? じゃぁ、近くのベンチに座りましょうか? 校門前だと人が通って邪魔になると思うし』

『そ、そうですよね!』



 そして英治たちは校門近くのベンチに座り話を再開させる。



『それで話ってなに?』

『あ、あの……その……も、森川さん!』

『はい?』

『前から、す、す、す……』

『す?』

『前から素敵だと思ってました! 森川さんのはかま姿!』


(ちょ、俺、なに言ってんだよ?! もーう、バカか!)


『うふふふっ。ありがとう。でも今日が初めてよ。袴着るの』

『そ、そうですよね~! はははっ、何言ってんだって感じっすよね~』

『うふふふっ。ほんと、英治君って面白い』


(うわ……マジ、恥ずかしい! 俺、絶対森川さんに変な人扱いされてるよな……でも今日は言う!って自分の心の中で決めてるんだ)


『も、森川さん!』

『はい?』

『す、す、す、すぅ……』


(心臓の音がバクバク言ってんぞ! 落ち着け俺!)


『英治君大丈夫? 汗、すごいよ』

『だ、大丈夫っす! デブと汗はセットなんで。「恋空」とJKがセットなのと同じ意味っす』

『うふふふっ。ちょっと意味不明だよ~! でもほんと英治君のしゃべりって最高!』

『あの……俺……ま、前から森川さんのことが……』


(俺の気持ちを伝えるまであともう少し……行け、行け、行くんだ、英治!!)


『好きでした!! もしよかったら俺と付き合ってください!!』


(言った……ついに言った。ってか森川さんの顔、怖くて見れね~)


『いいよ』

『え? いいよってことは……』

『えぇ、オーケーよ』

『ま、マジで……? ほ、ホントっすか! こんなデブでも付き合ってくれるんっすか?!』

『私も英治君のこと好きだから……』

『うそ……』


(森川さんも俺のことを……?! これマジかーーーーーーー?! 神様! 神様が俺に微笑んだーーー!!)


『でも一つだけ条件があるわ』

『え?』

『英治君が売れっ子漫画家になったら付き合いましょう』

『え?』

『お互いに頑張りましょうね! うん、決めたわ。英治君が売れっ子漫画家になるまでは私、英治君に一切連絡は取らない』

『ちょ、ちょっとどういうことですか? え? 俺が売れっ子漫画家になるまで会わないって?! そんな冗談ですよね?』

『本気よ。逆を言えば、売れっ子漫画家になれば私たちは付き合えるのよ! そうしたほうが燃えるでしょ? 一生懸命頑張れるでしょ? 私ももっと上を目指して頑張るから、英治君も頑張って素敵な漫画をたくさん描いてね! じゃぁ、私行くね』

『そ、そんな……』


□□□


 あの日から英治は森川さんとは会ってないどころか一切連絡も取ってない。


(あぁ、会いてーな……一刻も早く会って森川さんと付き合いてー……あっ!)


 慌てて携帯で時間を確認する英治。


(やっば! バイトの時間間に合わねーじゃん! 家帰ってシャワー浴びたかったんだけど、こりゃー直行でバイトに行くしかねーな。亜弥としゃべり過ぎちまった……)


 慌てて小走りでバイト先に向かう英治であったが途中古びた外観の店から見たことのある女性が出て行くのが見えた。


(あれってJAPANテレビの中村アナだよな。一応亜弥の先輩だし、挨拶したほうがいいのかなぁ? でもいきなり挨拶すんのも変だよな……)


 英治は中村茜の顔を見ながらずっとそんなことを考えていたのだがその時、茜と目が合った。


「あーーーーーーーーーー!」


 茜は英治の顔を見るや否や早足で英治に近付いてくる。


(え? 中村アナ、俺のこと知ってる? でもなんでだ? もしかして俺のファン……?)


 茜は英治の目の前まで行き、小柄な体を奮い立たせキッと睨みを利かせながら英治に詰め寄った。


「あんたね……」

「こ、こんにちは! 秋田イェーガーこと、秋田英治です! あの、今、残念ながら紙とペンがないんでサイン書けないんですけど、もし中村アナがお持ちでしたら喜んで書きますよ!」


 英治は茜に向かってにこりと微笑んだ。しかし茜は睨みを利かせたまま英治から視線を外さない。


(すっげー目力だな! 小柄だし、目おっきいし、小動物みてーでかわえぇ~な! ってかそんなに俺のファンなのかよ。俺だってそんなに見つめられたら勘違いしちゃうぜ?)


 思わずデレッとしてしまう英治。


「よくも……よくも私の可愛い後輩を……」

「え?」

「ほんと、あんたってば最低な男よね。人間のクズよ! 早く彼女に借金返済しなさいよ! そして別れなさい! 一刻も早く! 亜弥はね、あんたみたいなヒモ男とは釣り合はないくらい可愛くていい子なのよ! あんたの彼女なんかには勿体無さ過ぎるんだから!」

「え?」


 英治は数秒考えたところでようやっと気づく。


「もしかしてスタバ……」


 しかしその言葉を遮り茜は英治に言葉を放った。


「わかったわね! このヒモデブ!!」


 そう言い放つと茜はきびすを返し、すたすたと英治のもとを去って行った。取り残された英治はその場で呆然と後姿の茜を眺めながらぼそりとこう呟く。


「秋田亜弥は俺の姉ですけど……」


■■■


(あぁ~、まさか中村アナにあんなに罵倒されるとは、しかも初対面で……めっちゃ落ち込むわ~。人間のクズ、ヒモ男、そしてとどめはヒモデブだもんな……ってかヒモデブって何だよ? ニューワードか? これ流行るかな?)


 そう思いながらコンビニのレジの前に立つ英治。その脂肪を蓄えた体が水色と白の縦じま模様の制服を歪ませる。


「すいません、お願いします」


 そう言うと透き通った声の主が一冊の雑誌をレジの前に置いた。英治は挨拶と同時にその声の主の方へと顔を上げた。


「いらっしゃいませ…………って?!」


 透き通るような肌の周りを赤毛のゆるふわミディアムヘアが囲み、きれいなハシバミ色の瞳を見開きながらその客は英治を見つめる。


「英治……君?」

「も、森川さん?!」


 あまりの驚きに英治は思わず後ろにのけ反った。


(やっべ~! どうしよう? あまりの驚きに俺、声が出ないんですけど……でもなんで今俺の目の前に森川さんがいるんだ?!)


「ひ、ひさしぶり……」


 英治の意中の相手、森川杏もりかわあんも英治同様驚いてしまっているようで頬を染めながら小さな声で言葉を交わした。


「お、お久しぶりです……」


 挨拶を交わした後お互いに言葉が出なくなってしまった。その途端沈黙が走る。

 杏は気まずさをかき消すために髪を整える様に頭を撫でながら話し始めた。


「え、英治君、ここでバイトしてるんだね……。私、友達のところへ遊びに行った帰りにここに寄ったんだけど、まさか英治君がいるなんて……本当にびっくりしちゃった。ははははっ」

「はい、漫画家だけでは食っていけないので……ははははっ」


 ………………


「た、大変だよね、漫画家って……同業者として気持ちはよく分かるわ」

「も、森川さんは相変わらず人気を維持していますよね。ほんと、尊敬しちゃいますよ~。俺なんか今連載ゼロだし、読み切りだってボツにされちゃう始末……はははっ」

「あ、あの……」


 そう言った後、杏は何かを考える様にあごに手を当てる。そしてゆっくりを言葉を述べる。


「え、英治君、あの約束……覚えてる?」

「え?」


 一瞬戸惑ったが『あの約束』という言葉を聞き、英治はピンと来た。


(森川さんと約束したことはただ一つ……)


「も、もちろん、覚えていますよ!」

「良かった……あの約束忘れないでね。待ってるから」


(森川さん……)


 杏はホッとした様子で薄い微笑を浮かべながら三百円を台の上に置く。杏が買ったのは『週刊少年ステップ』という少年誌発行部数No.1の漫画雑誌だ。


「森川さん、ステップ読むんだ……」


 ぼそりと英治が呟いた後、杏はその雑誌を手に持ちにこう答えた。


「英治君の漫画が乗ってるのかどうか、いつもドキドキしながらページをめくるんだ……」

「え?」


 はにかみながら話す杏の表情と言葉に英治は思わずドキリとしてしまう。


「じゃぁね。また英治君が人気者になるまで」


 そう言うと杏はスカートをふわりと揺らしながら店から出ていく。その後ろ姿に英治は声をかけた。


「あっ、おつり!」

「おつりは英治君にあげる。それは私からの投資よ!」


 杏は振り向かずに英治に伝える。英治からは杏の表情が見えなかったが声色でどんな表情をしているのか英治はすぐに読み取ることができた。そんな英治も思わず笑みがこぼれる。杏の姿を見えなくなるまで目で追った後、台の上にある三百円を見つめ思わずぼそりと呟く。


「森川さん……おつりっていっても五十円だけなんですけどね」


つづく

こんにちは、はしたかミルヒです!

第三話を読んでくださりありがとうございます!

皆様正月はどのようにしてお過ごしでしょうか? 私は寝たり、食べたり、寝たり、食べたり、寝たり……これが無限ループと言います(笑)

次回は英治、ドリームショップに入りますが、そこで……

お楽しみに♪

ミルヒ

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