第二話
■■■
「ただいま~」
「ノボルー! お疲れ~! 今日も完封勝利おめでとう!」
「あぁ、サンキュ。でも今日はデイゲームだったからめっちゃ暑かったよ~!」
そう言い、ニコニコと笑みを浮かべながら靴を脱ぐこの男性。そう、今や押しも押されもせぬシャークスのエース、金子ノボル。そんな野球界のスーパースターと私は去年結婚した。(あややには「私が金子ノボルのファンだって知っておきながら~!」って泣きべそかきながら散々文句言われたけど……(笑)。でもちゃんと祝福してくれたしね)そして結婚を機に有名人も多く住んでいるこの高級マンションに移り住み、そこで私たちは愛を育んだ。
そして今、私は二十八歳になり、私より六歳年下の夫は二十二歳なった。
「今日は、三試合連続完封勝利ってことで、ノボルの大好きなカツカレーとポテトサラダを作りました~!」
「おっ、うまそうじゃん! ねぇ、こんなに美味しそうなんだから、親父も呼んで三人で食べようよ!」
「そうね! じゃぁ、私、カレーを温めるから早くお義父さま呼んできてね」
「おうよ!」
私たちの部屋の隣にはノボルの父親が一人で住んでいる。ノボルがずっとお世話になった父親にとマンションの一室を買い与えたのだ。ノボルの父親と母親はノボルが中学二年生の時に離婚したらしい。原因は母親の不倫だったとか……。ノボルは私によく母親の悪口を言ってくる。「アイツはずっと俺をだましていた」とか「自分は悪くないと言って親父を悪者にしていた」とか「あの女の言うことはもう信じられない」等々……。
私は正直その言葉を聞いて辛くなっていた。何故ならば――――
私も彼を利用しているのだから……。
ノボルはいい言い方をすれば純粋、率直に言うと彼は騙されやすい人。私は昔から人を見る目には長けている。この人が騙されやすい人で良かった半面、当然罪悪感も抱いてしまう。
ごめん、ノボル……。
■■■
「いただきます!」
「茜さん、いただきます!」
「どうぞ、遠慮なく召し上がってください!」
私とノボルと、そしてノボルの父親、三人で仲良く食卓を囲む。まさにホームドラマのように幸せな家庭がそこにあった。
「茜さんの料理は本当に美味しいな~」
私の料理を褒めるのはノボルの父親である金子和夫、五十二歳。おでこが広めの白髪交じりの短髪でノボル同様に背が高く、肉づきもその背丈からしてみればほどよい。しかし歳のせいかポッコリと下っ腹が出てしまっている。見た目的には年齢相応の、まぁ簡単に言ってしまえば普通のおじさんだ。
「いえいえ、そんな褒めていただけるようなものではないですよ」
「茜さんは謙虚だな~! どの料理も絶品だよ、絶品! 本当にうちの息子がうらやましいよ。料理上手だし、美人だし、アナウンサーやってるくらいだから頭もいいんだろ? いや~、茜さんを嫁にもらって正解だったな、ノボル?」
そう言いニヤニヤとノボルと見つめながらカレーを口に運ぶお義父さん。
「な、何だよ、今更……」
恥ずかしいのかノボルは日に焼けた頬を赤らめながら、カツを頬張る。
「お義父さん、これ以上ノボルをからかうと試合に支障が出ちゃいますよ!」
私は頬を軽くふくらましながらもノボルをからかうお義父さんにまんざらでもない様子で微笑む。
「おっ! 茜さんも言うね~!ハハハッ」
――――フフフッ……でもね、こんな幸せな家庭があるのも今のうちよ。覚悟しててね。お義父さん、いえ……おじさまを騙した憎き犯罪者、金子和夫!
■■■
ある日、私はノボルが遠征に行っている時を見計らって隣の部屋を訪ねる。
ピンポーン
するとカメラ付きインターホンで私の顔を確認したのかすぐにその男はドアを開けた。
ガチャ
「茜さん! どうしたんだい?」
「夜分遅くにすいません。ちょっとお義父さんに相談があって」
「俺に相……談?」
「えぇ……」
「でも俺に相談したところで大したアドバイスできないぜ」
「いえ、聞いてくださるだけで十分です」
「そうか? まぁ、立ち話もなんだから上がってお茶でも飲みながら話そうぜ」
「はい、では上がらせていただきます」
■■■
金子和夫の部屋は、私たちの部屋とほとんど同じつくりをしていた。正直一人だけで住むにはもったいないほど広い部屋だ。金子もその部屋を持て余しているのかリビングにはなぜか布団が敷いてあった。そしてその横には小さな食卓テーブル置いてある。おそらく生活の大半をここで過ごしているのであろう。
「ちょっと散らかってって悪いけど、適当に座ってるくれかい?」
「はい」
私はそのテーブルの下に敷いてあるじゅうたんの上に置いてあった座布団に腰を下ろした。
「テレビは……消した方がいいよね?」
そう言い金子はリモコンを手に持つ。
「いいえ、そのままでも結構ですよ」
「そうかい? 悪いね。俺、ずっとテレビをつけてないと落ち着かない性格なんだよなぁ~。寂しがり屋なのかもな。はははっ」
笑いながら金子はテーブルの上にリモコンを置くと、台所に向かった。きっとお茶を私に出してくれるのであろう。
「冷蔵庫に麦茶しかなかったんだけどいいかい?」
そう言い、金子はビールメーカーのグラスにたっぷりと注がれた麦茶をテーブルの上に置いた。
「わざわざすいません。いただきます」
そのグラスを手に持つと思った以上によく冷えていて、手からその冷たさが私の体中に染み渡った。今の暑い季節にはその冷たさが気持ちいい。一口コクッと飲み込むと、食道から冷たさの刺激が伝わる。金子は私の正面に座り、同じく麦茶を一口飲む。それからニコリと笑い、私がするべき相談を促してきた。
「それで相談って何なんだい? ノボルのことか?」
「いえ、違います。あの、実は……」
私は軽く深呼吸をしたあと金子の目をじっと見つめ、こう答える。
「お義父さん、いえ……和夫さん。あなたのことが、す、す……」
「す?」
「好きになってしまいました!」
「…………え??」
状況を飲み込めていないのか金子はきょとんと目を丸くしたまま微動だにしなかった。私は目の前の小さなテーブルを横に移動させ、金子の近くに寄る。
「この気持ち、もう抑えることが出来なくて……」
そう言い私は頬を染め、金子の肩にもたれかかった。
「ちょ、ちょっと、それはこ、困るんじゃ……」
金子はうろたえながらももたれかかっていた私の体を元の状態に起こす。
「ダメ……ですか?」
そう言いながら私は上目づかいで金子を見る。
「だ、ダメってそりゃ~ね……」
私に見つめられて恥ずかしいのか明後日の方向を見ながら話す金子。その顔は紅潮していた。
「もちろんノボルにはこのことは言ってません。というか言えるわけないですし……あのー、だからこの気持ちは二人だけの秘密にしてもらっていいですか?」
「え、いやぁ、あの……」
「和夫さんは私のこと嫌いですか?」
「嫌いって、そんなことあるわけないでしょ……」
「じゃぁ、好き……?」
金子の額からは雨粒のような汗がだらだらと流れている。これはイケる! あと一押し!
「きゅ、急に言われてもねぇ~……」
「いきなり付き合ってとは言いません。だから……デートだけでもしてもらえませんか?」
「で、デート?!」
「はい。デートって言っても一緒に食事して他愛のない話する。ただそれだけですよ」
「食事して、話しをするだけ……」
金子は俯きながらウ~ンと軽く唸りしばらく考えていた。そして――――
「わかった。じゃぁ、その……で、で、デートだけなら……」
顔を真っ赤にし、視線をそらしながらも金子は私とデートすることを承諾した。
「…………和夫さん!ありがとう!」
私は思い切り金子に抱き付く。
「う、うわ!ちょ、ちょっと!茜ちゃん!」
慌てながらも金子は抱き付いてきた私の体を無理に引き離そうとはしなかった。私は顔を下に向け金子の胸の中でニヤリと笑う。
第一段階達成。もうじきお前は私の虜になる。私の勘だとこの男は私に本当のことを話してくれるだろう。待っててね、おじさま。絶対コイツの化けの皮をはがしてあげるから……。
続く
こんにちは! 可愛い子猫のカレンダーを買ったはしたかミルヒです!
やっぱネコってカワユスなぁ~って思いますね! 一匹買ってもふもふしたいです(笑)
ってなことで第二話を読んでいただきありがとうございます!
なんかドロドロしてきましたね。昼ドラみたいな展開になってきちゃいました(笑) 今後茜は和夫に何を仕掛けてくるのでしょうか?
お楽しみに♪
ミルヒ




