第十一話
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二年後――――
「茜!」
「待った?」
「いや、俺も今来たばかりだから」
「良かった。ノボルが怪我をしてからなかなか抜け出せなくて……ごめんね和夫さん」
「怪我は早く治るのか? 息子にはたっぷり稼いでもらわないといけないからな。ハハハッ」
一年前にJAPANテレビを退職し秘密組織の一員、すなわちスパイとなったその彼女の名は本田茜。本名、中村茜。彼女の恋人はプロ野球選手の金子ノボル。そんな彼の父親の情報を彼女は今一心不乱となって集めている。ノボルの父親、名前は金子和夫。金子は西園寺グループの代表取締役、西園寺総一郎に横領を促し、盗んだ金を大量に消費しておきながら罪を全部総一郎に着せた疑いを持って彼女は調査を進めているのだ。
(証拠はいろいろと上がっているのよ。もう犯人はあんただって確信もある。今日はあんたの人生最後の日。フフフッ。たっぷりと可愛がってもらいなさい)
「今日はどこでランチしようか?」
「そうだな~、いつも高級レストランで食事してたからたまには庶民的なところで食べたいよな……」
「じゃぁ、私の行きつけの定食屋がこの近くにあるからそこで食べようよ」
「あぁ、そうしよう」
その時茜のスパイ仲間と連絡を取るための携帯が振動し、茜に電話があることを知らせる。
(誰からだろう?)
「ちょっと待ってね」
そう言って金子から少し離れたところに移動し携帯の通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『もしもし、重要な情報をゲットした。すぐ事務所に来い』
「え? 何の情報よ? それに今用事があって来れないわ」
『お前にとって重要なことだ』
「じゃぁ、午後一時くらいまでに事務所に行けるようにするから」
『わかった。本当は今すぐ来てほしんだが……』
「ごめんなさい、用事が終わり次第すぐ行くから」
『じゃぁ、またあとで』
「えぇ、また」
ピッ
通話を終了し、金子のところに戻る茜。金子は何気なしに茜に尋ねる。
「誰からだ? ノボルか?」
「いや、会社の同僚からよ。おなかすいたわ。早く行きましょ!」
「そうだな」
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日中のはずなのに日が当たらない暗い路地を茜を先頭にし歩く二人。待ち合わせ場所から出発して十五分。
「おい、茜の行きつけの店、まだか?」
「もうちょっとよ」
そして更に歩くこと十分。
「おい、道に迷ったんじゃないか? こんなところに店なんてねえよ。俺腹減って死にそうだよ」
すると茜はピタリ足を止める。
「着いたわよ」
「着いたってどこにも店なんてないぞ?」
金子はきょろきょろとあたりを見回しながら茜に言う。その時、物陰から二人の派手なスーツを着た男が現れた。
「こんにちは山田さん。はい、これ」
そう言って茜は山田という男に現金を渡す。
「おう、確かに受け取った。じゃぁ後は任せろ」
「お願いね」
「茜? これはどういうことだ?」
上手く状況を飲み込めない金子は茜に問うが茜は不敵な笑みを浮かべ金子にこう答えた。
「彼の顔、見たことあるでしょ?」
茜の言葉に金子は振り向きその男の顔をよく見る。
「はっ?!」
「こんにちは、金子さん。和歌子さんにはいつもお世話になっております」
そう言いサングラスの奥から金子を見つめ、にこりと笑う山田。
「あ、あ……あんたは……な、何なんだ? お、おい、茜、どうなってんのか説明してくれよ!」
驚きと恐怖が入り混じった表情で金子は茜に答えを問う。しかし茜は涼しげな顔をしながらこう言った。
「たっぷりと可愛がってもらってね。じゃぁ、さようなら和夫さん♪」
「あ、あかねーーーーーーーーーーーーー!!」
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「待たせてごめんなさい」
「早く座ってくれ。すぐにでも話がしたいから」
事務所の一室で木製のテーブルを真ん中にし向かい合ったソファに座ってるスパイ仲間の男が何やら神妙な面持ちで茜に言う。
「なによ? 新たな情報?」
そう言いながら茜はその男の真向かいに座った。
「新たな情報……だな。お前に言うのはものすごく辛いんだが」
「私が辛くなる情報? なに? 早く教えてよ」
この男が言った言葉が気になった茜は話を急かす。
「よく聞いてくれ。俺たちが調べていた金子の情報はデマだった」
「え?」
目が点になる茜。
「な、なによ今更! あんだけ金子について調べた結果、アイツはやっぱりクロだったのよ。それを今更シロだなんて信じられるわけがないでしょ! デマってその情報自体がデマじゃないの?」
茜は興奮気味でこの男に反論した。
「いや、これはかなり有力な、間違いのない情報だ」
「バカ言わないでよ……」
「本当だ」
その男の真剣なまなざしに茜はうろたえる。
「じゃ、じゃぁ、金子じゃない、おじさまを騙した本当の犯人がいるってこと?」
「そうだ」
その男は一言だけ返事を返した。
「だ、誰よ? その新たな犯人は誰なのよ!」
茜は小刻みに声を震わせながらその男に答えを問う。その男は気持ちを落ち着かせるために深呼吸をし、そしてゆっくりと口を開いた。
「お前が追い求めていた本当の人物は――――」
ごくりと大きくつばを飲み込む茜。
「中村佳奈子。お前の母親だ」
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「もし……もし」
『お父さん? どうしたの?』
「父ちゃん、もうダメかもしれねぇ……ウッ」
『お父さん? どういうこと?』
「ゆかり、お前は幸せになれよ……。なんてたってお前は俺の愛娘なんだからな……」
『お父さん? お父さん? お父さんってば! ねぇ、どうしたの? 返事をしてよ! お父さん! おとーさん!』
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「復讐は何の利益も持たない。それどころか周りの人をも不幸にさせ、本人の精神はボロボロに……最終的に復讐者自身が破滅を迎える……。復讐って何のために存在するのか? 正義? それとも単なる自己満足? そうそう、インド独立の父として知られている世界的有名な宗教家、マハトマ・ガンジーがこんなことをおっしゃっておられましたわ」
『「目には目を」では世界が盲目になるだけだ』
「この言葉、中村様にお伝えしておけばよかったのかもしれませんわね。ウフッ♪」
その時、白衣を着た女性が店の奥から出てきて夢子に新たな夢の液体を不敵な笑みを浮かべながら見せつけた。
「夢子、次の液体が出来上がったわよ。中村様の負のエネルギーから作り上げた液体。これだけあれば、色々な夢の液体を作ることができるわね。フフフッ」
「あら、月子さん。どうもありがとう。なんとまぁきれいな朱色の液体ですこと♪」
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「すいません、お願いします」
「いらっしゃいませ…………って?!」
「英治……君?」
「も、森川さん?!」
「ひ、ひさしぶり……」
「お、お久しぶりです……」
「え、英治君、ここでバイトしてるんだね……私、友達のところへ遊びに行った帰りにここに寄ったんだけど、まさか英治君がいるなんて……本当にびっくりしちゃった。ははははっ」
「はい、漫画家だけでは食っていけないので……ははははっ」
「た、大変だよね、漫画家って……同業者として気持ちはよく分かるわ」
「も、森川さんは相変わらず人気を維持していますよね。ほんと、尊敬しちゃいますよ~。俺なんか今連載ゼロだし、読み切りだってボツにされちゃう始末……はははっ」
「あ、あの…………え、英治君、あの約束……覚えてる?」
END
こんにちは、はしたかミルヒです!
茜編最終話を読んでくださりどうもありがとうございました!
次回は、ケース6:売れっ子漫画家になりたい(英治編)をお送りします。おそらく投稿は12月の末になると思います。
その時までお楽しみに♪
ミルヒ




