第九話
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ピッピ、ピッピ、ピッピ、ピッピ
携帯のアラームが朝の七時を告げる。
「う゛ぅ……もう七時……」
そう言い寝ぼけ眼で携帯のアラームを止めるくるみ。しかし何かに気づきバサッと掛け布団をめくりあげくるみは起き上がった。
「って私、結局直人と付き合えなかったじゃん! 三百万も出したのよ~~~! あの店に行って、あの派手な店員に手一杯文句を言って三百万返してもらわなきゃ! あのインチキ野郎~~~!!」
くるみは怒りが収まらないまま、昨日母親の華子が作っておいてくれた炊き込みご飯のおにぎりと豆腐の味噌汁をかきこむ。
「もーーーーーーーーう! 悔しい!!」
そう言いながら五分で朝食を食べ終え、シャワーを浴び、家を出る準備をするくるみ。
「あの店何時からやってるのか知らないけれど、もうそんなの関係ないわ! 怒鳴り込んでやるんだから!」
そうしてくるみはあの店に向かうべく家を出た。タクシーに乗りあの店がある街へと向かう。
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街の片隅にある一軒の小さな店。この目立たない小さな店にほとんどの人は気付かない。しかし夢を叶えたいと強く願うものだけが気づく不思議な店。
「確かここら辺だったはず……」
くるみはタクシーを降りた後あの店があった通りを歩く。五分ほど歩き続けると見たことのある光景がくるみの足を止めた。
(もう店はすぐそこにあるはず……)
キョロキョロとあたりを見回すくるみ。すると急に古びた外壁の建物がくるみの目の前に現れる。
「あっ、ここだ! 見つけた……」
そして躊躇することなくくるみはその店に足を踏み入れた。
カラ~ン!
くるみが勢いよくドアを開けると目の前にはすでに夢子が立っていた。
「いらっしゃいませ! ドリームショップへようこそ!」
そんな夢子に顔を近づけ、くるみは静かに尋ねる。
「ねぇ、どういうことか説明してもらえるかしら?」
「といいますと夢の液体の件でございましょうか?」
そう言うと夢子はニコリとくるみを見つめ微笑んだ。
「そのこと以外で何があると思うのよ! さぁ、説明してちょうだいよ! 私は直人と結ばれなかったじゃない! 三百万返してよ! このインチキ女!」
くるみは表情を百八十度変え鬼の形相で夢子に詰め寄る。しかしそのくるみの態度にポカンとする夢子。
「横山くるみ様の未来の夢は本当にかなわなかったのでしょうか?」
「直人と恋人同士にちっともなれなかった。どういうことよ? 私三百万もだしたのに!」
「しかし……そんなはずは……といいますのも、青木様と共演されたドラマで告白されたと思うのですが」
「はー? 何言ってんの? それはあくまでドラマ上の話でしょ? 現実の話をしてるのよ。こっちは!」
夢子はくるみの発言に首をかしげる。
「しかし、確かに青木直人様と横山くるみ様としての夢はかなっているとは思いますが……違いますでしょうか?」
「だーかーらー!」
その時くるみは、ハッと気づく。
「え? もしかして……本当の名前じゃないと……」
顔を一気に強張らせるくるみ。その顔を見てにやりと笑う夢子。
「ご利用ありがとうございました! ウフッ♪」
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そして六年後――――
チャペルの鐘が教会全体に響き渡る。挙式終了後教会を出る二人。出口にはたくさんの人が二人を祝福してくれていた。
「「「おめでとー!」」」
「ゆかりー! 綺麗だぞ!」
そう言いながら色とりどりの花びらをパァーとまくゲストたち。
「本当にきれいだよ」
新婦にだけ聞こえる様に話す新郎。
「直人くん……」
新郎にそんな言葉を言われ頬を赤く染める新婦。
「ゆかりー! 幸せになれよー!」
「?!」
一瞬聞いたことがある声にゆかりはハッと驚き、その声の方向を見る。
「お父さん?!……じゃないか……」
「どうした?」
そんなゆかりを見て心配そうに見つめる直人。そんな直人に笑顔を見せ、ゆかりはこう言った。
「ううん、なんでもない。ただちょっと天国から声が聞こえたの」
そんな時、聞いたことのある声が二人の耳に届く。
「直人ー! ゆかりちゃーん! 結婚おめでとう!」
「「くるみ(ちゃん)!」」
二人は一斉にくるみの名前を声に出す。
「直人! ちゃんとゆかりちゃんを幸せにしなよ! じゃないと私が許さないんだからね!」
そう言いながら満面の笑顔で二人を見つめるくるみ。
「もちろんだよ! くるみ!」
直人もくるみに笑顔で返す。しかしその言葉にくるみは頬を膨らましながらこう答える。しかし軽く笑みを含ませながら……
「ちょっとー! 私の名前はくるみじゃなく梅子でしょ!」
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「やっと二人は結ばれましたわね。あぁ、これで安心しましたわ」
水晶を見て微笑む夢子。その時六時の鐘が店内に響き渡る。
ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン
夢子は背筋をぴんと伸ばし誰かが来るのを緊張した面持ちで待っていた。その誰かが店の奥から出てくる。全身黒い布で覆われたものすごく大きな者。邪悪な存在なのが布をかぶっているのにもかかわらずひしひしと肌に伝わってくる。出てくるや否や地を這うような低い声で夢子に叱咤し始めた。
「お前は、客の言う通りの夢をかなえなかったな?」
「ど、どういうことでございましょうか?」
「青木直人という男の夢は何だったのか答えてみろ」
「…………」
するととたんに口をつぐむ夢子。彼女の額には雨粒のような汗がだらだらと流れている。
「何だったんだ?!」
声の低いその者が声を荒げ夢子を責める。
「……ゆかり……んと付き合いたい……」
「しかし、お前はその夢の液体を渡さなかったな?」
「…………」
「お前が渡した夢の液体は何だ?」
「さ、西園寺ゆかりと両想いになるための液体でございます……」
夢子は恐れのあまりに声が震え語尾が小さくなってしまう。
「ほほう……勝手に客の夢を変えたことに対して何か言いたいことはあるか?」
「しかし、あの時青木様はゆかりんの本名を知りませんでした! だから、あの……少しでも機転を利かせてあげたくて……」
「ふーん……しかしあくまでも青木直人の夢は『ゆかりんと両想いになる』ことだったはずだ」
「し、しかし本人は今、とても幸せにしております。それに青木様だけではなく西園寺さまも……」
「お前の私情を勝手に入れやがったな……私はお前に何を課した?」
「お客様のかなえたい夢をかなえて差し上げることでございます」
「言葉が足りないな……お前の任務は『客の言った言葉そのままの夢をかなえること』それだけだ!」
「す、すいません……」
「もういい、今度やったらどうなるのか……わかっているよな?」
「はい……」
「では早く次のターゲットのもとに行って来い。時代は今から四年前。だれかはわかっているよな?」
「はい……」
そう返事をしたあと夢子はポケットから金色の懐中時計を取り出す。そして針を何度も手で逆に回した。すると夢子はおろか店全体までもが現在から姿を消した。
時の空間に身を任せる夢子。夢子は目をつむり心を無心にしようとする。しかし目じりには涙がにじんでいた。
私はあのお方の玩具ですもの。何も逆らえはしません。私はあのお方の命令にただ従うだけの人形なんですから……でもあのこと、気づかれなくて良かった……
こんにちは、はしたかミルヒです!
ケース4直人&くるみ編 完結しました! 直人とゆかり、幸せになってよかったなぁ! しかし夢子とあの者の関係が気になりますね……
次回は、茜編をお送りしたいと思います。十二月中旬投稿予定です。
☆そしてそしてこの場を借りてお知らせいたします!
ドリームショップ これからの予定を立てましたので見てくださいまし(^o^)
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ではまた♪
ミルヒ




