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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース4:両想いになりたい(直人&くるみ編)
42/109

第五話

◆◆◆


 月曜日、俺はドラマの撮影に入るために朝早くからスタジオ入りした。


「直人、おはよっ!」


 俺がスタジオ入りして一番に声をかけてきたのは俺の幼馴染で日本のトップアイドルでもある横山うめ……いや、くるみ。


「おう、おはよ!」

「ドラマ初共演だね! それに直人、初主演なんでしょ? お互いにがんばろーね!」

「そうだな! でもくるみがいるから心強いよ」

「ほんと? 心強いって……」


 くるみは頬を朱色に染め、両手を頬に当て、上目づかいで俺を見ながら聞いてきた。


「あぁ、やっぱくるみがいると安心もするし……」

「うふっ。私も直人がいると心強い……そ、それにドラマ初共演で恋人役ってなんだか運命的なもの感じるよね?」

「でもワタルと萌絵って幼馴染って設定だよね?」

「そうよ! でものちのちお互いに惹かれあって両想いになるじゃない! 私、今日の撮影のためにこの漫画全巻買って読んだのよ!」

「俺も姉貴の影響でその漫画のファンだけど、最近忙しくてまだ全巻読んでないんだよ」

「じゃ、じゃぁ、私が貸してあげるわ!」

「でもさ、ってことは最終的にワタルと萌絵がくっつくんだろう? それじゃぁ、王道過ぎるよなぁ~。あぁ、姫子とくっついて欲しかったのに……」


 俺はつい両手で頭を抱えて天を仰いだ。しかしくるみは俺の意見に反論する。


「私は王道でもいいと思うわよ! というかラブコメに意外性なんて誰も求めていないと思うけど」

「そうかなぁ……?」


 そんなことをくるみと会話している時、スタジオのドアがゆっくりと開かれた。くるみはまだしゃべり続けている。ドアを背にしているために気づいていないのだ。その女性はドアから顔だけをのぞかせてキョロキョロとあたりを見回したあとマネージャーに促されてスタジオ入りする……


「……ってことじゃない? ちょ、直人! 聞いてる?」


「ゆ、ゆ、ゆかりん?!」


 俺は思わず声を上げた。


「え?」


 その俺の声に思わず後ろを振り向くくるみ。


「な、な、なんで?!」


 くるみは目を丸く見開き驚きの表情を隠せないでいる。その時、監督がゆかりんのそばまで行き彼女を紹介した。


「皆さん、『萌え燃えしちゃっていいですか?』の新たな姫子役に選ばれました、ゆかりんです!」


 ゆかりんは顔を真っ赤にし恥ずかしそうにしながら共演者やスタッフに挨拶をする。


「み、みなさま、は、初めまして、ゆかりんです。い、色々とご迷惑をかけるとは思いますが……今日からよろしくお願いします!」


 最初はもじもじしながら小さい声で話していたものの最後には大きな声でしっかりと挨拶をし頭をペコリと下げるゆかりん。そのしぐさが何とも可愛らしかった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 しかしゆかりんの挨拶が終わったと同時にくるみが待ったをかける。


「わ、私何も聞いていないんだけど、一体どういうことよ?! 姫子役は夏目優香って聞いてたんだけど。違うの?!」


 嬉しくはないのか、なぜかくるみは監督に詰め寄りその答えを監督に求めた。すると監督は申し訳なさそうにくるみの質問に答える。


「実は、姫子役だった夏目優香ちゃんは重度のインフルエンザにかかってしまったために、入院してしまったんだよ。退院するまで待とうか悩んだけれど、そんなことしたら、ドラマの放送に間に合わなくなるから、優香ちゃんには申し訳ないんだけど代役を立てることにしてさ、それでゆかりんにやってもらうことになったんだ。まぁ、急きょのことなのに出演OKしてくれたゆかりんにはほんとに感謝してるよ」


 そう言うと監督はゆかりんの顔を見て、にこりと笑った。ゆかりんは監督の言葉に「いえいえ」と謙虚な姿勢で手を左右に動かす。しかし監督の答えに納得のいっていない女性がただ一人……


「だ、だからって言って、なんでそんな誰も知らないコスプレアイドルなんかを起用するんですか?」

「いや、ゆかりんは今、オタクの間で注目を集めるアイドルの一人だよ。それにくるみちゃんだってその様子だと彼女のこと知ってるってことだよね?」

「い、いや、それは……」


 さっきの勢いはどこへ行ったのか、監督の発言にくるみは目を伏せ床を見る。そして監督は話しを続けた。


「あぁ、ちなみにゆかりんは大のくるみちゃんファンなんだそうだ。そうだったよね?」


 監督の問いかけにゆかりんは恥ずかしいのか再び頬を染め俯きながらもゆっくりゆっくりと答える。


「は、はい……わ、私はくるみちゃんのようになりたくてアイドルを目指してきたんです……今でもく、くるみちゃんは私の目標です……だ、だから今ここにくるみちゃんと私が一緒にいることは奇跡みたいで……」

「そう」


 くるみはゆかりんの顔を見もせずに素っ気ない言葉で返した。俺はそんなくるみの態度に嫌悪感を抱いてしまった。


「早く、撮影始めましょうよ」


 くるみが監督の方を向き撮影の開始を促す。


「そうだな。よし、やるか!」

  

■■■


「カーーーーット!」

「お疲れさまでーす」

「はぁ、最初のシーンだけどなぜだか緊張しなかったわ!」


 そう言った後、私は直人の顔を見つめた。やっぱり何度見てもカッコいいわ……


「…………」

「え?」


 しかし直人は撮影が終わったのと同時に私の顔を見向きもせずにさっさとセットから降りてしまった。なんかいつもと様子が違う……そう思い、私は直人の後を追う。


「なお……と……」


 私はつい語尾を弱めてしまった。なぜなら直人は西園寺ゆかりのそばまで行き彼女に何か話しかけ始めたのだ。私は二人の近くまで行き、その会話をとりあえず聞いてみることにした。


「ゆ、ゆかりんさん! 俺、青木直人って言います! は、初めまして!」

「は、初めまして……ゆ、ゆかりんと申します……」


 なぜか二人とも視線も合わせずにもじもじしながら自己紹介をしていた。


「あ、あのぉ、俺、ず、ずっと前からゆかりんのファンで……」

「え?! わ、私のふぁ、ファン?」


 西園寺ゆかりは目を丸く見開き口に両手を当てて驚いている。なんかもう我慢できない! 何なの?! 二人でイチャイチャしちゃって? 私は我慢の限界に達し、二人の会話に割って入ろうと思ったとき、スタッフの一人が声を出す。


「教室でのシーン取りますのでスタンバイお願いしまーす!」

「ゆ、ゆかりん、つ、次のシーンから姫子も登場するからね。一緒に楽しもうね!」

「は、はい!」

■■■

「では次、教室でのシーンいきまーす! スタンバイオッケーっすか?」


 ふん、どうせ演技なんてやったことないド素人。みんなの前で恥をかけばいいわ! ん? あのエセアイドルは何やってるの? 何かブツブツ言ってる……私は彼女の背後から声をかけた。


「ねぇ、本番始まるんだけど!」

「はっ!」

「準備は出来ているんでしょうね?」

「あ、はいOKです!」

「では本番行きまーす! 教室でのシーン、よーいアクション!」


 カチン! 


 ガラッ


 教室の戸を開け、ワタルと萌絵が同時に入ってくる。


「おはよう」(ワタル)

「おはよー!」(萌絵)


 教室の窓際で女子たちが会話。


「最近、あの二人一緒に登校してくるわよね?」(女子A)

「萌絵がワタル様の家に毎日迎えに行ってるらしいわよ!」(女子B)

「ほんと?! 何様のつもりなのかしら? 姫子さんもそう思いま……」(女子C)


 女子たちが姫子の顔を見て血相を変える。


(さぁ、西園寺ゆかりの初演技、見せていただきましょうか。フフフッ)


「あ、あのアマァ……よくもワタクシを差し置いてワタル様と……!」(姫子)

「……姫子さん?」(女子A)


 姫子、大きい声で叫ぶ。


「許せませんわ!!」(姫子)


 みんな姫子に注目。姫子はツカツカと萌絵とワタルのもとに近づく。


(う、うそでしょ……本当に初めての演技なの……?)


「ちょっとそこのボブヘアのオンナ!!」(姫子)

「え? わ、わたしのこと?」(萌絵の後ろにいた牛乳瓶厚底メガネのモテない女子)


 ちょっとあっけにとられながらも仕切り直して萌絵に指差す姫子。


「……ちがーう! あなたよ! 萌絵さん!!」(姫子)

「私……ですか?」(萌絵)

「はっきり言わせていただきますわ! ワタクシのワタル様にちょっかい出さないでいただきたくてよ!!」(姫子)

「ちょっかい?」(萌絵)

「そうよ! ゴキブリのように毎日ワタル様の近くをウロチョロしてるでしょ? ワタル様が迷惑していますわ!!」(姫子)

「そうなの? ワタル?」(萌絵)

「いやぁ、別に、萌絵のことなんて気にも留めてなかったけど……」(ワタル)


 ワタルの言葉にショックを受ける萌絵。


「え……?」(萌絵)

「ほ~ら、ごらんなさい! ワタル様はあなたに興味が全くなくってよ! ワタル様にとってあなたは虫以下なのよ! オーホッホッホ!!」(姫子)


 真面目な顔で言葉を発するワタル。


「あの……俺は……みいたんがいれば幸せなんだ!」(ワタル)


 ひどく動揺する姫子。


「み、みいたん? だ、誰でございますの? みいたんって誰ですのよー??」(姫子)


 頭を抱え込む萌絵。


「はぁ、またそれか……このオタクが……」(萌絵)


「カーーーーーーーーット!」


 カチン!

 

 あの子なかなかやるわね……私はつい西園寺ゆかりの演技に関心してしまった。正直初めてとは思えないほどの演技だったからだ。そのことを悔しいけど伝えたい気持ちの方が勝って私は彼女に声をかけるつもりだったのだが……


「ゆかりちゃ……」

「ゆかりん!!」


 な、直人? 


 私が西園寺ゆかりに声をかけるのと同時に直人も彼女に声をかける。直人の方が声が大きかったので、私の声はかき消される形となってしまった。


「ゆかりんの演技めちゃめちゃ良かったよ! まさに姫子そのものだね!」

「あ、ありがとうございます……」


 ちょっと直人に褒められたからって何照れてるのよ……ムカつく! 少しでもあんたをほめようとした私がバカだったわ。


「お、俺さぁ、姉貴の影響で原作の漫画のファンになっちゃってさ、かなりハマっちゃってるだけど、姫子のキャラ、結構好きなんだよね! だからゆかりんの姫子を見た時、かなり驚いたよ!」

「そ、そうなんですか?! 実は私も姫子のぶっ飛んだキャラが好きで……姫子の行動ってなんだか憎めませんよね!」

「ねぇ、ところでその髪ってカツラ?」


 私の耳には二人の楽しそうな会話が聞こえてくる。直人があんなに楽しそうに笑ってる……なんで……私は直人を満足してあげれないの? どうして西園寺ゆかりに熱を上げてるの? 彼女の魅力は何? 私と一緒に過ごした時間は直人にとってはつまらないものだった? 彼女といる方が楽しい? 私はずっと直人だけを見てきたっていうのに! 

 私にはその光景が我慢ならなかった。これ以上二人を一緒にさせると、直人は完全に西園寺ゆかりのものになってしまう。危機感が募る。


「直人! 次の撮影始まるよ! 早くスタンバんないと!」


 私は直人のそばに行き背中をポンッと押しながら準備を促した。


「おう……わかってるよ。ゆかりんは?」

「あ、次のシーン、わた……」

「次のシーンは私と直人だけだよ! 早く早く!」


 私は彼女の声を遮るように声を張り上げて直人に話す。


「二人ともがんばってくださいね!」

「おう!」


 誰に向かって励ましてんのよ? 私はあんたより先輩なのよ? 日本一のアイドルなのよ? あんたになんか励まさせるほど私は落ちてないわ!


「……」


 私はそう心の中で思いながら返事の代わりに彼女に冷たい視線を送った。

 直人はあんたになんか絶対に渡さない!

 

「直人、今日の撮影終わったら一緒に食事しにいかない?」

「……行かない」


 やっぱり直人、私に冷たい……私は訝しげな表情を浮かべ直人の顔を覗くようにして尋ねてみた。


「なんか~、直人、私にだけ冷たいんですけどぉ! それってレディに対して失礼だと思いません?」

「君がゆかりんにしてる態度のほうが冷たい気がするけど」


 直人は間髪入れずに私に対して冷めたように目つきで答えた。今まで見たことない直人のあの目つき。私はそれがショックで黙りこんでしまう。そのあとはずっと無言だった。直人とたくさんしゃべりたいのに、今、直人の顔を見ると怖くて話しかけれない……そしてそのまま次のシーンが始まる。


「次のシーン始めまーす! スタンバイオッケーっすか?」

「では、ワタルと萌絵の放課後のシーンいきまーす! よーいアクション!」


 カチン! 


 撮影は順調に進んだ。直人もカチンコの音とともに冷めた表情を穏やかなな表情へと変化させる。でもそれは私に対しての表情ではない。あくまでも萌絵に対しての表情だ。寂しい。すごくすごく寂しい……直人が私からどんどん離れて行っている気がする。こんなこと私は望んでなんていなかったのに……


「カーーーーーーーーーット」


 その言葉が言い終わると同時に監督が私に話しかけてきた。


「くるみちゃんどうしたの? 終始表情が暗い感じがしたんだけど……」

「すいません……ちょっと……あ、もしかして今のシーン、やり直しですか?」

「やり直しにはしないけれど、体調が悪いのであれば、先に別なシーンからとることもできるよ?」

「いえ、大丈夫です。別に体調が悪いわけではないので」


 その時、直人がセット下の休憩場所から監督に呼びかける。


「監督! ゆかりんが体調悪いので控室まで連れていきます」

「体調が悪い? 大丈夫か?」

「病院に行った方がいい気もしますけど、とりあえず様子を見てみると本人が言っているので……次のゆかりんのシーン後回しにすることはできますか?」

「お、おぉ。もちろんだよ。ゆかりん、無理しないでよ」

「はい……なんか迷惑かけちゃってすいません……」


 西園寺ゆかりが直人の肩にもたれながら申し訳なさそうにしている。でも……でも、なんで直人がわざわざ控室まで連れて行ってあげなくちゃいけないの? 私はムカムカしながらこう口にした。


「ちょ、ちょっと直人、待ってよ!」

「なに?」

「い、いや、この後すぐ本番はいるよ?」

「すぐ戻るから。先にゆかりんを休ませてあげないと!」

「そ、そんなのマネージャーに任せればいいんじゃないの……?」

「ゆかりんのマネージャーさん、どこにいるのかわからないんだよ」

「ど、どういう意味よ?!」


 その時、西園寺ゆかりが言葉を発する。


「あ、青木くん、私なら大丈夫。一人で行けるから……だから早くスタンバイして?」

「いや、でも……本当に大丈夫?」

「あ、ほらマネージャーの山本さん戻ってきたし! 山本さーん! ね、だから青木くんは私じゃなく撮影に集中して」

「あぁ、そう……で、でも無理しないでね。早く元気になってね。俺、ゆかりんの演技大好きだから……」


 そういうとなぜか直人は頬を赤く染めた。それにつられて西園寺ゆかりも頬を赤らめる。何なのよ……本当に……この二人が仲良くなるなんて許せない……直人は私のものよ! 


「直人、早くしてよ! 撮影始まるよ!」


 私は待ちかねて直人の腕を引っ張る。直人は彼女を名残惜しそうに見つめながら手を振った。


「じゃ、じゃぁ!」

 

 つづく

こんにちは、はしたかミルヒです!

夢の中に入りましたね。くるみちゃん、キャラがエリカとかぶってるんですが、二人の違いは何なんでしょうか……(/ω\)

さて第五話を読んでいただきありがとうございます!

次回、ゆかりとノボルの関係がわかっちゃうかも……

お楽しみに♪

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