第九話
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「はっ!」
茜は驚きとともに目が覚めた。
「夢……」
そう呟き茜は体を起こす。体は汗でびっしょりと濡れていた。ベッドの上に置いてある目覚まし時計を見ると時刻は午前六時半。
「そっか、あれは夢だったんだ……。ハハハッ、もうなんていう夢見てんのよ?」
そう言いながら額に手を当て、ため息をつく茜。
「ハァ……私、ノボルに殺されてやんの……。でも殺されるようなことやってたしな」
ベッドから降り、窓を開けると窓辺に置いてあったきれいな小瓶が茜の目に入る。
「そうだ、そうだった。私、夢の液体を飲んで寝たんだった……。ということは、この瓶を返さない限りあの夢が現実のものとなってしまう……。私の未来は自分の夫に殺されバッドエンド……」
そうはなりたくないと思い、茜はシャワーを浴びた後、早速あの店に向かうことにした。
(昨日見た夢は絶対に現実になってはいけない……)
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街の片隅にある一軒の小さな店。もちろんこの目立たない小さな店にほとんどの人は気が付かない。しかし夢を叶えたいと強く願うものだけが気づく不思議な店。
カラ~ン
「おはようございます」
しかし誰も出てくる気配はない。
(土曜日だから店、休みなのかな?)
そう思いながらももう一度茜は呼びかける。
「すいませーん! 誰かいませんか?」
すると店の奥から白衣を着た女性がゆっくりと出てきた。
(あぁ、昨日の店員さんは休みか……。まぁいいや)
「あの、昨日ここで夢の液体を買ったものなんですけど、契約を破棄したくて空の瓶を返しに来ました」
することの女性は納得したようにポンッと手を叩いた。
「あぁ、中村様でございますね。確かその夢の液体は金子ノボル様と結婚ができる液体でございましたよね」
「はい……。でもちょっと自分の思い描いていた夢ではなかったので」
苦笑いを浮かべ茜は言葉を返す。
「そうでございましたか~。ではその小瓶をお返ししてくださいますか? それと引き換えにお金をお返しいたしますので」
「はい」
茜は返事をすると、自身のショルダーバッグから夢の液体が入っていた空の小瓶を取り出し、この女性に渡す。
「はい、確かに受け取りました。ではただいまお金を持ってまいりますので少々お待ちくださいませ」
するとその女性はウィーンウィーンという音を立てながら店の奥に入る。
(この音……何の音かしら? 機械っぽい音がするけど)
「えぇと中村様の夢の液体の値段は……」
その女性は夢の液体がいくらだったのか考えているようだったので茜が店の奥にいる女性に向かってそれに答える。
「あ、二十万円で買いました」
「二十万円ですね。かしこまりました」
そう言うと二十万円を手に持ち茜のところへ向かう。ほんの数メートル先のことなのだが、この女性の動きがとても遅い。
(足でも怪我しているのかしら? それにこの音なんだろう?)
そう思い茜からこの女性のところへと向かう。
「大丈夫ですか? もしかして足、怪我されています?」
「いえ、ワタクシの脚はもともとこんな感じなので。お気遣い誠にありがとうございます」
ニコリと笑みを浮かべながらこの女性はぺこりと頭を下げた。
「あっ、では二十万円、お返しいたします。お受け取りになった時点で夢の契約は破棄されますのでご了承くださいませ」
そう言いこの女性は茜に二十万円を差し出す。茜はゆっくりとそのお金に触れ、そしてそれをつかんだ。
「これで私の夢の効果は無効になったということですね……」
しんみりとした面持ちでその二十万円を見つめる茜。
「そうでございますね。でももう一度夢の液体を買っていただくことも可能でございますよ」
その言葉を聞き茜は驚きの表情でその女性の顔を見た。
「え? もう一度買えるんですか?」
「はい、それに同じ夢じゃなくてもいいのでございます」
「違う夢でもいいんですか?」
「はい、お金さえ払っていただけるなら違う夢の液体を喜んでお渡しいたしますわ。ただし、二回目の液体では夢を体験することはできませんけれども。どういたしましょうか?」
その女性は微笑を浮かべながらも茜を見るまなざしは強いものがあった。
(夢を体験することができないのか……)
そう思いながら数十秒ほど考え茜はこう言う。
「ちょっと考えてみます」
「そうでございますか。ではまたのご利用をお待ちしております」
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(どうしよう……)
店を背にし茜は夢の液体を再び購入するかどうか悩んでいた。
(でも次はなんていう願いにしたらいいんだろう? 金子の情報をどうやってつかむかがキーポイントよね……。というか夢の中で金子の情報を一つもつかめなかった気がするんだけど……)
その時、茜のバッグの中で振動させながらホルストの『木星』の曲とともにそれは茜に電話を告げる。
(だれだろう?)
そう思いバッグの中からスマートフォンを取り出しディスプレイを見る。その電話相手を見て驚く茜。画面の通話ボタンをタッチして電話に出る。
「もしもし」
『もしもし、茜ちゃん、久しぶり。洋子です』
「洋子おばさま、お久しぶりでございます」
『ちょっと、茜ちゃんと会ってお話したいことがあるんだけど、今日暇かしら?』
茜は頭に疑問符を浮かべながらも洋子の誘いに乗る。
「はい、大丈夫ですが……どうかなさいましたか?」
『会って話せばわかるわ』
洋子の淡々とした話し方に多少なりとも恐れを抱く茜。
「そ、そうですか」
『じゃぁ、午後三時に駅前にあるスターバッグで。知ってるでしょ?』
「はい、そこのスタバはよく行くので」
『じゃぁ、その時にお会いしましょ。失礼するわ』
「あ、はい。ではまた……」
そこで通話が終わった。
(洋子おばさまが私に話があるってどういうことかしら? もしかしておじさまのことで? というかそれしかないわよね……)
続く
こんにちは、はしたかミルヒです!
第九話を読んでくださりありがとうございます!
最近外を歩くと風が冷たすぎて耳とほっぺたが痛くなります。もう寒いのはこりごりです……。早く暖かい所に行きたい(>_<)
さて次回は総一郎の元妻、洋子と会う茜。洋子は茜に一体何を伝えたいのか?
お楽しみに♪




