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ドリームショップ ~あなたはどんな夢を買いたいですか?~  作者: はしたかミルヒ
ケース4:両想いになりたい(直人&くるみ編)
41/109

第四話

■■■


「お帰り、梅子」


 しゃもじを手にくるみを出迎える母親の華子。


「ちょっと、その名前やめてって言ったでしょ」


 そう言うとくるみはしかめっ面で近くのソファにバッグを投げつけた。


「どうしたの? そんな顔して。青木君とデートしてたんでしょ? 何かあったの?」

「何にもないわよ! それよりもおなかすいた!」

「それならいいんだけど……あっ、待ってね。今、梅子の好きな炊き込みごはん、よそうから」

「だからその呼び方やめてってば!」


(あー、なんかむしゃくしゃする!)


 そう思いながら食卓テーブルの椅子にドンと座りスマートフォンをいじるくるみ。


「ほら、ごはん。お味噌汁も飲むでしょ? 豆腐のお味噌汁だけど」

「あぁ、うん」


 華子の顔も見ずにスマートフォンの画面を眺めるくるみ。その画面に映っていた写真は――――


(こんなに好きなのに……直人……なんで……?)


「梅……子?」

「だーかーら! その呼び方!!」


   ■■■


 コンコンコン


 ノックの音が直人の部屋に響き渡る。


「どうぞ!」


 直人の言葉を聞いてゆっくりと部屋の戸を開ける。


「直人……いま大丈夫?」


 その問いかけに振り向き笑顔で答える直人。


「うん。もちろんだよ、姉貴」

■■■

「夕食のときはありがとね」


 芽衣子はぬいぐるみのルルを手に抱えながらベッドに腰を下ろし、直人に礼を言った。


「べつに礼を言われるようなことはしてないよ」


 そう言いながらも勉強机の椅子に座りパソコンの画面を見ながら笑みを浮かべる直人。


「でも私ってお母さんの言う通り本当ヘンだよね……」

「そう……かな?」


 直人はそこで椅子をくるりと回し芽衣子のほうに体を向けた。


「だって私、友達も全然いないしそれに……」


 そう言いながら芽衣子はルルを見つめる。


「姉貴は友達、欲しいって思うの?」

「いや、そういうわけでも……」

「自分がそう思わないならそれでいいじゃん。ルルと一緒にお話ししたり、買い物したりするのが楽しいんだろ?」


 直人は芽衣子の手の中にあるぬいぐるみのルルをそっと自分の手に取り笑顔でルルを見つめる。


「でも私……普通の人とは違う……普通の人はこんなことしてない……でしょ……?」

「なぁ姉貴、普通って何だと思う?」


 直人は芽衣子の目を見つめる。その直人の視線に目をそらし俯き戸惑いながら芽衣子は答えた。


「普通って……普通って言うのは……常識的なこと……かな……」

「その常識って誰を基準にしてるの?」

「誰って……一般的な考えを持った人たち……」

「一般的な考えって何? どうしてみんな一緒の考えじゃないといけないの?」

「そ、それは……」

「姉貴、攻めてごめん。そうなんだよな……同じ考えを持っている人たちの中に一人でも違う考えを持っている人がいればその人を排斥する。ほとんどの人間ってのが排他的な集団なんだよ。まぁ、そう教育されたからね。特に普通の考えでは~とか、常識では~とか言っている人は出る杭を打つコミュニストだ。みんな同じ考えを持たなけならないなんてナンセンスな話だよ……」


 そう言ったあと直人は芽衣子にルルを返した。


「ルルと一緒にいて幸せならずっとそうしたほうがいい」


 そして直人は芽衣子に再び笑みを投げかける。


「直人……」


 芽衣子の目には涙があふれている。その芽衣子の顔を見た直人はふっと微笑を浮かべ椅子からガタリと立ち上がり両腕を目一杯上げる。


「だから俺も一生オタってやるーーー!!」


 その時、直人のジーンズのポケットからカランと何かが落ちた。


「これ……なに?」


 芽衣子はそれを拾い不思議そうにそれを見つめる。


「あぁ、これは俺の願いをかなえる夢の液体」

「夢の液体?」

「これを飲めば、ゆかりんと両想いになれるんだ」

「ゆかりんってコスプレアイドルの?」

「そう、コスプレアイドルのゆかりん」

「それってほんとのこと?」


 そう言いながら夢の液体が入った小瓶を直人に返す芽衣子。


「今日、ドリームショップっていう店に入ったんだけどその店は客のかなえたい夢をなんでもかなえてくれる夢の液体を売ってる店なんだ。信じられないと思うけど実際にそういう店があったんだよ。それでこの液体を手に入れたってわけ」

「へぇ……そんな不思議な店があるんだ……」


 直人の言ったことを聞いた芽衣子は感慨深げな表情を見せた。


「姉貴はどんな夢をかなえたい?」

「私は……」


 そう発したあと芽衣子は手に持っていたルルに視線を移した。そして彼女はこう言う。


「ルルをくれた友達にもう一度会いたい……」


■■■


(どうしよう? 直人にメールしたいけど、あんなこと言って帰っちゃった手前、なんか気まずいよね……)


 くるみはリビングにあるソファに寝転がりながら直人にメールを送ろうかどうか迷っていた。


「じゃぁ梅子、母さんもう帰るからね」


 そう言いながらエプロンをたたみ帰り支度をする華子。


「くるみだってば! え? ってかもう帰るの? 今日は泊まっていくんじゃなかったっけ?」


 くるみは体を起こすとスマートフォンから華子へと視線を移す。


「明日朝早くに本宮様のところに行かなくちゃいけないのよ」

「私よく理解できないんだけどそんな奴隷みたいな仕事して楽しい?」

「奴隷なんかじゃないわ。人に奉仕する仕事よ。母さんは誰かの世話するの好きだし、まぁ、人の役に立ちたいのよ」


 華子は笑みを浮かべながらくるみにそう答える。


「人の役に立ちたいねぇ……」


 頬に手を当て不可解な表情を浮かべながらくるみは再びスマートフォンの画面を覗く。


「くるみも大人になればわかることよ。じゃぁ、行くわね」

「私、もう十九なんですけど! わかった。気を付けてね」 

「あっ、余った炊き込みご飯はおにぎりにしておいたから明日、レンジでチンして食べてね」

「はいはい、わかりました。じゃぁね」


 くるみはスマートフォンの画面を見ながら華子にその場で手を振る。華子はスマートフォンに夢中のくるみの横顔を見て微笑を浮かべながら家を出た。


 バタン


 この部屋の空間に急に静けさが漂う。その静けさを紛らわすためくるみはテレビのリモコンに手を伸ばし、スイッチを入れる。


 ピッ


(やっぱりメールは明日しよう……)


 そう思い、雑誌をめくりながら何気なくテレビの番組を見流しているととある人物がくるみの目に入った。その衝撃に思わず身を乗り出してしまう。


『本日のゲストは今大注目のこの方、コスプレアイドルのゆかりんです!』

『こんにちにゃ~、コスプレアイドルのゆかりんだよ~♪』


 口をポカンと開け目を丸く見開くくるみ。


「な、なんでこんなマイナーなアイドルがテレビに出てんのよー?!」


 焦ったくるみはすぐさまチャンネルを確認する。


「あ、CSのチャンネルか……」


 少しほっとしたようで胸をなでおろすくるみ。


「はぁ……これで地上波だったら、テレビ局にクレームを入れるとこだったわ……」


 その時、ふと何かを思い出す。


「ん? あっ! でも焦る必要もないのか……」


 そう言うと、バッグから真っ赤な液体が入った小瓶を取り出す。


「これを飲めば、直人は……私の直人になるんだものね……フフフッ」


■■■


「早くしないと、番組終わっちまう!」


 直人は風呂から上がって素早く体をふき、すぐさまパンツ履き、Tシャツを着ると、全力疾走で二階にある自分の部屋へと向かう。


「直人、そんなに急いでどうしたの?」


 階段で母親の美智子とすれ違うが直人は目もくれずに自分の部屋へと突き進んだ。


「ちょっと、直人! ……一体どうしたのかしら?」


 そんな直人の後姿を美智子は首をかしげ訝しげな表情を浮かべながら目で追っていた。

  ■■■

 自分の部屋の戸を勢いよく開け、すぐさまリモコンを手にし、電源を入れる。そしてリモコンのCSボタンを押すと、記憶しておいたチャンネルを入力し、すぐに視線を画面に映す。


『ではゆかりん、最後に一言!』

『応援してくれたみんな、どうもありがとにゃ!』

『はい! 今夜のゲストはゆかりんでしたー! どうもありがとう。また遊びに来てね!』

『もちろん、あそびにいきまーす!』

「はぁ~、うそだろ……もう終わっちゃったよ……ゆかりん初テレビ出演なのに……」


 ガクリと肩とリモコンを落とし、うなだれる直人。


「まぁでも……」


 直人はそう言うと机の上に置いていた夢の液体が入った小瓶を手に取る。


「これを飲めばゆかりんの笑顔が毎日見れるのかも……」


 直人は優しい笑顔を浮かべながらその小瓶を見つめていた。


■■■


「よし、お風呂入ったし、歯も磨いたし、あとはこの液体を飲むだけね!」


 そしてくるみは夢の液体の入った小瓶のふたを開け飲もうとしたちょうどその時くるみのスマートフォンの着信音が音を奏でた。


「もーう、飲む直前で電話してこないでよね!」


 ぶつぶつと文句を言いながらくるみはスマートフォンを手に取り、通話ボタンをタッチした。


「もしもしぃ?」

「あっ、くるみちゃん、加賀ですけど、いま大丈夫?」

「早く終わる話?」

「そんなかったるそうに喋んないでよ! 早く終わるも何もドラマの話だよ! ド・ラ・マ!」

「ふ~ん、そのドラマ、もちろん私が主役でしょうね?」

「う~ん、今回くるみちゃんは主人公ではないんだけど……でもヒロイン役だよ」

「主人公じゃないわけ~?! やる気失せる~」

「そっか。主役は青木直人くんで、ヒロインはくるみちゃんだったんだけど……」

「え?! 主人公は直人? 直人なの?!」


 マネージャー加賀のその言葉を聞いた途端くるみは目を輝かせ声色まで変える。


「うん。でもくるみちゃん、主役がいいんだよね? それにこのドラマ、深夜枠だし。じゃぁ、残念だけど先方に断りの電話入れて……」

「ちょっと待った! 誰が断れって言った? もちろん私、その話引き受けるわよ!」


 加賀の話しを途中で遮り、くるみは喜色満面で言葉を返した。


「え? でもさっきくるみちゃん、主役じゃないと! って言ってなかった?」

「そ、それは冗談よ! と、とにかくこのドラマに私出演するから! 先方にちゃんと言っておいてよ!」

「かなり本気で発言していたような……まぁ、わかった。じゃぁ、この件は承諾っと……」

「じゃぁ、私寝るから切るね。バイバイ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! あと一件あるんだ」

「何よ? 私眠いんだから、早く言ってよ!」

「今期待の新人アイドルたちの番組がCSで始まるんだけど、その第一回目のゲストにくるみちゃんが選ばれたんだよ!」

「ふ~ん」


 大して興味がなさそうに返事をするくるみ。


「それでオファーが来てるんだけど……どうかな?」

「ギャラ次第で出てあげてもいいど、CSの番組だからそんな高くないんでしょ?」


 『断って!』と言わんばかりの態度でくるみは加賀に尋ねた。


「くるみちゃんってばギャラの話するなんて、ちょっとあざといよ~」

「だってそれで生活してるんですもの! 仕方ないでしょ!」

「まぁ……確かに地上波での出演料よりは高くはないよ。でもくるみちゃんたちの後輩がたくさん出演するんだからさぁ、応援する気持ちで出るのもいいんじゃない?」

「例えば誰が出るのよ?」

「えぇっと、ちょっと待って……」


 そう言いながら加賀は資料を目にする。


「水野りんちゃん、鈴木春乃すずきはるのちゃん、レイチェルちゃん、矢野明菜やのあきなちゃん、あ、それから大女優、夏目静なつめしずかの娘で今もっとも期待されているアイドル、夏目優香ちゃん。あとそれから……」

「もういいわよ~! そんなに言われても名前と顔一致しないし。まぁ、夏目優香とレイチェルくらいは知ってるけど」

「あ、あと今話題のコスプレアイドル、ゆかりんって知ってる? オタクたちの間で熱烈な支持受けてるらしいんだよ」


(ゆかりんって……)


 くるみは頭にゆかりんの顔が浮かぶもそれを隠すかのように怒涛の勢いで話す。


「し、知らないわよ、そんなアイドル! ってかコスプレアイドルってアイドル枠の中に入っていいわけ? そんな素人、テレビに出していいの? それだったら街中に歩いてるちょっと可愛い子に声かけて出てもらったほうがまだマシじゃない! とにかく私はそんな人、知らないんだから!」

「そんなに知らないこと主張しなくても……それで出演オーケーしてくれるの?」


 加賀は苦笑いを浮かべながらもくるみに出演してくれるのかどうか尋ねた。


「そのコスプレアイドルだかが出ないんだたったら出演してあげてもいいわよ」

「そんなぁ~! でも彼女のこと知らないんだろ? 知らないのに何でそんなに嫌うのさ?」

「べ、別に嫌ってなんかいないわよ! ただコスプレアイドルと普通のアイドルを一緒にして欲しくないの! それだけよ!」

「はいはい、そうですか……じゃぁ、この件は残念だけど断るよ」


 加賀は苦笑し半ば諦めた表情を浮かべくるみの意見を飲んだ。そんなくるみは加賀の挨拶も聞かず一方的に電話を切る。


「じゃぁ、私、寝るから切るわね。じゃぁね!」


 ピッ


「はぁ、話長くて疲れちゃった……早く、あれを飲んで寝なきゃ」


 そう言うと再び小瓶を手に持つくるみ。そして――――


 ゴクリ


「の、飲んじゃった……三百万の液体飲んじゃった……」


 そしてくるみは体に異変があるかどうか調べる。


「何も異変はなさそうね……でもある意味不安だわ……これで普通の夢見たら、あの店員にすぐ三百万円返してもらうんだから!」


 そしてくるみはベッドに入り、電気を消した。しかし窓からの月明かりで真っ暗にはならなかった。眠気を誘う心地よい月光はくるみを夢の世界へといざなう。


「おやすみ、私の直人……」


■■■


「あれ? なんか甘酸っぱい……」


 黄色い夢の液体を直人はスーッと飲む。しかし思っていたのとは違う液体の味になぜか直人は空の小瓶をもう一度眺めた。


「他の夢の液体もこんな味なのかな?もっと苦いのかなぁって思ってたけれど。 例えばくるみの液体とか……」


 そう言うとふとくるみのかなえたい夢を思い出す。


「でもこれって本当にどうなるんだ? 俺はゆかりんと両想いになれる夢、くるみは……俺と両想いになれる夢……ん? もしかしてやっぱり俺って二股することになるのか……」


 直人はそう考えた途端、ガクリと肩を落とし何とも言えぬ罪悪感に胸を痛めた。


「俺、最低な人間になっちゃうじゃん……でももう液体飲んじゃったし……まぁ……」


 そう言うとスッと姿勢をもとに戻し、ポジティブに考えようと直人は気持ちを切り替える。


「未来の俺がどう動くかだよな。今の俺の信念が未来の俺にもあるならば、絶対に二股なんかしないはず……」


 夜の十一時を回り、直人はベッドに入った。少しばかり開かれたカーテンの隙間からひょっこりと月が覗いている。まるで直人の未来を見透かしているかのように月は直人の顔を照らしていた。


「未来の俺、頑張れ……」


 つづく

こんにちは、はしたかミルヒです!

第三話を読んでくださりありがとうございます!

ところでのちに活動報告で伝えようと思うのですが、ケース5~ケース10までの投稿日のスケジュールを報告しようと思いますので、よろしくお願いいたします。ケース5~10の主人公もわかっちゃいますよ♪

次回は、早くも夢の中に突入します。二人の未来はどのような未来になっているのでしょうか?

お楽しみに♪

ミルヒ

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