第六話
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西園寺ゆかりがマネージャーとともに控室に移動したあと、私は直人にこんな質問をしてみた。
「直人、今プロ野球会で話題の金子ノボルっていうピッチャー知ってる?」
「何だよ? いきなり野球の話して」
「ほら先日のドラフト会議で強豪シャークスに一位指名されて話題になってる人いるでしょ?」
「あぁ」
「その金子ノボルと西園寺ゆかりって似てると思わない?」
「さぁ。俺、金子ノボルっていうピッチャーの顔、よく思い出せないし」
「そ、そっか……でも私、すっごい情報手にしちゃったの! 聞きたい?」
「別に」
「つ、つれないなぁ~。まぁでも教えてあげる。西園寺ゆかりと金子ノボルって……」
そして私は直人の耳元でその言葉の続きを囁いた。
「そう……」
「ビックリしたでしょ?」
すると直人はゆっくりと重い口を開いた。
「……くるみ……他人の噂して面白い?」
◆◆◆
「ワタルの部屋でのシーン、本番始めます!」
「よーいアクション!」
カチン!
あぁ、ゆかりん大丈夫かな? 体調悪化してないよね……倒れたりなんかしてないよね? 俺がボーッとしているとくるみが肘で突いてくる。その瞬間気づかされる俺。あっ、いけない! 今本番だったんだ!
「さぁ、みいたんのゲームしようぜ」(ワタル)
「えー? またそれー?」(萌絵)
「いつものと違うよ! これマジで面白いんだって!」(ワタル)
「ねぇ、ワタル……」(萌絵)
「なんだよ? 改まっちゃって」(ワタル)
「あのさぁ、私ね……ワタルのこと……」(萌絵)
「俺……のこと?」(ワタル)
萌絵の表情にドキッとなるワタル。
「ワタルのこと……ば使いっておもいろいろね! はははっ!」(萌絵)
萌絵の意味不明な言葉に目を丸くするワタル。
「え?」(ワタル)
「あ、いやぁさ、『さぁ、みいたんのゲームしようぜ』なんてカッコつけて言ってるくせに”みいたん”ってオタクっぽくて全然カッコよくないし! はははっ」(萌絵)
「別にカッコつけてるつもりは全然なかったんだけど……」(ワタル)
「そ、そう! だ、だよね~! はははっ……はぁ……」(萌絵)
ワタルの言ったことに対してから笑いをしながら返事をしたものの最後にはため息をついてしまう萌絵。
「カーーーーーーーーーット」
「何か今のシーン、甘酸っぱい青春の香りがしなかった? まるで私たち……」
カットがかかった途端、俺は直行でゆかりんのいる控室へと走る。くるみが俺に何か言っていたようだが、どうせまたどうでもいいことを言っていたのだろう。それより今はゆかりんのほうが大事だ!
「ちょ、ちょっと、直人ー!」
◆◆◆
あ、ゆかりんのいる控室……俺は緊張と不安の面持ちでドアの前に立ち軽く深呼吸をした後三回ノックした。
トントントン
ドアの向こうから男性の声が聞こえる。ゆかりんのマネージャーさんだろう。
「どうぞ」
俺はその言葉を聞いてドアを開ける。ドアを開けると座布団を枕にして横になっているゆかりんがいた。
「失礼します。ゆかりん、具合はどう?」
「青木くん……?」
「ゆかりんのことが心配で来たんだ。というか全然芝居に集中できなくて……はっ!」
俺はとっさに口から出てきた言葉に気恥ずかしさを感じてしまい、つい目を伏せてしまう。
「青木くん……優しいんだね」
そう言うと優しい微笑みを俺に投げかけてくれるゆかりん。
「なんだか私、青木くんの顔を見たら元気になっちゃった!」
「わー! なにそれ? カッコいい男子が来たら急に調子よくなっちゃって!」
ゆかりんのマネージャーさんがニヤニヤしながらゆかりんをからかっている。
「なっ! なに言ってるんですか?? 別に私は……」
「ハハハッ! いいって、いいって! 何も言わなくていい!」
「山本さんのイジワル~! ゴホッゴホッ」
ゆかりん、咳も出てきちゃってるよ……そう思い俺は心配でゆかりんの顔を覗いた。
「あれ? もしかして咳も出てきちゃった?」
するとゆかりんは急に顔を真っ赤にし唇を震わせさせ、そのあと――――
「ゆかりん?! え? え? しっかりして!! ねぇゆかりん!!」
「ちょ、ちょ、救急車!!」
ゆかりんは気を失ってしまった。でもなぜか口元は笑っていた……
◆◆◆
結局ゆかりんは風邪でダウンしてしまい、二日間の休みを取ることになった。ゆかりんのいないドラマ撮影。当然ゆかりんのシーンは後回しということになる。
「はぁ……」
俺は意味もなくため息をついてしまう。するとくるみが俺に声をかけてきた。
「どうしたの? ため息なんかついちゃって。幸せ逃げちゃうわよ」
「そう……だな……はははっ」
あぁ、そうだ、俺ずっとくるみに失礼な態度取ってきたから謝っておかないと……
「くるみ、なんかずっと俺、くるみに対して冷たい態度取ってて……ごめんな……」
するとくるみはハッとしたような驚きの表情を浮かべた。そしてそれをごまかすかのように笑いながら話す。
「え?! あ、いや、そ、そうだったっけ? ハハハッ、わーすれちゃったよ! ってかそんな過去のことは気にしなーい! ささ、スタンバろう!」
くるみ……くるみはニコリとし俺に笑みを投げかけながら撮影前の準備をする。
彼女はゆかりんのことが嫌いだ。いや、大嫌いなはずだ。それは俺がゆかりんのファンだからだろう。でも一つだけ言えること。それはくるみは俺のことをずっと昔からすごく好きでいてくれているということ……彼女はずっと一途に俺のことを思い続けてくれた。彼女のことは異性として見ることは正直、今の俺では難しいことなのだがいずれ彼女を女性として意識するときが来るのだろうか? その時が来たら俺は彼女になんて告白するのだろう……
「直人! なーに、笑ってるのよ? キモいぞ! 早くスタンバイ! 撮影始まるよ!」
◆◆◆
「ではワタルの告白シーンを撮りたいと思いまーす! 準備オーケーっすか?」
「では、よーいアクション!」
カチン!
学校の帰り道、いつもの通りワタルと萌絵は一緒に同じ道を帰る。
「最近寒くなったよね~。もうマフラーしないと首元が寒くって」(萌絵)
空を見上げぼそりと返事をするワタル。
「そう……だな……」(ワタル)
「ねぇ、もしかしてみいたんマフラーや手袋もあったりする?」(萌絵)
「かもな……」(ワタル)
そんなワタルの素っ気ない返事に訝しげな表情をする萌絵。
「ちょっとー、いつものノリはどうしたのよ? なんか冷たいな~」(萌絵)
そう言いながら萌絵はワタルの顔を覗く。すると急に顔を真っ赤にして視線をそらすワタル。
「いや、別に……」(ワタル)
「何顔赤くしちゃってんのよ? 態度は冷たいくせに顔は赤いってへーん! (笑)」(萌絵)
萌絵のその言葉に耳まで赤くなるワタル。
「……」(ワタル)
「ワタル? やっぱり今日、なんか……変だよ……?」(萌絵)
ワタルは足を止め、意を決して萌絵の名前を言う。
「も、萌絵! あ、あのさ!」(ワタル)
急に足を止めたワタルよりも数歩前に出ていた萌絵の背後から急に大きな声を出してきたワタルに萌絵はビックリする。そして萌絵も足を止める。
「きゅ、急に何?!」(萌絵)
「俺、も、萌絵に伝えたいことがあるんだ……」(ワタル)
「きゅ、急に改まっちゃってどうしたのよ? やっぱり今日のワタルおかしいよ~」(萌絵)
そういいながら萌絵もなぜか頬を赤く染める。
「お、俺……最近萌絵のことがずっと気になってて……なぜかわからないけどみいたんよりも……」(ワタル)
「え……それって……」(萌絵)
「だから……だからあの……」(ワタル)
その言葉にゴクリと音を立ててつばを飲み込む萌絵。
「俺は……萌絵のことが……」(ワタル)
ワタルはスー、ハーと深呼吸をしそれから――――
「好きだーーーーーーーー!!」(ワタル)
そう言うとワタルは萌絵に目も合わさずにその場から走り去って行った。萌絵はワタルの急な告白にただただ呆然としていた。
「……ウソ……でしょ……」(萌絵)
「カーーーーーーーーーット」
「良い! すごく良かったよ! 二人の演技! まるで本当にお互いのことが好きな感じがものすごーく出ていたよ!」
「ありがとうございます! でもそれはくるみの演技が良かったから……」
そう言いながら俺はくるみの方をちらりと見た。が、くるみはカットがかかってもその場から動かずにずっと硬直していた。
「くるみ? おーい!」
「……ハッ!」
俺はくるみのそばまで近づく。
「何ボーッとしてんだよ? もうカットかかったよ」
「……夢みたい……」
「え?」
するとくるみはその場から走り去ってしまう。まるで俺が数分前まで演じていたワタルのように……
しかしくるみが急に走り去って行ったので監督は慌てている。
「ちょっと! くるみちゃーん! どこいくんだよー?! おいナベ、早くくるみちゃんを捕まえてこい!」
「あ、はい!」
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直人……この気持ち絶対に忘れたくない。だから……だから……邪魔者は消す!
つづく
こんにちは、はしたかミルヒです!
第六話を読んでくださりありがとうございます! くるみちゃん、この展開は、エリカと同じじゃありませんか? こんなことやってたらエリカ同様にとんでもないことになっちゃいますよ? くるみちゃん、目を覚まして~!
ってなことで次回は、ゆかりんに大変なことが起こるのか?!
お楽しみに♪
※土日は朝7時に投稿いたします。




