第五話
■■■
「シャークス、ピッチャー金子!またまた完封試合を見事にやってのけました!!」
「シャークスはこれで七連勝ですね~! 本当に強いです」
「中島さん、シャークスがここまで強いのは金子のおかげと言っても過言ではないですよね~!」
「そうですね~、なにせ金子は三試合連続、完封試合をやってますからね! 本当に彼は天才ですよ!」
「あ、ここでシャークス金子のヒーローインタビューです!」
「放送席、そしてシャークスファンの皆様、お待たせいたしました。三試合連続完封勝利をやってのけました! シャークス、金子投手です! おめでとうございます!!」
「ありがとうございます!!」
「いやぁ、三試合連続完封勝利、見事でございます! 今の気持ちはいかがですか?」
「本当に最高の気分です! これも応援してくれたファンの皆様のおかげです! ありがとうございます!」
「今シーズンは軽いながらも怪我をされ心配されていた右肘なんですけども――――」
俺は今、最高に幸せだ。十八歳でシャークスにドラフト一位指名され、プロ野球選手になって今期で四年目だ。シャークスに入団してから期待の新人と言われ続け、今もその面目を保っている。というか今じゃシャークスの宝と言われている。そして年俸は俺の年齢では破格の二億円だ。
やはりあの時飲んだ不思議な店で買った夢の液体のおかげなんだろうか。正直、幸せになった今、液体のおかげなのかそうでないのかはどうだっていい。今、言えることは俺の夢が叶ったということ、そして最高に幸せだということ、ただそれだけだ!
「「「「「「「「「金子! 金子! 金子! 金子! 金子!!!!!! ワァーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」」
■■■
「ただいま~」
「ノボルー! お疲れ~! 今日も完封勝利おめでとう!」
「あぁ、サンキュ。でも今日はデイゲームだったからめっちゃ暑かったよ~!」
玄関で俺にねぎらいの言葉をかけてくれるこの女性、彼女はJAPANテレビのアナウンサーで俺の婚約者でもある中村茜。ボブヘアで小柄で俺よりも年下に見えるが、実は俺よりも六歳年上の二十八歳だ。今は彼女と二人でこの高級マンションに住んでいる。そして俺たちが住んでいる部屋の隣には俺の母親が一人で住んでいる。
「今日は、三試合連続完封勝利ってことで、ノボルの大好きなカツカレーとポテトサラダを作りました~~!」
「おっ、うまそうじゃん! ねぇ、こんなに美味しそうなんだから、母さんも呼んで三人で食べようよ!」
「え? あ……うん……」
俺がそう言った途端なぜか茜は、浮かない顔をした。
「なに? どうした?」
「あ、いや、なんでもないよ! ハハハッ! 私、カレーを温めるから早くお義母さま呼んできてね」
■■■
「いただきます!」
「いただかせていただきます」
「どうぞ、遠慮なく召し上がってください!」
俺と母さんと茜、三人で仲良く食卓を囲む。これも俺にとって最高に幸せなことだ。
「茜さんの料理は本当に美味しいわね~」
「いえいえ、お義母さまの料理に比べれば全然大したことはないですよ! ハハハッ」
しかしやっぱり茜の様子が変だ……
「茜? どうした? やっぱりなんか元気ないみたいだけど?」
「え? そう? そういう風に見えるだけじゃない? 私はいつだって元気よ!」
茜はニコニコ笑いながら元気をアピールをしていたが俺にはなんだか無理して笑っているように見えた。
「ところで……」
母さんが急に箸を止めて話し出した。
「今月の病院代なんだけど……」
申し訳なさそうに話す母さん。
「あぁ、ごめんごめん。まだあげてなかったよね。すぐに母さんの口座に振り込んでおくから」
俺は大好きなカツカレーを口いっぱいに頬張りながら母さんに話した。
「なんか本当にノボルに迷惑かけてばかりで申し訳ないねぇ……あんないい部屋にも住まわさせてもらって……私はこんないい息子を持って本当に幸せだよ」
「母さん……」
俺は不覚にも母さんのその言葉に目が潤んでしまった。
「何言ってんだよ! 水臭いなぁ。母さんは今まで散々苦労してきたじゃないか! もう母さんには苦労してもらいたくない。これからは幸せな人生を目一杯味わってほしいんだ。ね、人生これからだよ、母さん!」
「ノボル……グスッ……本当お前ってやつは……母さんはほんと、本当に今が幸せだよ。ありがとう。グスッ……」
「母さん! こんな食事の場で泣くなってば~! あっ、茜、ティッシュ! それと、俺の財布も持ってきて!」
「え? 財布も? あ……はい……」
茜はなぜか苦い顔をしながらティッシュと財布を持ってきた。「なんだよ、そんな顔して」と言おうと思ったのだがとりあえず母さんを慰めるほうが先だと思い、茜には何も言わなかった。
「ほら母さん、鼻かんで!」
俺が母さんにティッシュを数枚渡す。
「それと……」
俺は財布からお金を取り出し、母さんに渡した。すると母さんはびっくりしていたがそれと同時に茜も目を丸く見開いていた。
「ノ、ノボル……これは……」
「一応、今月の病院代はすぐ振り込むつもりだけど、なんかあった時のために使ってよ」
「で、でも、五万も……」
「ごめん、今、財布の中にあんまお金入ってなくて。少ないかもしれないけど……へへへっ」
「ノボル! ありがとう。本当にありがとう。グスッ……もう、もう母さんは今すぐにでも死んでいいくらいだよ!!」
母さんは再び泣きだした。しかも大声で。その泣き声は近所迷惑になるくらいまでうるさかったが俺は母さんのうれし泣きしている姿を見て、嬉しくなってしまった。親孝行している自分に少し酔っていたのかもしれない。
しかし茜はというと、相変わらず苦笑いを浮かべていた。
食事のあと、俺たちは他愛のない話を何時間かした後、母さんは午後九時に俺たちの部屋を出た。
■■■
「あぁ~! 今日も良い一日だった! 今日も親孝行出来たし!」
俺はつい本音を言ってしまった。すると母さんがいる間は終始無言だった茜がようやっと口を開いた。
「ねぇ、ノボルさぁ……」
「なんだよ?」
「お、お義母さまにそんなにお金あげていいのかな?」
「へぇ?」
茜が思ってもないことを言ってきたので俺はつい腑抜けた返事をしてしまった。
「だって、ノボルは男だからよくわからないかもしれないけど、お義母さま、毎日全身ブランドの服を身にまとってるし、靴もバッグも全部ブランド物……だからもしかしたらノボルからもらった病院代を使って……」
俺は茜の言葉に思わずカーッっとなり、まだ茜が話し終わっていないにもかかわらず遮って反論してしまった。
「あのなぁ、勝手に話を作るなよ! 母さんは本当に心臓の病気を患っているんだ! それにブランド服着て何が悪い? 茜は知らないかもしれないけど、母さんはな、ずっと今まで苦労して俺を育ててくれたんだ! 今までずっと貧乏に耐えて暮らしてきたんだ! だから今こそ、母さんには楽しく暮らしてほしいんだよ! オシャレしたっていいじゃないか? 茜だってブランド物の服持ってるだろ? 母さんが茜に何をした? 何もしてないだろ! そんな母さんを悪く言うなんて信じられないよ!」
「べ、別にお義母さまを悪く言ったつもりはないし、それに私は自分で稼いだお金でブランドの服を買ってる。そ、それにノボルがいない時のお義母さまは、とても病気を患ってると思えないほど元気そうにしてるし……この前なんて、近所の人に『一生懸命働く人がバカに見える』ってお義母さま言ってたわ……その言葉聞いて正直信じられないと思った。でもだからと言ってノボルにはこのこと今まで言わないで置いたけど……」
「お、お前正気か……? いい加減にしろよ……ふざけるなよ!!」
俺は怒りに任せ茜を怒鳴ってしまった。茜は俺の怒鳴り声に怯えているようにも見えた。
「そんなに俺の母親が憎いのか? なんでだ? はぁ……もう、お前には見損なったよ。そんなこと言うやつじゃないと思ってたけど、人の悪口をベラベラ言うやつなんてホント最低の人間だな……」
俺は体と声を震わせ、いつの間にか俺は悔し涙を流していた。そして茜も俺と同じく涙を流していた。それは俺に対する悔し涙なのかそれとも違う理由で泣いていたのかは分からない。
「あなたはお人好しすぎるのよ……」
つづく
どうもはしたかミルヒです! 第五話を読んでくれてありがとうございます!!
最近スマホのキャンディークラッシュって言うゲームをめっちゃやっています。単純なゲームなのになぜかハマってしまうんですよね~。私も単純なストーリーなのになぜかハマるラノベを書ける作家になれればいいなぁと思っております!
ところで次回は、ノボルの父親がついに登場します。母親が言っていた通りやはりノボルの父親は悪い父親なのでしょうか?
お楽しみに♪
はしたかミルヒ